07 試作品お披露目
目を覚ますと、室内にあの少年の姿はなかった。
作業場で眠ってしまったはずなのに、私はベッドの上で眠っていて、一瞬夢でも見ていたんじゃないかって思ったぐらい。
でも、夢じゃないってことはすぐに確認できた。
作業机の上に、あの黒いドラゴンの鱗が置いてあったからだ。
「……あれ? 指輪は?」
だけど、その鱗の魔力を混ぜて作ったあの指輪だけが、そこから忽然と姿を消していた。
――あの子が持っていったのかな?
確証は全くないけど……でも、それぐらいしか思い当たる節がない。
そういえば、あの子の魔力――。
――もう、残ってないか。
身体の中にあったはずの彼の魔力の気配は、もうすっかりなくなっていた。
ぐっすり眠って、自分の魔力が回復したからだろう。
念のため、ステータスウィンドウを確認してみる。一桁まで減っていた魔力の数値はきちんと満タンに戻っていた。
「……今度からは、作業中もステータスウィンドウ出しといたほうがいいかな」
造形している最中にも魔力が減るなんて。
他の魔力を混ぜた魔力パテを扱うときだけに起こる現象なんだろうか。今まで、自分の魔力から作った魔力パテをどれだけ捏ねても、魔力が減ったなんてことはなかったはず。
これも検証の必要がありそうだった。
◆◇◆
「すごいものを作りあげたもんじゃな」
「まだ、試作段階ですけど」
その四日後。
私は魔術師ギルドに顔を出していた。
祭り当日までがっつり引きこもって製作する予定にしていたけど、試作した装飾品を誰かに試してもらいもせずに量産できないことに気づいたからだ。
ギルド長の魔力を混ぜて作った指輪以外にも、十個ほど試作品を用意した。
商品のお披露目はいつものカウンターでしようと思ったんだけど、慌てた様子のギルド長に止められてしまった。当日まで秘密にしておいたほうがええじゃろ、って人差し指を口元に立てながら言って、ギルド内にある会議室の一つを貸してくれた。
試作品のチェックに立ち会ってくれたのは、いつもどおり、ファーラとギルド長だ。
「一応、付与効果がある装飾品になってるはずなんですけど」
効果は自分でつけて確認済み――とはいうものの、まだ自分以外の人にちゃんと効果があるのかまでは確認できていない。
私以外の人が装着しても何も起こらない可能性だってある。
「これから、ワシの魔力の気配がするな」
「あ、はい。完成したものを、いただいた魔力水につけてみたんですけど」
「はめてみても構わんかの?」
「どうぞ!」
呪いの指輪とかになってなきゃいいんだけど。
もし、やばい代物になっていたとしても、きっとギルド長ならなんとかしてくれるはず……と信じてその動向を見守る。
ふぉっふぉっ、といかにも魔術師らしく笑いながら、ギルド長がそれを指にはめた――一瞬にして表情を変える。
――まさか、本気で呪っちゃった?
「こりゃあ……予想以上じゃわい」
ふむぅ、と髭を撫でながら、ギルド長はしばらく空中を見つめていた。
詠唱は聞こえなかったけど、たぶんステータスウィンドウを見ているんじゃないのかな。何度も頷きながら、じっと何かを確認しているみたいだ。
「……末恐ろしいものじゃ」
「もしかして、悪い効果とかついてますか?」
「いやいや、良い効果ばかりじゃよ。いささか良すぎる気もするが」
「良すぎる……?」
どういうことだろう。
むむむ、と髭を指に絡めながら、指輪とステータスを交互に眺めている。
「ここにある指輪はすべて同じ効果があるんかの?」
「いえ。装飾の細かさで効果に違いが出るみたいで……ギルド長のつけているそれが一番効果が高いものになります」
「そうかそうか。そういう違いが出るんじゃな」
うんうん、と頷きながらギルド長がいったん指輪を外す。
それをファーラのほうに差し出した。
「ファーラ、ちょっと試してほしいんじゃが」
「なんでしょう?」
「この指輪をはめてみてくれんか」
「ギルド長、それは」
「これも確認したかったんじゃろ? ほれ」
どうやら見抜かれていたらしい。
確かに、私もそれを確認しておきたかった。
ギルド長の魔力水に浸した指輪。それがギルド長と私以外にはめられるのかどうか。
「申し訳ないんですけど……これは無理だと思います」
「ほう。はめる前からわかるのか」
「小さい頃に一度、族長に神級と呼ばれる武器を見せていただいたことがあるんですが……それによく似ている気がします。持ち主以外を拒むというか、そんな気配が感じられて。こうして触っているだけでも、あまり歓迎されていないのがわかるので」
「さすがは、精霊に愛されておるエルフじゃな」
――あ、やっぱりファーラの種族はエルフって翻訳されるんだ。




