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第十四話 似てない双子

第二部からここまでのあらすじ


八大夜叉将軍の解体に成功した阿修羅達だったが、黒幕の存在が明らかになり、まだ何も終わっていないことに気づかされる。


 黒幕の名はクベーラ王。帝釈天の下で四天王の一人として北の門を守っていた王だ。クベーラ王は『黄金の天車』と呼ばれる空飛ぶ宮殿で亜空間に逃げていた。 

 そのクベーラ王の妻、シュリーは仏陀と阿修羅のホットラインを断絶するため、人に化けて地上に降りていた。だが、仏陀への誘惑がうまくいかず、業を煮やしたクベーラ王は仏陀を拉致する。


 そして阿修羅に仏陀の命と引き換えに『阿修羅琴』を持ってこいと脅しにやってきた。それは真の黒幕である、帝釈天が熱望していたものだった。だが、阿修羅はその琴について全く覚えがなかった。


 一方、修羅王邸にも仲間が増える。天界でもその名を馳せた工匠、トバシュだ。さらに『黄金の天車』を造った凄腕の工匠、トバシュの双子の兄、カルマンが修羅王邸にやってきた。



 

 亜空間に、あまたの天馬と大小何隻かの船がどこに向かうともなく漂っていた。帝釈天が率いる天界軍だ。天界人にとって、亜空間も普通の空域と同じだ。ただ、この世界は宇宙と同じく果てがない。こんなところで闇雲に何かを探すということは、タマラ砂漠で指輪を探すに等しく無駄なことであった。


 帝釈天は、亜空間にて軍を率い「黄金の天車」の捜索を行っていた。もちろん、形だけだ。当の本人は、クベーラ王のいるところははっきりとわかっている。彼にこの作戦を授けたのも帝釈天その人である。トバシュの捕獲には失敗したが、上手い具合に仏陀を拉致出来たので、今はこの作戦に集中している。


「トバシュの居場所がわかりました!」

「はあ? 今更どうでもよいわ!」


 なので、部下からの報告も聞く耳持たない。トバシュが阿修羅琴を造ったかどうかも不明だし、よしんばそうだとしても、どこにあるかを知っているかはわからない。結局それほど大事なことではないのだ。


 しかし、部下も残念ながらそれほど馬鹿ではなかった。トバシュの居場所が戦況を大きく変える可能性があることを知っていた。


「ですが、帝釈天様、お聞きください。トバシュは今、阿修羅王のところにいるのです!」


 亜空間を進む神船、簡単に言えば小型宇宙船のようなものだ。その一席にふんぞり返っている帝釈天は体を起こした。


「なんだと……? 何故だ! なぜあいつが阿修羅王のところにいるんだ! おまえ達は一体!」


 帝釈天は怒り心頭である。みすみす逃がしただけでなく、敵の本拠地に取られているとは! 憎々し気に部下を睨む。だが、一瞬考えなおしたように首を傾けた。


「いや、待て。それもまたいいかもしれん。おい、天夜叉を呼べ! まだ修羅界にうろうろしてるはずだ! 呼び出せ!」

「は、はい!」


 耳寄りな情報を入れたと思いきや、思いっきり怒鳴られてしまった。かと思えば、また別のことを言いつけられる。帝釈天のちょっと頼りない部下は、足をもつれさせながら立ち去った。





 修羅王邸に舞台を戻す。

 白龍がカルマンを連れて修羅王邸に戻って来た。タイムリミットまであと十八時間だ。主だったメンバーは修羅王邸内の倉庫兼工房に集合した。


「兄者! 久しぶりじゃのう! 良かった、元気そうじゃあ」


 トバシュが嬉しそうにカルマンに話しかけた。双子と言っていたが、はっきり言って似ていない。カルマンは金髪で碧眼。髪型は確かに同じように寝ぐせかと思えるほど好き勝手なところに跳ねていたが、垂れ目のトバシュに対して、カルマンはきりっとした目鼻立ちをしている。背格好は二人とも同じくらい。阿修羅より少し背が高い中肉中背だった。


「おまえのおかげで俺は苦労するわ! ほんまに出来の悪い弟や!」


 言葉遣い、イントネーションは全く違う。育ったところが別々だったのだろうか?


「ごめんよう、兄者。巻き込んじまって」

「久しぶりの再会に水を差して悪いが、こちらは急いでいる。すぐに取りかかって欲しいのだが」


 阿修羅が二人の会話を遮った。二人は同時に彼女を見る。


「はあ、すんまへん。阿修羅王、お初にお目にかかります。えらい別嬪さんやなあ」

「そういうのもいいから! 早急に『黄金の天車』を探して欲しいのだ。できるか?」


 トバシュより相当軽いカルマンのノリにイラっとする阿修羅。カルマンはそれでも碧眼をきらりとさせると、口の端を上げてこう言った。


「『黄金の天車』の場所は今でもわかりますよ。あれは俺の最高傑作やさかい、何かあったらすぐにも飛んでいきたいんでね。梵天はんにもクベーラはんにも内緒やけど、追跡装置、宙の轍(そらのわだち)を持ってますねん」


「なに! それは本当か!?」


 トバシュが造っていた兄者ホイホイ(受信機)は、その宙の轍(そらのわだち)が発する信号に呼応していたのである。兄貴が思うほど、弟は馬鹿ではない。ネーミングセンスは置いておくとして……。


「そんでも阿修羅王、どこにあるかだけではあかん。あの戦車には到底近づけまへんで。俺とトバシュで乗り込める道具を造りますから、ちいとお時間いただけまへんかね」

「そうなのか。どのくらいで出来る?」

「三時間もあれば。行けるな? トバシュ」


 カルマンの問いにトバシュは嬉しそうに頷いた。兄貴とモノを造れるのが素直に嬉しいらしい。


「よし、では頼む。必要なものがあれば何でも言ってくれ」


 驚くほどの展開の速さである。この双子は無敵なのか。こうなってくると、クルルが偶然連れてきたトバシュの存在は大きい。

 リュージュとクルルはやることもないので、双子の手伝いをするのに工房に残った。阿修羅と白龍は再び軍議室に向かう。道具が出来て、『黄金の天車』に乗り込む。それだけでは何にもならない。その後の作戦、仏陀の救出とクベーラ王の捕獲、を練るためだ。


「しかし、あの二人を信用していいのでしょうか?」

「そうだな。だが、工匠というのは、依頼されたものを造るのが仕事だ。報酬さえ払えば彼らに敵味方もないはずだ。敵側からの接触に気を付けていればいいだろう」


 報酬。そんな話は何一つしなかったが。白龍は急いで元来た道を走ると、双子と報酬の話を付けに行った。





「ところで兄者、兄者はわしの修羅界(こっち)の屋敷を知っておったんじゃな」


 兄に命じられるまま部品を組み立てていたトバシュが聞いた。


「当たり前やないか。俺が逃げ込める最後の砦と思うてたさかい。でもそれももうあかんけどな。ほんまに役に立たん奴や」

「ごめんよう」


 口は悪いが、その口元には笑みを浮かべ、弟を見る眼差しは優しい。二人の様子を見ていたリュージュは、本当のところカルマンはトバシュを心配していたのではないかと思う。


「なあ、カルマン。阿修羅琴ってわかるか?」

「ああ、そうじゃ、兄者。何かしっておるか?」

「阿修羅琴? なんやそれは、琴やないか。あれ? 知ってると思てたのに、トバシュがこさえたもんと違ったか?」


 トバシュはフルフルと頭を左右に振る。カルマンは頭を捻りながら考えを巡らすが、答えには行きつかなかったらしい。「とにかく琴や」とだけ言って、また作業に没頭し始めた。


 何かが弾ける音、耳をキンとさせる甲高い音、リズミカルな打ち付ける音。修羅王邸に今まで聞かれたことのない音が賑やかに響いている。楽し気にモノづくりに勤しむ、似ていない双子。果たして救世主となるのか。



つづく


挿絵(By みてみん)

天羽りと様から頂きました!ありがとう!


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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの更新に喜びが湧き上がっております! そうそう、トバシュとカルマンの発明家兄弟の再会でした! カルマン、阿修羅琴のことを隠してる? そもそも阿修羅琴とは何なのか……先を知りたいけど…
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