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murder by proxy  作者: 末桜葵
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前日譚


幼少期、地獄で育った。

父母の顔も知らず、身よりもなく、荒廃した街の中で時には物を盗み、時には体を売り、時には人を殺した。

その中の一つにも自分を満足させてくれるものはなかった。

腹も満たされず、心も満たされず、ただ我武者羅に生きた。

生きることにのみ固執した。

自分が何をしようと、他人が何をしようと生きていた方が勝ちだった。

裁く者は在らず、己のみが正しかった。


ーーー二二七八年。

第五次世界大戦が終わり二十年。

科学の発展ともに激化する戦争、拡大する貧富の差。大昔、この日本という国には平和ボケという言葉があったそう。

今は暮らしこそ豊かになったものの、そんな言葉とは無縁な国である。

世界における先進国、発展途上国などという言葉は今はもう存在しない。

全世界が同じ技術を持つ。

それ故に、いつどこで戦争が起きてもおかしくない世界規模の冷戦状態。

これに例外はなく、日本も同様である。

そして今日、日本国内に滞在する謀反の芽を摘むために適任とされた男の就任式が行われた。

「控えよ! 王の御前である!」

声を張るスーツ姿の中年男性。

右島重紀(うじましげのり)。国の政治に関与できる二大大臣の一人。

「王の名のもとに此処に謁見を許可する!」

さらに声荒らげるのはもう一人の大臣、佐柿悠晴(さがきゆうせい)

この二人が税金や兵力を管理し国を動かしている。王に次ぐ権力者二人。

「失礼致します。」

重く大きな扉を開け、革靴の音が謁見の間にて静かに鳴る。やがて音は止み、玉座から少し離れた位置に跪く。

「これより断罪者就任式を執り行います。進行は私右島が務めさせていただきます。」

玉座を挟み立つ二大臣。レッドカーペットの両脇に五人ずつ等間隔に並ぶ近衛兵。謁見の間とは王宮内で唯一、国王と外部の人間が顔を合わせることの出来る部屋。

二大臣がいるのはもちろんのこと、警備も並大抵のものではない。

「あぁ良き日だな。このような日に就任できるとは天に 好かれているのだな霧崎孝宏(きりさきたかひろ)よ。」

玉座で頬杖を付き、足を組みながら座っているこの男こそ、現日本国王の藤宮定雄(ふじみやさだお)。国家最高権力者である。

「光栄にございます。」

こうべを垂れて、跪いたまま返答する。

「では王よ、襲名の儀を。」

「そう急かすな、俺はこの男をよく知らん。貴殿らが選んだのだから間違いはないのだろうが、この目で確かめたいこともある。」

「失礼致しました。」

「話は聞いている。なんでも殺しの天才と呼ばれているそうだな?」

藤宮は、右島の進行を無視しこちらに話を振ってくる。就任式とは名ばかりで国王に命じられてYESと答えれば終了、NOと答えればその場で処刑される。ただそれだけの事なのだ。

「遺憾ではございますが、そう呼ばれているのは確かなようです。」

俺がそう答えると藤宮は少し笑った。

「そう怒るでない。事実なのだろう?武器も持たずして我が国の兵士達を三十人程殺したというのは。」

「……間違いはございません。」

少し間を空けてそう答えた。

少し前の話だが兵士達が突っかかってきたので一人の首をへし折ったところ、その後数十人の兵士達が集まってきて乱闘になったのでやむなく殺したのだ。

後日、捕まることも殺されることもなく、この謁見の間への招待状と断罪人への推薦文が届いた。

「我が国の兵力不足を知っての狼藉か?」

「私は自分が正しいと思ったことをしております。その中に国勢や世界情勢などは混じっておりません。」

「ほう。」

張り詰めた空気に長く重い沈黙。

一歩でも踏み出そうものなら乱闘に発展しそうな部屋の中。

先に沈黙を破ったのは藤宮だった。

「面白い男だな。貴様は。」

「光栄にございます。」

「それで?どうであった?ウチの兵士たちは。」

「僭越ながら、お世辞にも強いとは言い難い方々でした。」

「なっ!?」

声を荒らげたのは佐柿だった。

自分の管轄である兵士をストレートに弱いと言われたのだから当然の反応だろう。

「貴様!自分の立場をわかって」

「佐柿ッ!!」

「っ!……失礼致しました。私としたことが取り乱してしまいました。」

「貴様のつまらぬ私情を挟むでない。弱いと言われぬ兵士達を作り上げてから意見を述べよ。」

「はっ。」

佐柿の合図一つで発砲が許可されるのような雰囲気だったが、それを制したのは意外にも藤宮だった。

「見苦しい所を見せてしまったな。しかし貴様にも非はあるのだ、猛省せよ。」

「言葉が過ぎました。無礼をお許しください。」

「うむ。ところで貴様、幼少期からこの王都にいたわけではあるまいな?」

「はい、出身は極東のスラムでごさいます。」

「正確な場所は。」

「新潟でございます。」

古くの日本は四十七都道府県と呼称し、北に北海道、南に沖縄という地域があったそう。

現在は海面上昇と度重なる戦争を経て内陸部最北端が新潟、並び福島。最南端が熊本。

過去存在していた北海道、東北の多県、四国地方全土、九州の複数県、沖縄の十三の道県が沈み三十四都府県で構成されている。

「それはまた辺鄙な土地で育ったのだな。その環境こそが貴様をそこまで強くしたのだろうな。」

「生きる為に必死でしたので、私自身が強いと思ったことなど一度もございません。ただひたすらに私は正しいと信じ続けておりました。」

「して、なぜ王都に来たのだ?スラムで育ったのなら新潟を出ることすら難しかっただろうに。」

「……徴兵された知人を探しておりまして。」

「名は?」

誠司(せいじ)・ガルシアという男です。」

「なるほど混血か。混血は優先的に徴兵するようにしているからな。さすがの俺もわからなんだ。調べさせても良いが?」

「いえ、自分自身の目で確かめたいので、ありがたいですが結構です。」

「そうか。……よもや、謀反ではあるまいな?」

一言で空気がが凍りつく。兵士達が引き金に指をかける音が聞こえた。その場にいる全員に緊張が走る。

「滅相もございません。幼少期共に過ごした者でして、別れの挨拶ができなかったことだけがどうしても心残りでしたので。」

俺のその言葉を聞いて藤宮は吹き出し、腹を抱えて笑った。

場の緊張が一気に解け、兵士達も少し安堵したように見える。

今この国では、混血というだけで危険視される兆候がある。全世界で戦争をしているのだから致し方ないといえばそれまでなのだが、本人達も望んで混血な訳では無いが故に不憫に思う。

「底抜けの馬鹿よのう、貴様!面白いではないか!」

「身に余る光栄。」

この数分で気に入って貰えたようだ。一文無しで王都に来て、大量殺人を犯した俺に運良く転がり込んできたこの話を水の泡にすることは絶対に出来ない。

「だがなぁ、面白いだけでは此度の仕事は務まらん。ちょっとした試験をしよう。」

「試験……ですか?」

「あぁ。そうさな……おいそこのお前。」

藤宮は唐突に、並んでいる数人の中の兵士一人を指さした。

「はっ、はい!」

「こやつを撃て。殺すつもりでな。同僚達の仇と思えば簡単であろう。」

「しょっ、承知いたしました!」

兵士は少し戸惑ったかのように見えたが、すぐさま切り替え、銃を構える。

「貴様はこの弾を避ければよいだけのこと。聞くところによると銃を乱射されても無傷だったそうではないか。その実力を見せてみよ。」

「承知致しました。」

ゆっくりと立ち上がり、兵士と目を合わせる。

もはや兵士の方も迷いはないようでしっかりと狙いを定めている。

静まり返った部屋の中で鼓動の音だけが聞こえる。

次の瞬間、大きな銃声が鳴り響いた。

「……これで、よろしいのですか?」

俺の右手に弾丸。部屋の中がどよめく。

俺は五感が鋭く、発砲する直前の鼓動や筋肉の動き方、発砲の瞬間の微かな火薬の匂いを見極められる。

発砲前に聞いていた鼓動は兵士のもの。

弾丸はスローモーションで動いているようにしか見えないので一番勢いを殺せる場所で軽く回転をかけながら握れば一発取る程度造作もない。

「想像以上だ!素晴らしい!」

「ありがとうございます。」

「勅命である!」

藤宮のその言葉で再び跪く。

「我がの名のもとに、霧崎孝宏を断罪人として認定する!何か意見のあるものはいるか!」

一人も手を挙げることはなく、俺自身もNOとは言わない。

可決。

「本日を持って、霧崎孝宏を断罪人として制定し、第一位特級捜査員とする!」

「職務を全う致します。」

第一位特級捜査員。国王、二大臣を除く全国民を対象として捜査が可能。行政などの許可も不要で基本的に全てに優る権限を持つ。

「王よ!さすがにそれは!」

「何か、意見があるのか?右島」

「……いえ、王の御心のままに。」

藤宮に睨まれた右島は何も言えなくなる。恐怖政治、暴君と言ったところだろうか。

俺にとってはこれ以上ない好条件である。

「なら良い。ではこれをもって本日は閉会とする!下がってよいぞ。」

「はっ!失礼致します。」

立ち上がり扉の方へと戻る。

これから俺の断罪の仕事が始まる。

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