第五十話 進撃 (FA掲載しています)
更新回数が100回となりました。
動きのある回で良かったです。
中央、右方で修羅王軍の勝鬨が同時に上がった時、左方でも同様な歓声があがる。左の軍勢を率いていたのは恐らく、バクシャ(広目天)と思われる。トウリ天では西門を守護していた神だ。
彼の軍勢を叩いたのは、「黄金の天車」。つまり、双子が自ら製作した最新鋭兵器を駆使して左方に展開していた軍勢を叩いたのである。善見城を臨む空域は単騎同士で戦う連中がそこかしこにはいたが、修羅王軍がほぼ制圧した。
地上に目を向ければ、そこには既に梵天からの砲弾が地面をごっそりえぐり、視界の限りに連なっていたテントは跡形もない。
「よし、いよいよ城へ攻め込むぞ! 続け!」
白龍の背に乗る阿修羅が、先頭で檄を飛ばした。それに呼応する何千騎にものぼる味方の兵士達。見渡せば、梵天の天界軍も修羅王軍の後方に従っている。
いつの間にか何倍にも増えた軍勢に阿修羅は口元を緩ませた。
だが、そんな余裕を感じた時間は長くは続かなかった。数千騎が一斉に城へ向かって突撃を掛けたその時、突如として上空に雷雲が現れ、さんさんと光を放っていた太陽を隠してしまった。辺りは瞬く間に暗闇に沈む。
「いかん! 来るぞ!」
阿修羅が叫ぶ間もなく、暗雲に数十本の稲光が走り回る。まるで何頭もの竜が空を翔けるがごとく壮絶な光景だ。しかし、それも束の間、その竜は一斉に修羅王軍、天界軍に容赦なく突き刺さってきた。
「うわあ!」「ぎゃあ!」
あちこちで雷に撃たれた兵士や天馬が地上へ墜落していく。
「カルマン! 急げ!」
阿修羅が天車に向かって叫ぶ。天車の中ではカルマンとトバシュが操作パネルの上に指を走らせている。『神の護り』の発動だ。
予定より隊の数が増えたが、何とか後ろまでカバーできそうだ。阿修羅達修羅王軍の精鋭達の手首には、『癒しの腕輪』と合体させた『神の護りα』が嵌められ、既に作動している。
しかし、その護りを力ずくで突き崩す勢いで、次から次へと『金剛杵』が撃ち込まれる。
「くそ! 帝釈天どこにいる!?」
帝釈天の姿は見えないが、前方から大きな真っ黒な塊が広がり、迫ってくる。善見城から放たれた、帝釈天本隊の登場だ。空を黒く染め上げるほどの天馬隊は、修羅王軍と天界軍合同軍をあざ笑う万を超える隊だった。
――――来たな。ヤツの精鋭隊。何千年も戦っても勝利を得ることはなかった。
雷雲とともに大きな雨粒が降りてくる。雨は雷撃の威力を増すものだ。ゴッドシールドも万能ではない。雷撃が広範囲に渡り衝撃も増大、さらには間近に迫る大軍に修羅王軍は浮足立つ。最前線では大粒の雨と稲光が阿修羅達の進撃を阻んだ。
「リュージュ、前へ出ろ! ナーガとともに軍を導け!」
「任せろ!」
雨も雷撃もものともしないナーガを前面に押し出し、軍を進ませる作戦だ。前へ出た龍王ナーガが雄たけびを上げると空気も地上も兵士達もびりびりと振動した。味方は勇気を振り絞ることができ、逆に敵兵は怖れから前への推進力が鈍った。
「今だ! 怯まず進め!」
再び阿修羅が半身を翻して叫んだ。呼応する声が雷雨に負けずに響き渡る。隊は一斉に前へと進み、ついに帝釈天軍精鋭達との肉弾戦の火ぶたが切られた。
「白龍、前へ行くぞ、帝釈天はこの先にいる! あいつは私が仕留める!」
阿修羅の首を獲ろうと迫ってくる敵の精鋭達を瞬殺して前への道をこじ開けていく。白龍は王の意に沿うよう、己の力の全てを前進へと注いだ。いつの間にか、リュージュの乗るナーガと頭を並べるほどになっている。
修羅王軍は二つのトップを先端にして、激流を遡る二隻の船のように前へと突き進んで行く。兵士たちは雨と血にまみれながら剣、槍、矛を振るい、敵を蹴散らしながら必死にもがいた。
帝釈天は己の最強軍の全てを繰り出し、その最後尾で金剛杵を天に向けて翳していた。彼の周りには王を守るべく、怖れを知らぬ精鋭、親衛隊が固めている。
本来、金剛杵は、相手に当てて使うものではない。天に翳し、雷雲を操り嵐を起こす武器だ。その威力は一つの市を焼き尽くすことも厭わないほどだ。実際そうやって滅ぼされた都市もある。インドラの雷、矢と呼ばれているものである(インドラとはサンスクリット語の帝釈天のこと)。
帝釈天は身を赤の下地に黄金と宝石で彩られた見事な鎧を纏っていた。険しい双眸は眼力を持って遠く自軍とぶつかる修羅王軍の先頭を見つめていた。そこには我が兵士たちを蹴散らし進む阿修羅の姿があった。
――――来るのか、阿修羅。おまえを手に掛ける時が迫っているということか。
帝釈天の武器は金剛杵だけではない。腰に帯剣する大剣の他に、彼には必殺の槍があった。必ず自らの敵の心の臓を貫く必殺の槍、決して的を外さない槍だ。
先の大戦では、帝釈天はその槍を使うに至らなかった。双方が間近で相対することがなかったからだ。
――――だが、恐らくおまえはここに辿り着くだろう。その時私は、この槍をおまえ目掛けて投げなければなるまい。望む望まないに関わらず……。
阿修羅と龍王ナーガを先頭にした二つの矛先は、着実に帝釈天に迫ってきている。幾つもの血飛沫と肉片が宙を舞う。
雷撃が光る度、コマ送りのように美しい人の剣技を映し出していた。そしてその後ろには、巨大な天車が砲弾を撃ち続けながら、その大きさを徐々に示している。
「例え何があろうと、私は負けるわけにはいかんのだ! 私は天界の王なのだから!」
帝釈天は迷いを打ち消すように空気をつんざく大声で吠えた。そして自らの象徴でもある金剛杵を天に掲げ、真っ暗な天空に巨大な光の龍を走らせた。
つづく
第二部以降に頂いたFAです。
いつもありがとうございます!
天羽りと様
遠那若生様
ここまで続けられたのは、読者の皆様のお陰です。
ありがとうございます。
『輪転』は、もうしばらく続きます。
どうぞ最後までお付き合いお願いします。