第二十話 攻城戦
戦闘開始!
結論から言えば、ピーちゃんは活躍した。
どんな指示が白龍からあったのかは不明だが、まず一直線に本部建屋まで飛んで行った。
そして、出入り口付近にある小さな窓に取りついた。
「何か見えるか?」
「玄関ロビーにスバーフとシュンバが拘束されています」
カルラが白龍の持つモニターを見て答えた。
「やっぱりもう、落されてたんだ。行くか!」
リュージュが天馬に乗ろうと足をかける。
「待ってください。まだ絵が入ってきています」
ピーちゃんは窓から離れると、うんと高く飛び、建屋の真ん中にある中庭に降りていった。通常なら、気密性の高い建屋に疲れた隊員が、風と新鮮な空気にあたる憩いの場所となっている。だが、今はそこに、敵陣が引かれていた。
「ここにいるこいつ、誰かわかるか?」
阿修羅が陣の中央に見える、指揮官らしき人物を指さす。
「王、こいつはサンチラです」
「なに……!」
サンチラ。それは二日前、阿修羅の部屋に侵入し、彼女を襲った大蛇だ。あの肌を這ったぬめぬめした感触や、二又に分かれた赤い舌に舐められたことを思い出し悪寒が走る。
「もう動けるのか……。今日こそ絶対息の根止めてやる」
その後もピーちゃんは美味しいところを飛んでくれた。白龍、阿修羅ですばやく作戦を立てると、修羅王軍は全軍一斉に動いた。
阿修羅は白龍の背に乗って、軍の筆頭に立った。およそ千騎にも及ぶ大軍を率い、自らの城、軍本部へと向かう。
本部は円形の白を基調とした頑丈な作り、ほとんど窓はない。代わりに真ん中に中庭をもつ。上からみればドーナツのようにも見える。
一階だてだが、天井までの高さは、四階分ほどだ。ただ、地上にある部分はそれほど重要ではない。
本部の中枢は地下部分にあった。地下は深く十階に及ぶ。地下一階は留置場、二階から五階までは、修羅王軍兵士や守備隊員の住居となっている。
さらにその下は、幹部クラスしか行けない重要機密区域だ。修羅王軍が使用する道具、例えば「目」などを開発している研究施設もある。そこまで敵が入っていると厄介である。
「行けえ!」
中央玄関から一気に攻め落とすべく、天馬隊が先行、その後を歩兵隊が続いた。玄関前には、どこから湧いたのか、数百の夜叉どもが臨戦態勢である。屋上からは矢と石が降ってきて、本部を城に見立てた、さながら攻城戦の様相だ。
――――ふ、最も愚策と言われる攻城戦だが。それも攻め方による。
阿修羅はその矢や石をものともせず、入口へと突き進む。降ってくる弓を剣で振り払いながら、地上の敵を殲滅する。白龍も大きな石が当たらないよう、器用に乗り手を運んだ。修羅王軍は阿修羅に続こうと前へ進む。
だが敵も黙って通してはくれない。それを防がんと夜叉どもの地上と屋上からの攻撃は増していった。
その屋上。
陣取っていた夜叉たちは、ありったけの矢と石を放っていたが、それでも突き進んでくる修羅王軍に完全に前のめりになっていた。まさか背後にカルラ達が迫ってきているなど思いもしなかった。
カルラにとっては勝手知ったる本部である。
本部建屋の前面で、阿修羅達が全体の目を引き付けている間、少数の兵士を伴い、地下に空気を送っている通気口から建屋内に侵入した。玄関ロビーで拘束されているシュンバたちを解放して、一気に屋上へ駆け上がる。
「うわ! だれだ!」
叫ぶ暇もあたえず、カルラは指揮官らしき夜叉の首を刎ねる。下方ばかり見ていた夜叉達は、突然の攻撃に対処できなかった。あっと言う間に全滅である。
「よし! 弓を持て! 石を投げろ!」
カルラの合図で、屋上に上がった修羅王軍は、真下にいる夜叉達に矢を放ち、石を投げた。面食らったのは、下で阿修羅達と対峙していた夜叉たちである。援護するはずの矢や石が自分達に向かって降ってきたのだ。
「な、何事だ~!」
敵陣に降ってくる石や矢の雨。敵が右往左往するのを見て、阿修羅はカルラ達が成功したのを知る。
「今だ! 全軍突進せよ!」
玄関前に迫っていた修羅王軍は、阿修羅を先頭に一斉に前進する。前に立ちはだかる夜叉を一刀両断。阿修羅は白龍の背に立つと、そこを起点に右に左に展開する。目にも止まらない速さで跳び、阿修羅の剣が触れた夜叉の首を殺ぐ。
くるくると舞うように次々と殺めていく阿修羅の着地点に、白龍は正確に走った。絶妙なコンビネーションである。
白龍の進む後ろに道ができていく。修羅王軍が入り口に迫る。中では、シュンバとスバーフが玄関ロビーにいる見張りを片付け、扉を開けた。
天馬をつれて出入りできるように作られているので、その門は、間口も高さもある。修羅王軍は吸い込まれるように建屋へと進んだ。
「スバーフ! 状況を説明せよ!」
中にはいるとすぐ、阿修羅はスバーフに報告を求めた。白馬に乗る軍神の姿を見て、スバーフは飛ぶように走り寄った。
「は、只今地下三階まで占領されています。守護隊を含めて中にいた兵士たちは、戦闘不能にされて閉じ込められています」
「その下は?」
軍の最高機密に通じる場所である。滅多なことでは破られないようには出来てはいるが、ここが抜かれてるか否かで、戦い方が違ってくる。
「大丈夫です。やつらは気づいておりません」
「よし」
大きく頷くと、ロビーの高いところへと白龍を促す。コンクリート打ちっぱなしの灰色の壁がどこまでも続いている。
「歩兵は地下に行って、仲間を助けよ! 天馬隊はそのまま中庭へ進め! ぬかるな!」
阿修羅の号令に兵たちが呼応する。その高くよく通る声は無機質な壁を反射してこだました。
つづく