10 さーて、もうすぐ開店です
東広場に着いた。
ファーラが説明してくれたとおり、あんまり治安はよさそうじゃない。巡回している騎士以外に、細い路地の入口に立つ冒険者らしき人の姿が見えた。
「あの人も警備の人?」
「そうですね。冒険者ギルドのほうで警備の依頼が出ていたはずなので、それを受けた方でしょう。こうして立ってくださっているのは安心ですね」
「だね。私の魔法の出番はなしかな?」
「そのほうがいいと思います」
だよね。私、魔物の倒し方なら師匠に習ったけど、対人間の場合については何も習ってないからさ。
殺さずに無力化するって、案外難しいんじゃないかなって思っている。
人を殺すことに抵抗がないわけじゃないよ? 普通にあるけど、向こうがそのつもりで襲ってきたときに容赦するつもりはないし、最優先は自分の命だし?
場所が変わればルールは変わるってやつ、ちゃんと理解しているつもり。
――あの人のレベルとか装備とか、そういう情報知りたいなぁ。
ステータスは当たり前に秘匿事項だし、簡単に聞けることではないけど。
でも、装備としての装飾品を作っている人間としてはやっぱり気になるんだよね、そういうの。どういう人がどういうものを欲しがっているか、っていうのは。
これも市場調査の一つなんだけどな。
「ここが5番ですね。広場の入り口に近くていいと思います」
「私もそう思う。足を止めてくれる人が多いといいなぁ」
一つの露店に与えられたエリアは大体3メートル四方って感じかな?
背面に壁がある場合は、そこも自由に使って大丈夫らしい。私の後ろはちょうど建物の壁だった。近くに窓もないのでいい感じに使えそうだ。
両側にも露店用のエリアがある。
特に仕切りはないから、境界線のあたりはお互い譲り合って使う形になるんだろう。
どちらもまだ、出店者の人は来ていないみたいだった。
「本当はお手伝いしたかったんですけど、私、一度ギルドのほうに戻らなくちゃいけなくて」
「大丈夫だよ。案内してくれてありがとうね」
「また見に来ますので! あ、宣伝もしておきますからね!!」
ファーラはそう言うと、前に私があげた指輪をこちらに見せびらかすように手を掲げる。
嬉しそうな笑顔が眩しすぎて、私は思わず手で顔を覆った。
◆◇◆
――やっぱり、金貨10枚……高くないかなぁ。
自分の露店を準備しながら、こっそり両隣の露店をチェックする。
右隣の露店にはご婦人向けのアクセサリーが、左隣の露店には革製の小物が並んでいた。どちらも結構いい品に見える。
だけど、どれも金貨1枚にも届かない、リーズナブルなお値段設定だった。
――こっちの革小物の材料って、やっぱり魔物なのかな。
値段を調査していたはずなのに、気づけば商品のほうに釘づけになっていた。
だって、なんか珍しい見た目のものがあるんだもん。
表面が岩みたいにごつごつした見た目の革。
お財布みたいだけど、あれって使いにくくないのかな。
「何か気になるものがあるかい?」
「あ、すいません」
話し掛けられてしまった。
革小物の露店のほうは、どうやらご夫婦のようだ。旦那さんが並べた商品に奥さんがせっせと値札をつけている。話しかけてきたのは旦那さんのほうだった。
「面白い見た目の革だなぁ、って」
「気になってるのはこれだね?」
「あ、はい。やっぱり珍しい革なんですか?」
「わしらが住んでる辺りじゃよく見かける魔物なんだけどね。王都のほうでは珍しいからか、よく聞かれるんだよ。まあ、使い勝手はよくないから全然売れないけどね」
――そっか。客寄せ的な感じか!
なかなか面白いやり方だと思う。
売れる売れないの前に、まずは足を止めてもらうっていうのは大原則だし。
――私も一番高くて効果がやばいやつ、目立つところにディスプレイしたほうがいいかなぁ。
悪目立ちしそうな気もするけど。
ううん。難しい。
「お前さんの商品はどれもすごい代物だなあ……」
「こら、あんた。勝手に触るんじゃないよ」
「おお、すまん。ちょっと気になってな」
「大丈夫ですよ。もし気になるものがあればおっしゃっていただければ」
「いーやいや、そんな高価なものに手が出せるほど、うちは裕福じゃないんだよ――だけど本当、うっとりするぐらい素敵なものばかりだね」
ちゃきちゃきした話し方のおばさまだ。
はっきりとした物言いが、聞いてて気持ちいい。
「これは、普通の装飾品じゃないのかい?」
「どれも付与効果のついたものになります。なので、どちらかといえば冒険者の方向けかな……と」
「それを聞いて安心したぜ、嬢ちゃん。お隣で商売敵かと思っとったわ」
反対側からも話し掛けられた。
ご婦人向けのアクセサリーを並べている露店の店主だ。
こっちは見るからに商人って感じの人だった。行商人ってやつなのかな。日焼けした浅黒い肌で、口元にはくるりんとした髭を蓄えている。
「そちらも素敵ですね。私、こういうのも大好きです」
「いやあ、嬢ちゃんのものを見た後だとどれも劣る気がするがね。これが冒険者向けとはな……ちょっと惜しい気持ちもあるな」
「惜しい、ですか?」
「ああ。ご婦人方も気に入るんじゃないかってね。まあ、今回は客層が違って助かったが……いい仕事をする職人と繋がってんだなぁ」
「あ、これ全部私が作りました」
「……は? これを、嬢ちゃんが?」
――そんなぽかーんとした顔させるほど、意外でした??




