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第三話

「おお、そうかそうか。新車か?」

 「まさか。中古です」

 「なら俺の知り合いの店がいいぞ」

 「おお、お知り合いの方でいるんですか」

さすがは車好きだ。

 「まあ、だいぶ歳上だけどな。確か社長と同じくらいじゃねえか?五十代半ばだったような。でよ、そのおっちゃんはとにかく車に詳しいんだわ。俺も結構自信あるけど、その人に比べりゃまだまだ『赤子同然』だな」

 「へええ、そりゃよっぽどですね」

 「おうよ。俺もしょっちゅういろんなこと教わりに行ってるよ。今度田中も来るか?」

 「いいすか?じゃあ是非お願いします」

 「ちょうど次の日曜行くつもりだけど。お前、予定は?」

日曜は高校時代の仲間と会う約束だったが、

 「あ、大丈夫ですよ」

と言った。今の俺は早く車が欲しかった。

 「じゃあ日曜な」

 「はい。お願いします」


 「こんちわーす。また来ましたあ」

 「おう、細川か。ん、誰だそいつは」

 「ああ、彼は職場の後輩です。ほら田中、挨拶しろよ。この人がオーナーだ。俺の師匠でもあるぞ」

 「よ、よろしくお願いします」

 「おう」

細川さんに紹介された「オーナー」は、青いツナギを着て工具類を持って、無愛想に挨拶してきた。彼はほとんど白髪で、でっぷりと太っていた。しかも老けていて、おおよそ野宮社長と同年代には見えなかった。それから、

 「細川あ。俺、今新しく持ってきた車を修理してるんだ。手、離せねーからテキトーに頼むわ」

と言ってツナギのオーナーは去って行った。何だよあの態度は。俺がそう思っていると、

 「すみません。いつもあんな感じで」

と店の方らしき青年が物腰柔らかく接してきた。細川さんは笑って、

 「いいっすよ。慣れてるんでー。あ、田中、この人はな、オーナーの息子さんだ。『タカさん』って俺は呼んでる。あれ、タカさんおいくつでしたっけ?」

 「この間三十になりました」

 「ええ!もう三十路ですかあ?おっさんですねー」

 「やめてくださいよ細川さん!ま・だ・三十路ですよ」

 「ははは。そうですかー。しかし早いですねえ。俺がこの店に来たのが三年くらい前だから、当時はまだ二十代でしたよね」

 「そうですねえ。早いですねえ」

そう言って二人はなぜかしみじみとした。十九歳の自分からすれば、細川さんも「タカさん」も確かに大人に見えた。それからタカさんは、

 「ところで細川さん、この方はご友人ですか?」

 「まあ、友人というか俺の職場の後輩ですね。ほら田中、タカさんに挨拶しろよ」

細川さんはさっきと同じように言った。俺は、

 「田中ヒロカズです。よろしくお願いします!」

と言ってお辞儀をした。

 「これはご丁寧にありがとうございます。私、この店の接客などを担当しております『岡田貴之』ともうします。どうぞよろしくお願いいたします」

そう言って「タカさん」こと「岡田さん」は俺に名刺を差し出してきた。名刺などもらったことのなかった俺は戸惑って、

 「あ、どうも、すみません」

などとシドロモドロになってしまった。横で見ていた細川さんがニヤニヤしていた。は、恥ずかしかった。思わず、

 「細川さん。いただいた名刺はどのように保管すればいいのでしょうか?やっぱり机の引き出しにしまっておくのがベストですか」

と聞いた。すると細川さんは笑いながら、

 「バッカ。お前学生かよ。こういうモノはな、『名刺入れ』ってのがあって、それに入れておくんだよ。今度買ってきてやるよ」

 「いいんですか?」

 「いいよいいよ。そんな高いもんじゃないし。田中ももうすぐ成人なんだから名刺入れぐらい持っておかないとな」

と言って細川さんは俺にいつもするように「先輩としての助言」を与えた。すると岡田さんが、

 「え?彼まだ未成年なんですか」

と聞いた。

 「そうなんすよ。見えないっすよね。それでねタカさん、こいつ車が欲しいらしくて。今チャリンコで職場来てるんだけど・・・。あ、ていうかお前免許あったっけ?」

 「ありますよ!時々ウチの二トン運転してるじゃないですか!」

 「おお、そうだっけか。忘れたわ。ははは」

細川さんは忘れっぽい。それがみんな面白くて社内では「憎めないヤツ」と愛されている。仕事はきっちりこなすのだが変な部分で抜けているのだ。まあ、俺としてはそこが彼の大きな魅力だと思っている。それに優しいし。大好きな先輩である。それはそうと、

 「でね、タカさん、こいつにこの店のことを言ったら『是非行きたい』って言うんですよ。どうですか?最近いい車入りましたかね?」

 いよいよ本題突入という感じか。どうやらあのオーナーは販売とかには関わらないらしい。そりゃそうか。あの無愛想な感じで接客とか、絶対に無理だろうな。それから岡田タカさんは俺と細川さんを交互に見ながらしゃべった。

 「そうですね。まず田中様はどのような車をお探しですか?」

「様」と呼ばれたので一瞬焦った。そうか、細川さんの後輩とはいえ俺は初対面だし「客」なのかな。とりあえずよく分からないので率直に聞いた。

 「どのようなと言いますと?」

 「そうですね。大別すると普通のセダンがいいか、もしくは大きなワゴン車がいいかなど。あと何色がいいかなどがあります」

 「ふむふむ、なるほど」

そこに関してはある程度決まっていた。車を買おうと決心してから「大きなワゴン車で旅がしたい」という希望を持っていたので、俺は素直にその旨を伝えた。

 「なるほど。そうしましたらこの辺の車がいいかと」

俺は岡田タカさんからいろいろと説明を受けた。途中まで一緒に聞いていてくれた細川さんは「ふあああ」と気の抜けたアクビをしていた。・・・憎めない人。

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