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第四話 退屈しのぎ

※ここまでのあらすじ

八大夜叉将軍を指揮していたクベーラ王は行方不明になっている。

差し当ってやることのない阿修羅達は暇を持て余し気味だ。

一方、何かを画策する帝釈天は工匠「トバシュ」を捕獲しようとするが逃げられてしまった。

逃亡中のトバシュが向かったところは……。



 クルルは退屈していた。カリティ様と別れて修羅王邸に残ったのはいいが、一時的に平和な今、やることがない。(もっと)も、戦時でもやることがあるのかと言われたら、多分あまりないだろう。


 それでも白龍は忙しそうにしている。彼にくっついていても、『邪魔です。あっちに行ってなさい』と冷たくあしらわれる。阿修羅王は何となく元気がない。リュージュは阿修羅王のことしか考えてない。


 ――――やっぱり、カルティ様と一緒に散支夜叉のお館に行った方が良かったかな。


 なんてことも思ったりしたが、やはりここの方がいい。自分も何か役に立てないか考えよう。と前向きなクルルなのだった。


 今日は一人でここ、修羅王軍本部に来ていた。先回、この本部がいとも簡単に乗っ取られたこともあり、修羅王邸と本部の直結流道を設置した。それにより、緊急時に行き来することができるようになっている。


 クルルは緊急でも何でもないのだが、暇つぶし……、勉強がてら研究施設の見学と称してここにやってきた。『なにか役に立ちたい』というクルルの申し出に、白龍が研究施設にお願いした。見せられるところだけで良いので見せてやって欲しいと。

 白龍は今、あることで忙しい。クルルに構っていられない事情があったが、無下にもできず、諜報部の部下に頼み込んだのである。

 今、見学が一通り終わり、クルルは一人になってロビーのソファーに腰を掛けた。


「誰かいるの?」


 クルルのお尻に敷かれたトバシュは考えた。ここで騒がれて、修羅王軍に捕まるのも困る。だが、ワシを尻に敷いているのはいったい誰だ? なんかガキみたいだが、上手く言いくるめることは出来るかな? いや、ワシは口下手だしな。などと思案し始める。


『わ、おい、やめろ!』


 突然、トバシュはその場で体をよじり始めた。クルルが体がありそうなところに見当をつけて、こそばしているのだ。だが、当然トバシュの声は聞こえない。


 トバシュはソファーから飛び起きて、首の輪っかを一つ外す。


「や、やめんか」


「わ!」


「あ、し、静かにしてくれ。ワシは決して怪しい者ではない!」


 いや、全力で怪しいけど……。とクルルは思った。


「誰なの? どうして見えないの?」


 だが、慌てて騒ぐことはしない。クルルも今まで色んな目に遭ってきた。姿を消す術を持っている者も当然いるだろう。敢えて様子をうかがった。この気配からは、殺気が感じられなかったからというのもある。小動物のクルルはそういった危険な気配には敏感なのだ。


「これはな、えっと、そういう術を使っておるのだよ。ところで、おぬしは誰かな? 軍の人とも思えぬが?」


 まるで時代劇みたいな話し方をする。だが、それが不思議に安心感を与えてくれた。


「姿を見せてくれたら教えてあげるよ」


 なかなか賢い取引だ。どこで覚えたのか、クルルは主導権をあっさり握ってしまった。技術馬鹿で素直なトバシュは言いくるめるどころか、言いなりになってしまった。


「わ、わかった。でもここではまずいな。どこか場所を変えよう」

「いいよ。じゃあ、ついて来て。逃げたら大声で叫ぶよ。ここのみんなは僕の言う事ならなんでも聞くからね」

「え、し、承知した」


 馬鹿正直にもトバシュはクルルの言う通りに後ろをついて行った。トバシュにしても、このままここにホームレスよろしく住み込むわけにもいかず、藁にも縋る思いもあった。得体の知れない子供だが、軍の本部にいて誰からも咎められないのだから、それ相応の人物だろうと想像した。


「カルラさん! 修羅王邸に帰りたいんだけど、通路を開けてくれる?」


 クルルが気軽に声をかけた相手を見て、トバシュは驚いた。相手は立派な軍服を身に纏った上級将校だ。やはり、只者ではなかった。いや、待てよ、今こいつなんて言った? 修羅王邸だとー!


 クルルの背後でトバシュは大いに狼狽える。

 修羅王邸と言えば、あの天下の阿修羅王が住んでるところじゃないか! いやいや、そこに行くのか? こいつは一体何者なのだ? ワシはどうしたらいいんじゃ?


「クルルさん、承知しました。今、扉を開けますから入っていただいて構いませんよ」

「ありがとう。今日はお世話になりました」

「いえいえ、阿修羅王によろしくお伝えください」


 まるで、子供の会社見学である。白龍はクルルをこんなに甘やかして良いのか。VIP待遇にするほどのこともないだろう。もちろん白龍にそのつもりはなかったが、上に対する程よい恐怖がカルラ達にはある。それがこんな過分なクルルに対する態度になったのだと思われる。


 しかしその様子を見て、益々トバシュは混乱する。確か阿修羅王には親密な直属の部下が何人かいるという。このガキはその一人か? まさかそんなことはないだろう。ペットかな? 首を傾げているうちにクルルがさっさと前を行く。何にせよ、ここは行くしかない。トバシュは慌てて後を追った。





 場所を移して、ここは修羅王邸である。阿修羅はただっ広い庭でリュージュと二人、稽古という名のストレス発散に勤しんでいた。たまに修羅界の見回りに出るものの大立ち回りもなく、仏陀も姿を見せなくて、阿修羅のストレスはたまる一方。リュージュはそんな阿修羅のモヤモヤを一身に受け、毎回ボロボロにされていた。


 白龍は(てい)よくクルルを本部に追い出して、万華鏡を観察している。万華鏡は六界の全てを覗き見ることのできる便利なアイテムである。白龍はその鏡で今は『人間界』を見ている。


「これが原因ですかね……。この絵は阿修羅王には見せられませんね」


 白龍は長い銀髪を今日は無造作に束ねている。左右に収まりきらなかった髪が揺れている。ふちの無い眼鏡をかけて画面を凝視しする姿は、さながら秀麗な文学青年のようだ。ふっと小さなため息をつくとデータを保存する。


「しかし、この美女はどこの誰なのでしょう……」


 画面を見ながら独り言つ白龍。そこに突然、耳をつんざく警告音が鳴り響いた。修羅王軍からの緊急アラートだ。


「何事?!」


 急いでモニターを切り替えると驚くべき光景が目に飛び込んで来た。クルルが見知らぬ男に羽交い絞めにされ、短剣を突き付けられていた。





つづく



ほんわかパートはもう少し続きます。

お付き合いよろしくお願いします。^^

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― 新着の感想 ―
[一言] クルルとトバシュの新たなコンビ、なかなかに面白い人物ですね。ちょっとトバシュ気にいったかもしれないです。 白龍は仏陀の悩みを知ってしまったんですね。 さて、これからどうなるのか、ワクワクが…
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