にょろにょろなんて大きらい!
こちらはひだまり童話館様の『にょろにょろな話』の参加作品となっています。
どうぞ最後までお楽しみください(^^♪
「にょろにょろなんて大きらいだ!」
からだをピンと一直線にして、シャックがいいました。
「いきなりなにをいいだすんだい、シャック」
仲間の尺取り虫たちが、からだをにょろにょろさせながら聞きました。シャックはピンと伸ばしたからだを、今度は直角に曲げたのです。でも、どうしてもにょろにょろしてしまいます。
「いったいどうしたっていうのさ。ぼくたち尺取り虫は、にょろにょろするのが仕事だろう? それなのににょろにょろがきらいだなんて」
「みんな、違うよ! ぼくたち尺取り虫は、もっと他に仕事があるんだよ」
なんとか直角にしようとがんばりながら、シャックがいいます。仲間たちはにょろりとからだをかしげて聞きました。
「いったいどんな仕事があるっていうんだい? いっぱい食べて、にょろにょろするのが、ぼくたちの仕事だと思うけど」
「違うよ、ぼくたちは尺取り虫なんだよ。尺を、長さを測ることが本当の仕事なんだ」
シャックがピンとからだを伸ばして、そのままぐいぐいとからだを曲げます。仲間たちは驚いたように固まっていましたが、やがてにょろにょろしながら笑います。
「シャック、そりゃあ大昔の話じゃないか。ずっと昔の人たちが、ぼくたちに『尺取り虫』って名前をつけたらしいけど、そりゃあ無理だよ」
「どうしてだよ? こうやってピンッてからだを曲げれば、きっとじょうぎみたいに長さを測れるはずだよ」
そういいながら、ピンッと背筋を伸ばすシャックに、仲間たちはあきれたようにいいました。
「シャック、一尺ってどれくらいの長さか知ってるかい?」
「えっ、それは……」
いわれてみれば、シャックは自分たちの名前に入っている、一尺という長さを知りませんでした。ですが、知らないというのはくやしいので、だまってグーッとからだを直角に曲げようとします。
「ぼくのひいひいじいさんがいってたけど、一尺っていうのは、人間の長さでいえば30センチっていうらしいよ」
「30センチ?」
聞き返すシャックに、仲間はうなずくように頭をくいっとふります。
「そうさ。ぼくらもどのくらいの長さかよく知らないけど、ひいひいじいさんの話じゃ、キャベツ二個分ぐらいの長さだってさ」
「キャベツ、二個分?」
思わずシャックは、直角に曲げようとしていたからだを、にょろっとさせてしまいました。キャベツ一個でも、小さなシャックたちにとってはすごい大きいのです。人間の子供でいえば、校庭いっぱいぐらいでしょうか。それが二個分だなんて、どうやっても長さを測れはしません。でも、シャックはくやしくって、ついついいってしまいました。
「そんなの、いっぱいがんばってキャベツを食べたら、ぼくだってそれくらい大きくなるよ!」
シャックの言葉に、仲間たちはアハハと笑うのでした。
その日から、シャックはバクバクバクバク、無理していっぱいキャベツを食べるようになりました。ちょっとでも大きくなろう、なんとかして一尺ぐらい大きくなろうと、お腹いっぱいになっても食べ続けるのです。もちろんその間に、じょうぎみたいにカクカク動く練習も欠かしませんでした。
「絶対大きくなって、一尺ぐらいすぐに測れるようになってやるからな!」
キャベツをバクバク食べるときも、からだを直角に曲げて、なるべくそのままでふんばります。ですが、そんな食べかたをしているから、だんだんとシャックは背中の当たりが痛くなってきたのです。
「イタタ、イタタタ……」
「ねぇ、シャック、もうやめときなよ。にょろにょろしてたらいいじゃないか。ぼくらはそれが一番なんだよ」
笑っていた仲間たちも、やはり心配になってきたのでしょうか。シャックに声をかけますが、シャックは意地になってしまって聞きません。
「ほうっといてよ! 絶対大きくなるからな! それに、にょろにょろせずに、カクカクできるようになるからな!」
バクバクキャベツを食べているからか、シャックは他の仲間たちより、ちょっぴりだけからだが大きくなりました。とはいえもちろん、一尺にはまだまだ全然足りませんでした。食べつかれて、カクカクするのにもつかれてしまい、シャックはキャベツの上にぐったり横たわりました。
「あぁ、やっぱりぼくは、一尺になんてなれないのかなぁ……」
「やぁ、お前さんがワシのキャベツをバクバク食べとったのか」
いきなり声をかけられて、シャックは「うわぁっ!」とすっとんきょうな声をあげました。いつのまにか、人間のおじいさんがシャックをのぞきこんでいたのです。
「ひぇぇっ、助けてぇ!」
なんとかして逃げようとするシャックに、おじいさんはあわてて声をかけました。
「待て待て、そんなあわてんでも、別にお前さんをどうこうしようとは思っとらん」
「でも、ぼくおじいさんの畑のキャベツ食べたのに、怒らないの?」
「尺取り虫がキャベツを食べるのは当たり前じゃからな。それにワシの畑には、まだまだキャベツがある。……それに」
おじいさんはどっこいしょと、シャックがいるキャベツのそばにこしをおろしました。
「それに、お前さんがバクバクと、うまそうにキャベツを食べているすがたを見て、ワシはうれしくなったんじゃ。ワシのキャベツがそんなにうまいのかと思ってな。うまかったか?」
おじいさんに聞かれて、シャックはこくりと頭をたてにふりました。
「うん、おじいさんのキャベツ、おいしかった。それにすごく大きいよね。……ぼくもがんばったけど、一尺にはなれなかったよ」
おじいさんはまゆをぴくりと動かしました。
「一尺になれない? ん、どうしたんじゃ?」
「おじいさん、ぼくたち尺取り虫は、長さを測るのが仕事なんだよね? でもぼく、全然小さいから、一尺なんて測れないよ。だからがっくりしてたんだ。このままぼくは、ずっとにょろにょろしながら生きていくのかなぁって思って。じょうぎみたいに、長さをピッシリ測りたいのに」
おじいさんはきょとんとしていましたが、やがてワハハと大声で笑いだしたのです。シャックはムッとしておじいさんを見あげました。
「ひどいや、笑うなんて」
「ワハハ、すまんすまん。じゃが、お前さんは立派な尺取り虫じゃないか」
おじいさんにいわれて、今度はシャックがきょとんとする番でした。おじいさんはシャックの前で、手のひらを大きく広げました。
「ほれ、ワシの親指と中指をよく見とるんじゃぞ」
そういって、おじいさんは地面に、広げた自分の親指と中指をつけたのです。なにをするんだろうと、シャックがキャベツの葉っぱの上から、地面をのぞきこみます。おじいさんは親指を、ゆっくりと中指に近づけていきました。
「ほれ、にょーろ、にょーろ」
おじいさんはそういいながら、親指を中指にくっつけ、それからまた中指をグーッと地面に伸ばしました。
「にょーろ、にょーろ」
またもや親指を、中指へと近づけていきます。不思議そうに見ているシャックに、おじいさんはいいました。
「昔はなぁ、こうやって長さを測っていたんだ。今の動き、お前さんとそっくりだっただろ?」
「そういえば……」
シャックはもちろん、仲間の尺取り虫たちも、おじいさんの親指と中指のような動きをしていました。こっくりうなずくシャックに、おじいさんは続けました。
「なにもじょうぎみたいに、ピッシリピッシリしなくても、こうやってにょーろ、にょーろしながらでも、長さってのは測れるぞ。だからお前さんも、カクカクするより、にょろにょろ肩の力をぬいたほうがいいんじゃよ」
「でも、にょろにょろしてたら、長さ測れないんじゃないの?」
心配そうに聞くシャックに、おじいさんは親指をさしだしました。
「ほれ、ワシの親指に乗ってみなさい。なに、別にお前さんをどうこうしたりはせんよ」
おじいさんにいわれて、シャックは恐る恐る親指に乗りました。おじいさんはにっこりしてからあごひげをなでます。
「やっぱりな、お前さん、ちょうど長さが一寸あるな」
「一寸……?」
ぽかんとしているシャックに、おじいさんは続けます。
「そう、一寸じゃ。一寸法師とかの一寸じゃな。ワシの親指はな、ちょうど一寸の長さなんじゃよ」
「おじいさん、自分のからだの長さを覚えてるの?」
おどろくシャックを見て、おじいさんはまたワハハと笑いました。
「そりゃあな。いちいちじょうぎで測るより、こうやって親指で測ったほうが早いからな。……それより、お前さんはしっておるか? 一寸という長さはな、一尺の十分の一なんじゃ。……つまり、一寸を十倍すれば、一尺になるんじゃ」
おじいさんがにやりといたずらっぽく笑います。シャックはよくわからなかったようで、からだをにょろりとくねらせました。
「どういうこと、おじいさん?」
「簡単じゃよ、お前さんは一尺を測れないと思っとるみたいだが、お前さんが十回にょろにょろするだけで、きちんと一尺を測れるんじゃぞ」
おじいさんの言葉によほど驚いたのでしょう。シャックがからだをピンと伸ばして、そのまま固まってしまいました。
「ワハハ、どうした、もっと喜ばんか。お前さんがワシのキャベツをたっぷり食べたからこそ、他の尺取り虫たちよりも大きくなって、一寸までになれたんじゃぞ。お前さんはよくがんばったんじゃ。……お前さんは、これで立派な尺取り虫じゃな」
おじいさんにいわれて、シャックはほこらしい気持ちでいっぱいになるのでした。
お読みくださいましてありがとうございます(^^♪
ご意見、ご感想などお待ちしております。