序文 人間界から修羅界へ
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物語のメインキャストです!
序章 人間界から修羅界へ
はるか、遠くはるか昔、人間界の片隅に一人の美しい少女がいた。
その少女は、戦いにおいておよそ人間離れした強さを誇り、その時代の軍神とすら呼ばれた。
名を『阿修羅』と言う。
戦では数多の戦士や人民を殺傷し、勝利を欲しいままにしたが、敵の刃にかかって命を落とした。
彼女が愛した、ある男を庇って。
彼女が庇った人物。それは後の人間界の救世主となる、仏陀その人だった。
死の直後、阿修羅は天界に呼び出しをくらった。理由は分からない。
華奢で長い手足。流れるような髪をつむじ辺りで束ねた見目麗しい少女。最強を誇った戦士とはとても思えない。
ただ、赤い瞳に宿る強い光だけは尋常ではなかった。
「阿修羅殿。私は天界の最高神、梵天と申します。あなたの今後について重要なお話がございます」
梵天と名乗った、輝くシルクのような衣をまとった小太りの神は、そんな阿修羅をじっと見つめながら話を続けた。
「本来なら、多くの人を殺した罪で貴方は地獄に行く身です。が、あなたは自分の命を投げ出して、この世界の最重要人物の命を救いました。その行いに免じてご提案がございます」
「最重要人物? ああ、シッダールタのことか。あいつは確かに仏陀になると預言されていたな」
阿修羅は天界の最高神、梵天の前でも横着な態度のままだった。
自分が死んだことは十分理解していた。仏陀が殺される寸前に身代わりとなり、仇敵の毒爪にかかった。そのことに未練はなかったし、地獄行きも覚悟していた。
神様だがなんだか知らんが、頭を下げる必要はない。
「左様でございます。あなたは宇宙全ての救世主となる『仏陀』様の命を救った。そのほうびとして、天界人の席をご用意しております」
阿修羅は少し驚いた。愛した男の器ではない。
「地獄から天国とは凄い違いだな」
この報酬に驚いた。まさに天と地。
「ただ、一つだけ条件がございます」
梵天はもったいぶったように一つ咳をすると、阿修羅にカギを渡した。
「これは?」
「これは、かつての修羅界の王が住んでいた邸宅の鍵です」
「しゅらかい?」
「前世を戦いの中に生きた者達が行く世界。それを『修羅界』と申します。あなたにはそこの王となって、治めて頂きたい」
「王? 治めるだと?」
「そうです。最強戦士と言われた貴方なら出来る筈です。修羅界では近頃、怪しい動きが目立つようになりました。力を持った悪鬼が暴れ回っています」
「それを私に鎮めろというのか? 天界のごほうびと言いながら、ペナルティのほうが大きいんじゃないか?」
はん! と阿修羅は自らの膝を叩き、馬鹿にしたように鼻で笑った。梵天は苦い顔をしたが、ここで怯んではいられない。強い調子でこう応えた。
「はい。しかし断ることは出来ません。これは仏陀様の願いでもありますから。私としても、あなたを地獄へ行かせたくはないですからな」
断れば地獄ってわけね。梵天の食えない顔を見ていると、素直に聞くのも面白くないが、阿修羅とて地獄に行きたいわけではない。軽くため息をつきながらこう一言返答した。
「いいだろう」
画して、阿修羅は争いの絶えぬ「修羅界」を治めるべく、部下たちと共に日々励むこととなった。
思わぬことで「修羅界」の王となった阿修羅。日々の戦いに身を置きながらもおのれを貫き、愛にも妥協はない。
第一話につづく
イラストは@神谷吏祐先生
ロゴは@草食動物様から頂きました。
※第一話から、序文を分割しました。(4/18)