第十四話 珍客来る
前代未聞の仏教系神話ファンタジ-。っていうジャンルを作ってみた。
阿修羅が流道を通って王邸に帰ってきたら、なにやらリュージュと白龍が騒がしかった。
「何をしている?」
その声に二人は、恐る恐る振り向いた。顔はやや引き攣っている。
「どうした。一体何事だ!」
「い、いや、大したことじゃないんだ。どこからか鳥が入ってきて」
修羅王邸の高く白い天井。レリーフ状の幾何学模様が施されたなかなか芸術的な造りになっている。その天井の真ん中辺りを指さしながらリュージュが答えた。
「鳥?」
阿修羅が指の先を見る。確かに水色の綺麗なインコのような鳥が飛びまわっている。
「なんとか捕まえようと思うのですが、なかなかすばしこくて」
大きな網を手にしている白龍が申し訳なさそうに言う。
「鳥なんてどうでもいいじゃないか」
阿修羅はげんなりして答えた。天界に行くと何故か疲れを感じる。あの濃い二人に対して、対等を保とうとすると無駄に肩に力が入ってしまう。
「ん~!」
と思い切り背伸びをすると、その水色の鳥が阿修羅の肩に乗った。
「あれ?」
肩にちょこんと乗ると、「チチチチ」と可愛らしい声で鳴いた。
「いい声だな。おまえ」
阿修羅が指を持って行くと、ひょいとその指に乗る。小首を傾げるその姿がなんだか可愛い。
「王のことが気に入ったようですね」
「なんだよ。捕まえる必要なかったな」
二人はその光景になんだか癒されてしまった。白龍はまだ人間界で白馬であった頃、小鳥たちが寄ってきては歌を聴かせてくれたことを思い出した。
――なんだか。ほっとしますね――
「鳥かごに入るのは嫌なのだろう。好きにさせておけ」
阿修羅はそう言うと、指から鳥を放つ。鳥はまた歌いながら館の中をくるくると飛んでいた。
「白龍、天界からリストが来ているだろう。目を通したか?」
鳥騒動が一段落して落ち着くと、阿修羅は早速軍議に入った。白龍、リュージュの他にもカルラ達修羅王軍幹部も数名、王邸軍議室に集合した。
軍議室は数台のモニターに万華鏡、膨大のデータを処理する機器が並ぶ無機質な部屋だ。大きなテーブルの所謂お誕生日席に阿修羅が座り、両側に白龍とリュージュ、以下幹部が序列順に並んでいる。窓がないので陽の光は入らないが、柔らかな照明光が部屋を白く浮かび上がらせていた。
「これですね。確かにここにいる悪鬼神は全て修羅界での特一です」
「ああ」
送信されてきたリストを大きな画面に出して見せる。阿修羅はざっと見て、考え込んだ。
「今、不穏な動きをしている夜叉はいるか」
「そうですね。八人を正確に言い当てるのは難しいですが。まずはこの二人でしょうか」
白龍は直下の諜報部隊から上がって来た名前と自分で調査したことを合わせ、とりあえず怪しい二名をあぶりだした。
「無比力と散支か」
阿修羅が腕を組みながら呟くように言った。
「どこにいるんだ、こいつら? 白龍や阿修羅は戦ったことあるのか?」
二人のやり取りを黙って聞いていたリュージュが口を挟んだ。
「いや。それはないですよ。と言うか、会ったこともございませんね」
「悪鬼神は、存在だけで目立つからな。何か事を起こせば、すぐに私たち修羅王軍が動く」
つまり表立って動くことはないということだ。少なくとも今までは。
「なるほどね。で、諜報部が調べてみたら、何か怪しいってことか?」
「両名ともここふた月、人の出入りが多いことと、密厳夜叉と会っていた節があることですね」
「いいだろう」
阿修羅は形のよい顎に右手を添え頷いた。白龍の調査に満足したようだった。
「まずは二邸を張れ。密厳がやられたのを見て、すぐ動くか。それともしばらく様子を見るのか」
阿修羅が纏うオーラが赤みを帯びていく。両サイドに流れている前髪の先も同じ色に染まる。恐ろしさよりも美しいと感じてしまう。
白龍もリュージュもそこにいた幹部たちも、つい見とれる。長い手足、不用意に空いた胸元に揺れる瓔珞。赤く輝く瞳と桃色の唇。
「チチチチ」
各々がひと時の妄想の中にいたとき、目が覚めるような鮮やかな青い鳥が飛んできた。
「ん? おまえか。名前でもつけてやるか」
鳥はまた、ちゃっかり阿修羅の肩にのっている。そのうち胸元の瓔珞あたりを突きだした。
「あ、こら。やめんか」
阿修羅が体を捩る。その度に瓔珞が揺れ、胸元の開いた部分が寄って白い肌とふくらみが見え隠れする。
――――俺、あの鳥になりたい……。
――――そこじゃない! もっと右だ、右!
――――あの鳥……。オスじゃないだろな!
――――リュージュさん、鼻血出さないといいですけど。
などとみんな各々勝手に思うが、目はそこに釘付けである。阿修羅は適当に鳥をあしらいながら指示を続けた。
「他の悪鬼神も一応目を離すな。だが、まずはこの二人を突いてみよう。待つのは趣味じゃ……、おい! 何を見ているか!」
部下たちの視線を感じた阿修羅が、少し赤くなって怒鳴る。大声に驚いて鳥は飛んでいってしまった。
「リュージュ! 鼻血拭け! 愚か者が!」
「え? あ、すまん!」
――――やっぱり……。
慌ててハンカチで鼻血を拭くリュージュを見て、白龍はくすっと笑った。
つづく
ピーちゃん?
一話毎が少し長いかな。と思っています。
この回の後半部分を次回に持っていきました。
※4月5日(日)17時改稿済み。