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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

柿崎零華のホラー集~2020秋の特別編~

軍人の霊

作者: 柿崎零華

とある日の事だった。医者を務めている男性・前田孝雄は病院にいた。彼はとても温厚で、看護師や患者さんからの人気が高かった。だが、一つだけ信じないものがあった。それは


「幽霊」


医者という職業をしていて、よく幽霊を見たなどの話などは聞くが、一切信じていなかった。

そんな彼が体験した話である。

前田は午前中、病院で患者さんの診察をしていた。今日は高齢男性の方の診察であり、聴診器で胸の音を聞いていた。


前田「少し心臓の動きが悪いですね。動きを少しだけ抑える薬を出しておきますね」


男性「ありがとうございます」


前田は隣にいた看護師の恵美に


前田「恵美ちゃん。薬剤師にいつもの薬、発注しといて」


恵美「分かりました」


恵美はそのまま部屋を後にした。すると男性がカルテを書いていた前田に


男性「先生」


前田は目線を男性に合わせ


前田「どうかしましたか?」


男性「幽霊って信じますか?」


前田は少しリラックスした口調で


前田「いえ、私は信じてません。だって科学で証明されてないじゃないですか。私はそんなものはあんまり」


男性は少し落胆した顔をした。

前田は心配そうな顔をして


前田「どうしました?」


男性が重い口を開き


男性「いや、実はこの病院入ったらね。若い軍人さんがおったんですよ」


前田「軍人?」


その話は何回か聞いたことがある。入口に若い軍人が立っており、まるで上官が目の前にいるかのような立ち方をしていて、気味が悪いという話だった。またその話かと思いながら聞くと


男性「軍人さん。私に敬礼をしてきたんですよ」


前田「敬礼?」


その話は全く聞いたことが無かった。いつもは立っているだけで終わりだったが、敬礼は初めて聞いた。

すると男性は微笑みながら


男性「もしかして、気づいたのかも」


前田「何をですか?」


男性「私が元特攻隊員だったことを」


前田「え?」


男性「私は、昔特攻隊員でした。しかし、出発の前日に戦争が終わり、私は生き延びました」


前田「そうなんですか」


初めて聞いた話に、少し心が締め付けられる思いだった。もしかしたらその、この世のものではない軍人が、何十年も経った元軍隊の方を思い、敬礼をしたと思うと、泣きそうだった。

すると、恵美が戻ってきて


恵美「あの先生」


前田「あっなんだ」


恵美「薬出来たそうです」


笑顔で言う恵美に、少し心が落ち着きながらも


前田「ありがとう。じゃあ薬局までご案内して」


恵美「分かりました」


恵美はその男性を連れて、部屋を出た。男性は部屋を出る前に一礼し、笑顔で出ていった。

前田はいつもの「お大事に」を言うのを忘れてしまった。そのくらい心が締め付けられていたのだ。


その夜、自分の部屋で一人仕事をしていると、駆け足でこっちに近づいてくる音がし、ついドアの方を見ると、息を切らしながら恵美がドアを開けて


恵美「大変です。302号室の岡名さんの容体が悪化しました」


前田「なんだって!」


すぐに駆け付ける前田。

それもそのはず、その岡名は男性でまだ30歳の若さで、大腸がんを患い入院中だった。1週間前に手術をして見事成功をし、明日退院の予定だったのだ。どこも悪くない彼の容体が悪化だとは、信じられない思いで部屋に駆けつけた。

確かに心電図の心拍数は0になっており、他の男性医師が心臓マッサージをしていた。これはかなり危険な状態だ。

前田はその男性医師に


前田「容体は?」


医師「駄目です。さっきから30分ほど心臓マッサージをしているんですが、全く動きません」


どういうことだと心の中で思いながら


前田「変われ」


前田が変わり、心臓マッサージをするが動かず、信じられない思いで


前田「駄目だ。亡くなってる」


他の医師や看護師は驚きのあまり固まっていた。しかし前田はすぐに医者の仕事しなきゃと思い


前田「恵美ちゃん、いつもの準備を」


恵美「あっ、はい」


恵美が部屋を出ていく。

全ての準備を終え、部屋の近くにあった長椅子に腰を掛ける。

一体なぜだ、昨日まであんなに元気だったのに、いきなり死んだ。そう思いながら、ふと思い出した。あれは昨日に遡る。


前田がいつも通り岡名の部屋に診察で訪れる。


前田「岡名さん。体調はどうですか?」


岡名「あっはい。元気です」


前田は笑顔で


前田「そうですか。ならよかった」


岡名「あの先生」


前田「はい?」


岡名「軍人の霊って見たことありますか?」


前田「軍人の霊ですか?いえ私は見たことないですね」


岡名「僕、霊感はないんですけど。たまにトイレに行くと、自動販売機のそばに立ってるんですよね。それも僕を見て」


前田「え?」


岡名は少し怯えていた。最初は幻覚でも見てるのだろうと思いながら


前田「大丈夫ですよ。まぁ病院は病気を治すところですから、怯える必要ないですよ」


場面は長椅子に座っている前田に戻る。

しかし、今思えばおかしい。他の人から聞く話だと


「軍人は玄関に立っている」


それしか聞いたことがない。しかし岡名が言うには、軍人は自動販売機に立っていた。目線がつい、その自動販売機にいく。あの場所に立っていた。そして次の日、岡名は急死した。

幽霊を信じない前田でさえ、少し恐怖が覚えるほどだった。


次の日、いつも通り午前中の診察を終え、昼食をとりに最上階の食堂に向かっている最中だった。

エレベーターホールには院長の姿があった。珍しいなと思い


前田「院長先生」


院長は少し年配だが、前田と同じ温厚な性格のため他の人には好かれていた。だが、少し怯えた様子だったのは、見ての通りだった。


前田「院長?」


心配そうに声をかける前田。院長は前田に気付き


院長「あっ、前田君。久しぶりだね」


前田「院長先生こそ、どうかされたんですか?」


院長「な、何が?」


前田「いや、滅多にここに来ないんで」


院長は少しの作り笑顔で


院長「気のせいだよ。よく来るよ」


明らかに何かを隠している。そう思いつい


前田「何かあったんですか?」


院長「え?」


前田「いや、汗結構出てますよ」


急いでハンカチで額の汗を拭く。そしてエレベーターが来て乗り込む2人。

変な空気の中、院長が恐る恐る。


院長「君は、軍人を見たことはあるか?」


前田「え?」


まさか院長からその話を聞くとは思ってもなかった。実は数日前、軍人の噂を聞いた院長は自分にこう言った。


「くだらん噂だ」


私と同じで幽霊など信じていなかった院長は、少し顔を暗めにして言ったのを覚えている。そう思い


前田「何言ってるんですか院長。前に言ったじゃないですか、くだらん噂だって」


院長「そんなこと言ってる場合じゃないんだ」


明らかに何かに怯えてる様子だった。病院のトップがこんな調子ということは、相当な事だ。しかしふと思ったことがあり、院長に


前田「その軍人、どこにいたんですか?」


院長「え?・・・階段だよ」


階段、新しく聞いた場所だ。しかし、何とも思わずにいると、エレベーターは最上階に着いた。院長は慌てて降りて、同じ階にあった院長室に向かっていった。

その日の夜だった。


「院長が自殺した」と


その時、家にいた前田は電話でそれを聞きつい震えた。院長は院長室の窓から飛び降り死んだらしい。

もしかして、岡名、院長が言うように軍人が玄関にいないで別の場所にいる。それが大きく関係しているのか、そう思いながら明日があるため、その日は眠りにつく。


次の日、午後の診察が終え、恵美と一緒に今日の患者状況を確認し合い、終えたときに


前田「そうだ恵美ちゃん。今日ご飯でも行く?もちろん俺の奢りで」


恵美「え?いいんですか?」


前田「なんでもいいぞ」


恵美は笑顔になり


恵美「じゃあ、焼き肉でお願いします」


前田「分かった」


実は、前田は少しながら恵美に好意を持っていた。今日食事に誘い、告白するつもりでいた。少し心臓の動きがおかしかったが、薬で治らないなのは知っている、それを抑えながらも


前田「玄関で待ってて」


恵美「分かりました」


恵美が部屋を出ようとドアを開ける。すると突然叫び声を上げた。前田が驚きふと彼女の方を向くと


長い廊下の先に軍人が立っていたのだ。そして軍人が持っていた銃をこちらに向けながら、走ってこちらに向かってきている。

前田はつい、恵美の手を引っ張り走って逃げる。度々後ろを振り返ると、やはり軍人が追いかけてきている。

そして近くで偶然開いていた診察室に入り込み、鍵をかけドアの前にしゃがみ込む。

恵美が小さな声で


恵美「なんですかあれ」


前田「死神だよ」


恵美「え?」


前田「岡名さんも院長も、あいつを見て死んでいる。あれは死神だよ」


恵美「死神って」


すると、ドアが激しく動き出す。何者かが開けようとしているのは間違いない。前田は軍人だと思い、つい


前田「いい加減にしろ。無実の大人を殺しやがって、なんなんだよ!」


大きな声で言って響いたのか、静寂になる部屋。

恐る恐る恵美が、すりガラスの方に顔を近づけると、突然頭を撃たれ倒れこむ。

前田が叫び声を上げる。すると、ゆっくりとドアが開き、そこには血だらけの軍人の姿があった。前田は急いで逃げようとする、しかし銃を向けた音は微かに聞こえた。ゆっくりと後ろを振り向くと、こちらに銃を向けていた。


前田「や、やめてくれよ」


前田は少し泣きそうになりながら言う。すると軍人は撃つどころか銃を下し、前田に向かって敬礼をした。

前田は思い出した、前に元特攻隊員の高齢男性に敬礼をしたことを、それと同時に実は自分の祖父は特攻隊員で戦死したことも思い出した。

まさかこの軍人は、元特攻隊員で戦死した人なんだろうか。だからその敬意を表して特攻隊員と関係ある人に敬礼しているのか。

なんとなく聞いたことはある、ここの霊は怨霊が多く、同じ仲間ではないと殺していくだという噂を。

そうだ、俺は同じ系統の仲間だ、だから敬礼して助かった。そう思いつい笑顔になると、軍人が突然ナイフを出して、こちらに突進してきた。その時刺さる感触と痛みが走った。そのまま倒れこみ、前田は死亡した。


何故だ。なんで俺を刺した。君らと同じ仲間なのに。しかしその時思いだした。

そうだ。俺の祖父は


「特攻で死んでいない」


と・・・







~終~


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