第一話 始まりの章
最強美少女、阿修羅王が修羅界に渦巻く異変に立ち向かう!
※改稿実施しました(3/31)
第一話 始まりの章
甘美な音楽が流れる荘厳な館。修羅界の王が住まう修羅王邸。真っ白な天蓋付きキングサイズのベッドの上で、一人の少女が夢を見ていた。
「もっと足を上げて」
耳元に甘い声がささやく。
「うん……、こう……?」
柔らかい舌が耳をくすぐる。
「んん……」
ため息のような息を吐いて、阿修羅は首に手を回す。
「阿修羅……」
名前を呼ぶ声が聞こえる。何故か遠くから。
「うーん、うふ」
腕に思わず力が入る。
「阿修羅王!」
「うわ! 何だ!」
今度は耳元で大声がした。阿修羅はたまらず飛び起きる。腕にはよれよれになった枕が抱きしめられていた。
「阿修羅王! 起きてください! 出陣ですよ!」
ベッドのわきに銀髪で色白、しかしマッチョで長身の青年が立っていた。頭部に獣の耳が二つ、ぴくぴくしている。
「うるさいなあ、白龍」
阿修羅はふかふかのベッドの上で背伸びをした。ストレートの髪を高めに束ねていた、ポニーテールと言うやつか、寝ている間に少し乱れたのを結い直している。
「いい夢見てたのに」
むくれた顔で、起こしに来た白龍を見る。
王と呼ばれてはいるが、見かけはまだ若い。ぱっと見少年なのか少女なのか判断つかない、中性的で透明な美しさが人を惹きつける。
「どうせまた、仏陀様の夢でしょう」
白龍は呆れたという風に腰に手を当て、息と共に吐いた。
「うん、そう」
まだ夢の途中なのか、頬を赤らめ幸せそうに言うと枕を再び抱き締める。仏陀というのは、仏教の開祖であるあの仏陀のこと。阿修羅の前世からの恋人である。
「まったく! ほら、お仕事ですよ!」
「わかってるよ」
布団からひょいっと降りる。長くしなやかな手足を惜しげもなく曝け出す。腰を締める細い帯が華奢な体を強調していた。
胸元で揺れる瓔珞がカランと鳴ると、途端に戦闘態勢の顔となった。
白龍は、はっとする。
毎日見ているのに、この圧倒的な美しさは何だろう。ふわっと体を纏うオーラが輝いている。切れ長で赤い瞳は他の追随を許さない強さが宿っていたが、ふとした表情に妖しさが覗く。
「で、どこのどいつが私の夢見を邪魔してるんだ?」
声をかけられ、我に返る白龍。
「あ、えっと、西の区画ですね。守護神たちが大分やられてます」
「あいつらは弱すぎるからな。リュージュはどこにいる?」
リュージュ、もう一人の阿修羅直属の部下だ。
「リュージュさんは、昨日から南の紛争鎮圧にお出かけですよ。自分で命じたじゃないですか」
「わ、わかっている!」
ぎろっと白龍を睨む。もちろん忘れていた。
「さ、行くぞ。さっさと馬に変化してくれ」
白龍は元々馬である。前世の人間界で阿修羅と共に戦った白馬。その死後、阿修羅を守った褒美として人型と言葉を持ち、阿修羅の片腕となった。
「はいはい、今すぐ」
ほんの1,2秒で天馬に変化した白龍。一点のくもりもない見事なまでの純白の馬だ。翼を二度ほど震わせて、嘶いた。
ここは『修羅界』と呼ばれる異世界。
全ての命あるモノは、輪廻転生の輪の中にある。
その輪は、天界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界 の六界で成り立っている。
修羅界は争いごとを生業とし、終始戦いに身を投じた者たちが行く場所。
この世界は一つの大陸ほどの大きな島で成り立っている。
周りを海に囲まれ、砂浜に打ち寄せる波音がとめどなく響く。
空は雲が厚く、時折覗く光は薄く儚い。
その薄暗い空の下、修羅界の住人は絶えず争いを続けていた。
阿修羅達が住む修羅王邸は、修羅界を臨む亜空間に位置する。白龍に跨り、阿修羅が館の外へ出る。森まである広い庭には、天馬に乗った修羅王軍の面々が待機していた。
「よし、出陣だ! 遅れるな!」
「うおー!」
修羅王軍、総勢10万とも1000万とも言われる。いずれも手練れの精鋭達だ。
「今日は何人いるんだ?」
阿修羅が白龍に問う。
「まあ、今日の感じだと、千人くらいでいいかなと思いました」
「ふうん、多いな。ま、いいけど」
白龍は直下の諜報部隊からの報告を受けて、軍の配分も行う。働き過ぎという声もあるが、阿修羅はそんなことに興味はない。
総勢千人の軍勢は、ゆっくりと修羅界へと降りていった。
天界の最高神、梵天の命を受け、阿修羅が白龍と共にここにやって来て数年が経っている。最初のうちは悪鬼共の小競り合いに過ぎなかったのだが、最近は何かきな臭い。
戦闘力の強い悪鬼共がどうも組織的に動いているように感じる。本来群れを成さない連中だからこそ、嫌な予感がするのだ。
修羅界が間近に迫っていた。常駐している修羅王軍配下の守護神隊が大分押されているように見える。
「ちっ、相も変わらずちんたらしてるな」
阿修羅は舌打ちしながら言うと、白龍を急降下させ、いきなり敵味方入り乱れる中へ突入した。
「小者どもが騒ぐな!」
ふわっと白龍の背から飛ぶと、その勢いのまま大将級の敵兵をぶった切る。そのまま二人、三人と秒殺で馬上の敵を粉砕した。
「うわ! 阿修羅王だ! 阿修羅王が来たぞ!」
逃げ惑う反乱分子共。だが、阿修羅は再び白龍の背に着地し、容赦なく瞬殺していく。と言っても、ここは修羅界。叩き切ったところで死にはしない。
ただ、斬られたと同等の痛みが数時間続き、離れた手足が戻るのも数日かかる。とりあえずの戦闘不能に陥らせることができるのだ。
「阿修羅王様~!」「やった! 王の出陣だ!」
守護神達は、今までの苦戦がうそのように息を吹き返す。
軍神とはよく言ったものだ。阿修羅の一太刀が振るわれる度に、劣勢だった味方は奮い立ち敵に向かっていく。精鋭の軍の力も加わって、一挙に劣勢を覆した。
「この反乱の首謀者はどいつだ」
大方の武将級をあの世、ではなく半殺しに合わせたが、一向に首謀者の姿が見えない。
「そうですね。きになっているところが。あそこです。なにか感じませんか?」
白龍が鼻づらを向ける。そこには大きな口を開けた洞窟があった。動物の勘が働いたようだ。二人は勝敗は既に決したと判断し、怪しい洞窟へ向かった。
「ふうん、確かに。だが、首謀者が逃げ隠れするとはどういうことだ」
「やはり中に誰かいます。人の気配がしますね。」
白龍は人より耳と鼻が数千倍利く。人の気配など簡単に察知することが出来た。
「そうか。では入ってみる価値はあるな」
「阿修羅王、一人では危ないです。カルラさまでもお呼びしましょうか」
歩を進める阿修羅に白龍が声をかけるが、彼女は首を振った。
「大丈夫だ。念のため、おまえそこで待っていろ」
まあ、貴方の強さなら大丈夫ですよね。と心で白龍は呟く。
「承知しました。お気をつけて」
洞窟の中はほぼ真っ暗である。修羅界はたまに月明かりが差す程度の薄暗い世界。その僅かな光も入らないのだから闇と寸分たがわない。夜目が利く阿修羅も少し心もとなくなってきた。
「灯りを……」
一度は納めた剣を取り出し、自らが纏うオーラを放つ。ぼんやりと剣が光、辺りが見えてきた。
「寒い。妙だな。ここで寒さを感じるなど……」
修羅界、天界では暑さ寒さを感じることはない。
「冷気とともに、何か、感じる……」
不意に阿修羅は眠気に襲われる。
「い、いかん、これは……」
眠るな! 目を開けろ! 阿修羅は頭の中で叫ぶ。剣を持つ手で自らの足を傷つけようとした。だが、そこで思考は止まった。
「はっ!」
どのくらい意識を失っていただろうか。阿修羅は眠気を振り払うように急激に体温を上げた。
「おや、もうお目覚めかよ。眠っている間に楽しいことをやろうと思っていたのに」
声をする方に顔を上げる。見覚えのない悪鬼が一人、下品な笑いを向けて立っていた。見かけは豚に似てるか? 小太りの腹を付き出して、鼻が丸い。
「貴様! ふざけ……!」
素早く動こうとしたその時。
「な、なんだあ、これは!」
阿修羅は手足を壁に括りつけられていた。しかも大の字に。
磔にされた阿修羅の運命は如何に?
つづく
いよいよ始まりました! どうぞよろしくお願いいたします。
※イラストは神谷吏祐先生から頂きました!
神谷先生、現在連載中の「運命は貴方を選ばせてくれない。だけどあなたを幸せにしたい」はこちら!
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※ロゴは草食動物さまより頂きました。
草食動物様の連載中「アズワードオンライン ~口下手戦士が挑むVRMMORPGのパーティ運営~」はこちら!
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