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第十五話 侵入者

前回の十四話の後半部を分けました。

読んだことある! という方、間違っていません。申し訳ないです。



 軍議が終了し、阿修羅は改めて二人の悪鬼神について調べていた。軍議室にはもう誰もいない。窓のないこの部屋には日差しも入らないが、モニターの光をより鮮明に映し出していた。


 ――――無比力(むひりき)散支(さんし)も天界でしょうもない戦をしかけている。相手は同じく悪鬼神の宝賢(ほうけん)満賢(まんけん)兄弟か。こいつらもかなり怪しいな。


「ピピピッ」


 阿修羅の右肩には、またあの青い鳥が乗っていた。


「なんだ、ピーちゃん。何か用か?」


 既に名前がつけられていた。しかもこれしかないだろうレベルのベタな名前が。


「どう思う? こいつらすぐに動いてくれるかな。待っているのは性に合わなくてね。動かないなら、こっちから出向きたくなる」


 と鳥、ピーちゃんに話しかける阿修羅。白龍や部下達と話す時には考えられないくらい優しいトーンである。


「ピピッ」

「でも、勝手に動くとまた白龍に怒られるしな」

「ピピピピッ」


 まるで返事をしているようなピーちゃんである。阿修羅の肩で、彼女が話しかけるたびに、相槌のように鳴いた。見えない戦局のなかで、不思議に和ませる小鳥の声。自然と頬が緩む。阿修羅は修羅界の地図を眺めた。


 ――――無比力と散支は、西と東に勢力を持っている。この距離は厄介だな。動いて欲しいのは山々だが、同時も困る。


「だが、もし連携しているのなら、同時に動くのが戦略だな」


 今度は声を出して言ってみた。取り立てて意味はないが、自分の考えを声にだすことで、思考の巡りをよくできるように阿修羅は思っていた。


「ピッ」


 阿修羅の声に呼応するように、ピーちゃんは短く鳴くと、どこかに飛んで行ってしまった。肩のあたりが軽くなったのを感じて、二度三度、グルグルと肩を回す。


 ――――あれ、そう言えば、ピーちゃんってどこから来たのだろう?


 ふと、疑問に思う阿修羅。しかし、その思考はすぐにかき消された。


「王! 無比力の館が炎上しています!」

「何?! 炎上?」


 万華鏡をさっと映す。そこには赤々とした炎と真っ黒な煙を上げる光景が映し出された。





 阿修羅は千人ほどの部下を連れて修羅界へ降りる。無比力の館は修羅界西部の森の中にあり、通常なら観光地になりそうな美しい洋館だった。だが今、真っ赤に燃え上がる館の周辺では、無比力配下の夜叉とどこかの悪鬼たちが交戦している。争い事で火が付いたのか、炎があがるのに興奮して交戦しているのかわからない。なにせどんなきっかけでも戦い合うのが修羅界だ。


「無比力を探せ!」


 阿修羅は火事場に着くと、兵に命じた。

無比力(むひりき)の館はすでにそのほとんどが焼け落ちている。付近の燃えそうな森や木は、いち早く到着した守護隊が結界を張って守っていた。


「ごほッ」


 煙が目と喉に入って、涙と咳が出る。


「おい! おまえらなんで戦っている。誰と戦っているのだ?!」


 そんな息苦しさの中で戦っている夜叉の一人をひっ捕まえて問いただす。だが夜叉達は、質問に問答無用で斬りかかってくる。仕方なくこちらも無言で腹に一撃をお見舞いする。誰も問いに答える暇と器量は持ち合わせてないようだ。矢継ぎ早に阿修羅に向かって敵が迫った。


「ちっ!」


 前から襲ってくる敵を目にも止まらぬ剣技で薙ぐ。赤い横一文字の線ができると、バタバタと崩れ落ちていった。背後に迫る敵にも、振り向きざまに一刀両断。あっという間に周囲の悪鬼、夜叉どもを地に伏させる。


「息のある者で階級の高そうなのを何人か軍本部へ連れていけ!」


 近くにいる修羅王軍の兵士たちに指示をだす。阿修羅はここでの尋問を諦め、本部で取り調べることにした。


「王、無比力はどこにもおりません。ここにいるのは雑魚ばかりのようです」

「だろうな。一体何が目的なのか」

 

 馬のままで報告に来た白龍にそう答える。だが、自分のその言葉に阿修羅はハッとして白龍に問うた。


「散支のところは大丈夫か?」 

「大丈夫です。そこは抜かり在りません」

「そうか。流石だな」


 慌てず答える白龍に、阿修羅は唇の右端を軽く上げて満足そうに頷いた。くすぶり続ける館から吐き出される煙に、辺りは真っ白な空気で覆われている。その中から、長い黒髪を後ろで束ねた剣士が姿を見せた。


「おい、こいつら全然歯ごたえないぜ」

「ご苦労。おまえの腕があがったのも要因だろう」


 一通り夜叉や悪鬼どもを掃除してきたリュージュである。腕組みをしながら応える阿修羅の言葉に、まんざらでもなさそうに口角を上げた。

 

「だが、この騒ぎには何かの意図がある。油断はならない」

 

 束の間の笑みも消え、三人は、いや、二人と一頭は、焦げ臭い匂いと煙に包まれ、焦土と化した荒野に佇んでいた。





 その夜、阿修羅は湯船に浸かっていた。煙臭くなった髪や体を洗いあげ、今は柔らかな湯の中で上機嫌だ。鼻歌の一つも出てくる。

 生れたままの姿で、バスルームの鏡の前に立つ。湯上りの火照った肌はいつも以上に艶めかしい。長い手足、くびれた腰、程よい大きさで形よくつんと上向いた胸。美しい線を描く首筋から鎖骨。付けっぱなしの瓔珞(ようらく)が輝きを増す。いつもは束ねられた髪も、肩から胸のあたりまで降り、肌を濡らしている。


 ――――悪くないよな。


 なんて自画自賛しながら大きめの真っ白なタオルで体を拭く。拭いているつもりだった。


 ――――ん? なんか拭きとれない……!


 阿修羅は目を見張った。そのタオルには真っ赤に光る目が二つあった。


「なに!」


 タオルと思っていたものは、シュルシュルと長く伸び、目と同じ赤の長く二つに割れた舌で阿修羅の首元を舐めた。


「や、やめろ!」


 体に纏っていたタオルは緑色に光る大蛇だった。それは驚くべき速さで阿修羅の右腕を締め、右足を絡めて、太ももを這って股の間から背中、細い腰を捲き、さらに左腕を巻き込んで胸元に達した。


 ――――う、動けない!


 尋常でない力で締め付けてくる大蛇。首にせまる大蛇の牙を左手で必死に抑えるが力がはいらない。


 ――――た、助けて……。


 長い髪からしたたり落ちる水滴が床を濡らしていた。




つづく




大体2000字~2500字/一話 で行きたいと思います。いつもイベントが二つになってる気がして。

また、イベントがないほんわか回もございますのでよろしくお願いします。

何かございましたら、教えてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うお。蛇までえろい!!
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