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第二十七話 脱出

夜魔天はリュージュを探す。リュージュは?


 夜魔天は六界全てを結ぶ亜空間で、大事が起こっていることに薄々感づいていた。神であればそれは当然のこと。纏う空気の色が変わる。どこかで多くの血が流れている。

 だから、天界から要請が伝えられた時、既に出かける準備は出来ていた。


 六界転生省は地獄界と親密な関係にある。ここで地獄行きとされたものを、夜魔天は再び裁く役目を負っている。たまに間違ってくるものもあるので、六界転生省とは仲良くしておかないと角が立つのである。


 そのため、この転生省と夜魔天のおわす夜魔天宮にはホットラインがあった。夜魔天は要請があってからものの数分で須弥山の雲に建つ宮殿にやってきた。


「すぐにリュージュさんを探してください。帝釈天側の人間は疑わしい者は全て捕らえなさい!」


 転生省の役人にそう命ずると、夜魔天は自分が連れてきた側近たちをリュージュ探しに散らばせた。


「阿修羅王、待っててください。すぐにリュージュさんをお連れしますよ」





 ――――夜魔天のおっさん……。どこにいる? くそ、ここはなんて広いんだ。俺の思念波が届くか?!


 リュージュは廊下を走り回る足音や、どこからともなく流れてくる鬼気迫るアナウンスに気を取られながら、必死に思念を広げていた。自分を中心に波が浜辺へと打つように。水面に落ち広がっていく波紋のように。


「12番から20番までは330号へ、21番から30番までの340号へ、31番から……」


 アナウンスは意味があるのかないのか不明な番号の羅列を繰り返している。その羅列がどうにも呪文のようで気持ち悪く、リュージュはなかなか集中できない。苦しんでいると、不意に扉が開けられた。


「あ! あなたはリュージュ殿ですね! ここにいらしたのですか?」


 飛び込んで来たのは、六界転生省の役人だ。統一されたグレーの詰襟の制服に八角形のつばが付いた帽子をかぶっている。見つけたことに安堵した彼は、リュージュに向かって満面の笑みだ。


「み、味方かな?」

「何を仰っているのです。夜魔天殿がお待ちですよ! ささ早くこちらへ」


 役人が夜魔天の名前を出している。間違いはないだろう。


「ああ! 助かった!」


 リュージュはテーブルから飛び降りると、その役人について通路に飛び出した。だが、すぐに違和感を感じる。


「夜魔天殿はどこにおいでになるのだ。あんた、連絡してくれないかな。その耳にハマっているのはインカムだろ?」


 長い通路を走りながら、リュージュはその男に声をかける。見つけたら、すぐに連絡するものだろうに。先ほどから十分にその時間があったのに、一向にその気配がない。


「あのアナウンスを聞きませんでしたか? あれはインカムが使えないことを知らせているのです。盗聴されています」


 役人は後ろを振り返りながらそう応える。足は動かしたままだ。長い廊下の先にある階段を降りていく。


「信じてください。夜魔天殿はこの下におられます。あの数字の羅列はそれを示しているのです」

「あ、ああ、わかったよ」


 それでもまだ疑心暗鬼なリュージュ。とにかく臨戦態勢でいようと疑いの目を向けながら、心はそれでもしんと澄ませ、夜魔天の気配を再び探ることにした。


 ――――おかしい。この下からは何も感じない。夜魔天殿はここにはいない。


「どうしました? 急いでください?」


 ふいに歩みを止めたリュージュに、役人は訝し気な視線を向けた。止まっているのがもどかしいのか、脚はまだ動きを止めていない。


「おまえ、帝釈天側だな。この先に夜魔天殿はいない!」


 リュージュはそう断言すると、踵を返して元来た道を進もうとした。茫然と立ち尽くした役人が後ろでため息を吐くのが聞こえる。


「待てよ。貴様の行くところはそっちじゃないよ」


 階段を登りかけたリュージュの腕を恐ろしい力で掴んできた。慌てて振り返るリュージュの目に映ったのは、先ほどの小柄な役人とは打って変わって、二メートル近くはあろうか、金色の目を光らせた夜叉だった。着ていた詰襟は大きくなった体に耐え切れずビリビリに破れ、上半身は見事な肉体美を見せている。


「兄貴が世話になったようだからな。お礼に来てやったよ」

「マジかよ……」


 こいつの名は地夜叉という。修羅王邸に現れた天夜叉の弟分である。だが、そんなことは今のリュージュに関係はない。たとえ丸腰でも、こんなところに足止めにされているわけにはいかないのだ。掴まれた腕を逆に握り返すと、思い切り階段を蹴って体ごと夜叉にぶつけた。


「なに! うが!」


 階段の中腹にいた二人はそのまま踊り場まで落ちていく。当然下にいた夜叉が床に叩きつけられ悲鳴をあげる。緩んだすきに腕を放すと思い切りあごを蹴り上げた。再び壁に叩きつけられた夜叉は噴き出した鼻血を手の甲で拭う。その時は既にリュージュは階段を昇り切っていた。


「くそ! 待ちやがれ!」


 腰に帯同していた剣を抜くと、リュージュを追いかけてきた。リュージュはだが、地夜叉のことはもうどうでも良かった。走りながら耳にインカムを嵌め、オンにする。廊下から落ちた時、リュージュは地夜叉の耳からインカムを奪っていたのだ。


「夜魔天殿! どこにおられる!?」


 地夜叉がインカムを使わなかったということは、これは転生省側、つまり夜魔天側に繋がっているはずだ。そう踏んだリュージュの耳に懐かしい声が聞こえてきた。


「リュージュ殿! ご無事でしたか!」


 鼓膜が破れるほどの夜魔天の大声だった。





つづく



阿修羅の元に戻れるか?!

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