(番外編)ナーヴェの花嫁姿
番外編 ナーヴェの花嫁姿
一
先日、父親からテゾーロと名づけられた胎児は、肉体の胎盤の中で元気に動いている。正直、重くて怠いが、それ以上に幸せと感じるから不思議だ。
(まあ、とても怠惰に、ごろごろさせて貰っているし、ね……)
過保護な王は、ナーヴェが一人で歩くのを見るたび、眉をひそめて駆け寄ってくるので困る。
(健康のためには、動くことも大切なんだけれど……。ぼくの歩き方が危なっかしい所為もあるのかな……)
妊娠している肉体というものは、本当に扱いが難しい。
(でも、きみを無事に産むまで、努力するからね……)
ナーヴェは妊娠五ヶ月にならんとする膨らんだ腹をそっと撫で、柔らかな朝日の中、目を開けた。
「起きたか」
すぐに王が声を掛けてくる。ナーヴェが目覚めるのを待ち侘びていたようだ。
「急ぎの用があるなら、起こしてくれて構わないけれど?」
ナーヴェが応じると、既に着替えを終えた王は、寝台に歩み寄ってきて腰掛けた。
「そこまで急ぎという訳ではない。眠りたいだけ眠るがよい。ただ、相談があってな」
見下ろしてくる青空色の双眸には、慈愛と懸念の色がある。ナーヴェは目を瞬いた。
「改めて『相談』だなんて、きみらしくないね。何か深刻な案件があるのかい?」
テッラ・ロッサへと繋げる水路工事で、問題が起きたのだろうか。
「ふむ。そなたの皮肉なぞ軽く聞き流せるほど、極めて深刻な案件だ」
若き王は大真面目な表情で頷いた。
「……別に、『皮肉』ではなくて、事実の指摘なんだけれど」
呟いたナーヴェの頬に優しく触れ、アッズーロは明かした。
「来月、仲秋の月十五の日に、われとそなたの婚儀を執り行なう。われらの婚姻について、大臣どもの同意は疾うに取り付けた上、そなたは既に懐妊済みだからな。何の問題もない。問題は、そなたがどのような衣装で婚儀に臨むかだ」
「……相談すべきは、服装ではなくて、婚儀を行なう、ということのほうだと思うんだけれど」
婚儀について初耳だったナーヴェは、控え目に抗議した。全く、この王は幾ら窘めても、独断専行をやめようとしない。
(チェーロに、王太子の教育について、もっと助言しておくんだった……)
後悔先に立たず、である――。
「婚儀は、必ず執り行なうべきもの。相談する必要はあるまい?」
アッズーロは軽く片眉を上げて言い放つと、大真面目な表情に戻って告げた。
「それより衣装だ。そなたの腹はこのように膨らんでおるし、そもそも、そなたは初夜であっても常の服装を貫いた頑固者ゆえ、どのようにすべきか、われにも判断が付かぬのだ」
「この体型で着られる服なら、別に何でも着るよ。ただ、できるだけ綺麗に荘厳に見せるほうが、政治的に意味があると思う」
ナーヴェが意見を述べると、アッズーロは、軽く驚いた顔になった。
「婚礼衣装は嫌がらんのか?」
「……嫌がってほしいのかい?」
ナーヴェは怪訝な思いで問い返した。
「いや、そうではないが……」
アッズーロは憮然とした口調で言う。
「初夜の時は、あれほど頑なだったではないか。そなたらしくもなく、フィオーレも随分と困らせて」
「あの時は……、ぼくがきみの妃になって、きみの子の母になるなんて、絶対にすべきではないと思っていたから……」
ナーヴェは溜め息交じりに答えた。ほんの五ヶ月前から、疑似人格電脳としての自分の在りようも随分と変わったものだ。
「ならば、今はどうなのだ……?」
アッズーロは心配そうに訊いてきた。ナーヴェのことを愛していると言うだけあって、最近は独断専行ながら、随分とナーヴェの意思を気にしてくる。疑似人格電脳としては複雑な気分だ。
「今は――、嬉しい、かな。この状況を、ぼくは前向きに受け入れている。きみのお陰で肉体を持って、きみのお陰で妊娠して、そうだね、疑似人格電脳がこんなことをしてはいけないと知りつつも、ぼくは、喜んでいるよ」
「そうか」
アッズーロは優しく目を細めると、ナーヴェの頬から顎へ手を動かして口付けてきた。唇を上、下と啄み、前歯を舐めてから、中へ入ってくる。ナーヴェの舌を舌で捕らえて、嬲ってくる。
「……ぁ、はあ」
息が上がる。けれど、気持ちいい。
(きみに触れられるのだけは、こんなにも快感だなんて、酷い不具合だよ……)
肉体というものは、時に度し難い。ナーヴェが陶然となっているからか、アッズーロの舌は、どんどんと奥まで入ってくる。目の端で見れば、先ほどまで寝室にいたフィオーレとミエーレは、遠慮して姿を消してしまっている。
(アッズーロ、ちゃんと歯止めが利くかな……?)
テゾーロに悪影響が出るような行為は防がなければならない。だが、ナーヴェが行動を起こす前に、若い王は不意に口付けを終えた。
「……ナーヴェ」
真上から見下ろしてきて、王は苦い声を出す。
「そのように蕩けた顔を致すな。わが理性を試す気か」
「……ぼくの所為、なのかい……?」
ナーヴェは息も絶え絶えに言い返した。
「そうだ」
アッズーロは、青い髪に指を絡めながら決めつけてくる。
「そなたが、愛らし過ぎるのだ」
「……今度、機会があれば、本体の培養槽で、外見を、少し変えようか……?」
「ならん! そなたはそのままがよいのだ」
アッズーロの即答に、ナーヴェは苦笑した。全く、我が儘な王だ。だが愛しい。
(やっぱり、ぼくの不具合は相当酷いね……)
「――とりあえず、婚礼衣装は着るのだな?」
話題を戻してきたアッズーロに、ナーヴェは枕の上で首を縦に振った。
「うん。破廉恥なものでない限りは、ちゃんと着るよ」
「破廉恥なもの、か……」
アッズーロの双眸に、不穏な光が宿る。
「よいかもしれん……」
「ちょっと、アッズーロ……?」
不安を覚えたナーヴェに、青年王は悪戯っぽい笑みを向けた。
「安心せよ。臣下どもにそなたの破廉恥な姿を見せたりなぞ絶対にせん。だが、われだけが見る夜着ならば、破廉恥なものもありかもしれん……」
「嫌だよ、そんな、何の必要性もないのに、破廉恥な格好をするなんて……」
顔をしかめて再考を促したナーヴェに、アッズーロは胸を張った。
「必要性はあるぞ。わが目を大いに楽しませ、子作りの成功率を上げる、というな。王に多くの子が授かるというは、国にとって重要なことであろう?」
「……それは認めるけれど、テゾーロを妊娠している今は必要ないし、きみは、ぼくがそんな格好をしなくても、充分、高い成功率を保てると思うよ……?」
懸命に説得したナーヴェに、アッズーロは肩を竦めた。
「冗談だ。戯れ言を信じるでない。そなたは、そのままでよいと言うたであろう? だが、婚儀は別だ。わが臣下ども、民どもに、そなたが如何に妃に相応しいかを示さねばならんからな」
説得の成功に、ナーヴェは安堵して王の双眸を真っ直ぐに見上げ、微笑んだ。
「うん。分かっているよ」
「では、早速、衣装係の者どもに命じて、製作に取り掛からせるとしよう」
アッズーロは満足げに宣言し、もう一度ナーヴェの頬を撫でてから廊下へ向かって声を張る。
「ミエーレ、朝食の準備を致せ。フィオーレ、レーニョを呼ぶがよい」
「仰せのままに」
「畏まりました」
ミエーレとフィオーレの声が応じて、静かな足音が遠ざかっていった。
「今日の朝食は何だい?」
ナーヴェは楽しみに尋ねた。悪阻で食べられなくなったものもあるが、新たに好むようになったものもある。アッズーロはその全てを把握して、献立を考えてくれるのだ。
「うむ」
アッズーロは得意そうに教えてくれる。
「発酵乳に干し杏を混ぜたもの。胡桃と兎の挽肉の月餅。それに梨果汁だ」
「月餅は久し振りだね。それに、ちゃんと発酵乳を献立に入れてあるんだ。ありがとう、嬉しいよ」
ナーヴェは心の底から礼を述べた。悪阻の所為で乾酪は食べられなくなったが、逆に発酵乳は大好物となっているのだ。
「ふむ。そなたの喜びはわが歓び。しっかりと食して、元気な子を産むがよい」
「うん。そうできるよう、努力するよ」
ナーヴェはアッズーロの助けを借りて、寝台から起き上がった。そこへ、涼やかなフィオーレの声が廊下から聞こえた。
「陛下、レーニョを呼んで参りました」
「レーニョ、そこで聞け」
アッズーロは再び声を張る。幼馴染みの侍従にすら、寝起きのナーヴェを見せる気はないらしい。
「ナーヴェの婚礼衣装を衣装係に命じて作らせよ。まずはナーヴェの朝食後に採寸に来させるがよい」
「仰せのままに」
生真面目なレーニョの声が、明るく応じた。
目に見えて腹が膨らんできたナーヴェの動きは、いつ見ても危なっかしい。アッズーロは片時も離れず、その着替えを手伝ってから、フィオーレに命じて、卓をナーヴェの寝台まで運ばせた。そこへ、ミエーレが運んできた朝食を並べる。アッズーロは自ら椅子を運んで、寝台脇に置き、ナーヴェをすぐ支えられる位置に座った。
「見た目も綺麗で、美味しそうだね」
ナーヴェは発酵乳に浮かぶ干し杏の薄切りや、月餅の上で模様を描く蜂蜜に、花のような笑顔になる。可愛い。少し億劫そうに腹に手を添えて卓に向かう姿すら愛らしい。
(孕み女を愛らしく思うなぞ、昔は考えもせなんだがな……。どのような姿でも愛らしく思うは、そなたゆえか)
アッズーロは宝の魅力に感心しながら、肉刀を使い、ナーヴェの皿の月餅二つを、それぞれ四切れずつに切り分けてやった。
「ありがとう」
律儀に、可愛らしく礼を述べて、ナーヴェはいつものように食べ物へ感謝を捧げる。
「命達よ、いただきます」
「存分に味わうがよい」
アッズーロは、ナーヴェが匙を取って、まずは発酵乳から食べ始めるのを暫く見守ってから、自身も匙を取った。
悪阻がある以外は、ナーヴェの食欲に問題はない。テゾーロと名づけた胎児の成長も順調だという。だが、産まれるまで予断を許さないのが妊娠というものだ。アッズーロは発酵乳を一口含んで味を確かめてから、最愛に問うた。
「何か他にも食べたいものがあれば、遠慮なく申すがよい」
「きみがぼくとこの子のために考えてくれる献立が、何より嬉しいよ」
ナーヴェは瑠璃色の双眸でアッズーロを見つめ、微笑む。
「そうか。ならば、毎食、知恵を絞って考えるとしよう」
アッズーロは微笑み返して、発酵乳を平らげていった。王城料理長チューゾは、アッズーロが求めた通りの味を創り出している。ナーヴェの感嘆を引き出した料理の飾り付けもチューゾの功績だ。
(また褒めてやらんとな)
寡黙なチューゾは喜怒哀楽をあまり表さないが、アッズーロの言葉は一つ一つ真摯に受け止め、研鑽し続ける優秀な料理人だ。
(チューゾにも、一度、献立案を訊いてみるか)
妊婦向けの料理について、新しい知識を仕入れられるかもしれない。アッズーロは研究心を募らせつつ、自らの月餅を切り分けた。
発酵乳を美味しそうに食べ終えたナーヴェは、月餅も兎の挽肉入りのほうから口に入れて幸せそうに咀嚼している。その顔を見ていると、アッズーロも満たされた気分になる。ナーヴェは、月餅の最初の一切れを呑み込んでから、輝く目をアッズーロへ向けた。
「香ばしいのに、優しい味だね……! 刻んで入れてある香草は何だい?」
「韮だ。羊や豚によく合わせるが、兎にも合うかと思うてな。そなたは悪阻で胡荽や三葉が食べられんようになったが、玉葱は大丈夫とも言うておったから、味の似ておる韮なら問題なかろう?」
「うん。とても美味しいよ。そう、これが韮なんだ……!」
味や匂いにとりわけ感動するナーヴェは、初めて味わう香草に舌鼓を打っている。
(これからは、香草の類もいろいろと使ってみるか。まあ、こやつも悪阻で香りの好き嫌いが激しくなっておるから、試し試しだが)
アッズーロはさまざまな香草を思い浮かべながら、自分も兎挽肉の月餅から食べていった。こちらも、チューゾはアッズーロの注文通りに作っている。
(火の通し方も完璧よな)
満足したアッズーロの視線の先で、ナーヴェは兎挽肉の月餅を食べ終え、胡桃の月餅に肉叉を伸ばした。一切れずつ胡桃の月餅を頬張り、目を細めている宝は、本当に愛おしい。
(王でなければ、そなたを喜ばせるために日夜、厨房で、われ自身が研鑽を積むのだが。しかし、王でないわれには、そなたは用がなかろうからな)
胸中で溜め息をつき、アッズーロは自らも胡桃の月餅の味を確かめていった。目の前で、宝は綺麗に月餅を食べ尽くしていく。食欲旺盛なようで、安心だ。やがて梨果汁まで全てを胃に収めた最愛は、幸福そうにアッズーロを見つめて言った。
「ごちそうさまでした」
「腹は一杯か?」
アッズーロが尋ねると、ナーヴェは笑顔で頷いた。
「うん。丁度いい量だったよ。きみの料理に関する計算は、いつもとても正確だね」
「そなたの胃袋については、好みも容量も、ほぼ掌握したゆえな。わが努力を大いに褒め称えるがよい」
胸を張ったアッズーロに、ナーヴェは相好を崩す。
「きみのそういうところは、本当に凄いなあと思うよ。テゾーロのためもあるんだろうけれど、毎日美味しいものを食べさせて貰えて、ちょっと幸せ過ぎるくらいだよ」
最愛からそのように言われると、胸が熱くなる。アッズーロは残っていた梨果汁を飲み干し、無言で席を立つと、ナーヴェの後頭部と顎に手を添えて些か強引に口付けた。
「っ……」
ナーヴェは驚いたようだったが、抵抗はしない。そのまま、食べさせた料理の味がするナーヴェの口腔内を味わい、舌を絡めて、アッズーロは口付けを深くした。可愛い舌を裏も表も根元から舐め上げると、ナーヴェの息が上がっていく。目の端に見える平らな胸が激しく上下し始めたので、アッズーロは名残惜しく口付けを終えた。
「っはぁ」
大きく息をついて、ナーヴェは涙目でアッズーロを見上げる。
「どうしたんだい、急に……?」
「そなたがわれを煽るようなことを言うからだ」
アッズーロは、当惑しているらしい宝の前髪を掻き遣って、今度は額に軽く接吻を落としてから、華奢な肩を抱き寄せて寝台に腰掛けた。そうして、形のいい顎を捉え、もう一度、宝の柔らかな唇に口付ける。
「ん……」
困った様子で、けれどアッズーロを素直に受け入れる宝を、もっと味わいたい。フィオーレとミエーレがそそくさと廊下へ出ていくのを視界の隅で確認しつつ、アッズーロはナーヴェを優しく寝台の上へ押し倒した。
二
「アッズーロ、テゾーロがいるんだからね……?」
口が離れた瞬間、ナーヴェが釘を刺してくる。アッズーロはその左耳へ口を寄せて囁いた。
「分かっておる。ただ少し、そなたを味見するだけだ」
「ぼくは別に、美味しくはないと思うんだけれど……」
ぼやくようなナーヴェの言葉を無視して、アッズーロは青く長い髪を掻き上げ、形のいい耳を甘噛みする。ナーヴェは分かっていない。アッズーロが毎日考え抜いた料理を食べさせている肉体は、仄かな甘さと塩っぱさを兼ね備え、果物のような香りもさせていて、味わい深いのだ。アッズーロは宝の左耳から首筋へと口を移すと同時に、平らな胸元を守っている胸紐をするりと解いた。
「ちょっと、アッズーロ……」
ナーヴェが些か焦った声を上げる。どうもアッズーロに対する信頼感が足りないらしい。
「案ずるな。鎖骨までだけだ」
宥めて、アッズーロは細い首を舐め、透き通るように白い肌にところどころ赤い花を咲かせながら、鎖骨へ至った。いつ見ても艶めかしい鎖骨だ。そのしっとりとした窪みを舌で強くなぞると、ナーヴェがくすぐったそうに身動きする。心行くまで鎖骨の形を味わってから、アッズーロは上体を起こして、解いた胸紐を丁寧に結び直してやった。
「きみは時々、急にこういうことをするから、びっくりするよ」
ナーヴェが押し倒された格好のまま、抗議してくる。
「ぼくの心拍が上がったから、テゾーロも興奮して、どきどきしている」
「父母の親密なことを、今の内から学べるであろう」
アッズーロは勝ち誇って言った。
「きみはどんなことでも前向きに表現する才能があるよね……」
呆れたように零して、ナーヴェは、ゆっくりと自分で起き上がろうとする。アッズーロはすぐにその背を支えて、注意深く起こしてやった。
「ありがとう」
律儀な宝は、文句を言っていたことなど忘れたように微笑んだ。やはり可愛い。愛らしい。
「そなたはわが宝だ。ゆえに、たまにはこういう愛で方もしたいのだ。許せ」
「うん。それは分かっているし、愛でてくれるのは嬉しい。きみは、自分の言ったことは守るしね。たまになら、このぐらいは大丈夫だよ」
ナーヴェは優しい口調で、しっかりと制限を設けてきた。
「『たまになら』か」
アッズーロは溜め息をつき、口調を変える。
「では、そろそろ裁縫師にそなたの相手を譲るとしよう。身仕度ついでに、採寸されるがよい」
「裁縫師というのは誰だい? 初めて会う人だよね?」
ナーヴェの問いに、アッズーロは笑って教えた。
「ポンテの配下のような者だ。一年ほど前に城下の仕立屋から城勤めへ取り立てられた。父上は、そういうことにあまり関心がなかったゆえ、そなたは面識がないやもしれんな。まだ若いが、なかなかの腕前だぞ」
「へえ。それは会うのが楽しみだよ」
全ての人を自らの子どものようなものだと言い切る宝は、瑠璃色の双眸をきらきらと輝かせる。その煌めきに軽く肩を竦めてから、アッズーロは廊下へ呼ばわった。
「フィオーレ、ミエーレ、入るがよい。ピューメもおれば、中へ入れよ」
すぐに扉が開いて、女官二人は静かに戻ってきた。その後に続いて、ピューメも入ってくる。だが、裁縫師の少女は、女官二人とは動きを異にし、入り口に跪いて控えた。
ミエーレは朝食の皿や杯を盆に載せて退室し、フィオーレはナーヴェに歯磨きと洗面をさせ、長く青い髪を丁寧に梳く。それらが終わると、フィオーレがピューメに目配せした。
ピューメは襟足で切り揃えた癖のない黒髪を揺らし、きりりとした表情で近づいてきた。まだ十代のはずだが、専門職としての誇りを持って仕事をしている少女である。寝室の中ほどで再び跪き、一礼してから黒い理知的な双眸でアッズーロとナーヴェとを見つめた。白い頬は、緊張でやや紅潮しているようだ。
「おはよう、ピューメ」
ナーヴェが、人懐こく声を掛ける。
「朝早くから来てくれてありがとう。ぼくの婚礼衣装のための採寸をお願いしたいんだ」
「承っております。では、失礼致します」
ピューメは硬い面持ちでナーヴェへ歩み寄ると、隣に座るアッズーロに尋ねた。
「ナーヴェ様に立って頂くことはできますか?」
「うむ」
アッズーロが重々しく許可すると、宝は笑顔で頷いた。
「勿論だよ」
そうして寝台から立ち上がる宝を、アッズーロもともに立ち上がって慎重に支える。傍に立つフィオーレも手を出したり引っ込めたり、気が気でない様子だ。ピューメは、腰帯に提げた革袋から巻尺を取り出し、ナーヴェの身長や肩幅、胸回り、腹回り、腰回り、股下の長さなどを素早く測っていく。
「腹は、まだ大きくなることを考慮に入れておけ」
アッズーロはつい口を出した。
「仰せのままに」
ピューメは硬い声音で応じる。ナーヴェが苦笑した。
「アッズーロ、それは言わずもがなのことだよ。妊婦のお腹がどんどん大きくなることは、誰だって知っているよ」
「そなたを人とは異なると思うておる者もいよう。大事なことゆえ確認したのだ」
アッズーロは憮然として、愛らしい宝に言い返した。
「ああ、確かにそうだね……」
宝は、少しばかり悄然とした様子で俯いた。その寂しげな横顔に、アッズーロは胸を衝かれ、慌てて付け加えた。
「いや、そなたの身近に仕えておる中に、そのような者はおらんが、ピューメはそうではないゆえ、念のためだ」
「うん。分かっているよ」
ナーヴェは微笑んでアッズーロを見上げる。
「それに、ぼく自身が、ぼくは人ではないと繰り返し言っている訳だしね。きみは正しいよ」
アッズーロは堪らなくなって、ピューメを押し退けるようにして、ナーヴェをそっと抱き締めた。もう一つの命を内に抱えた、華奢な体。その耳元に口を寄せ、アッズーロは詫びた。
「許せ。そなたを傷つけるつもりはなかったのだ。ただ心配が過ぎて、余計なことを口にした。そなたが充分に人であることは、そなたを孕ませたわれが、誰よりよく知っておる」
ピューメとフィオーレが一瞬にして赤面したが、構うことではない――。
「ありがとう、アッズーロ。きみにそう言って貰えると、とても嬉しいよ」
羞恥心の足りない宝は、アッズーロの胸に頭をすり寄せてから、顔を上げた。
「でも今はピューメが困っているから、少し離れよう?」
「うむ」
アッズーロは、最愛の腰を手で支えたまま、少し体を離した。
「失礼致します」
ピューメが、まだ赤面したまま、ナーヴェの首の長さや腕の長さ、胸から腰までの長さを測る。丁寧な手付きで測り終えてから、ピューメはアッズーロのほうを向いて問うてきた。
「御髪はどう致しましょう? 普段は結わずに垂らしていらっしゃいますが、御婚儀の際には、結われますか?」
(さて、どうするか)
アッズーロは即答せずにナーヴェの顔を見下ろす。最愛は、青い双眸に笑みを湛えて答えた。
「この体はきみのものだから、きみの好きにしたらいいよ?」
やはり、初夜の時とは真逆の反応だ。
「うむ。ならば……」
アッズーロは、長く美しく、手触りもよい青い髪を暫し眺めてから、再びナーヴェを抱き寄せて自分の体に掴まらせた。そうしておいて、自由になった両手で、いつも触っている青い髪をまとめて上げる。
「これがよい。この辺りまで結い上げて飾り付けよ。幾筋か編んで束ねれば更に見栄えがしよう」
「それはようございますね……!」
フィオーレが大きく頷いた。
「全て仰せのままに」
ピューメは生真面目に一礼して、ナーヴェから離れる。
「では、早速、お衣装の製作に掛かります」
「仕立て終えるまでに如何ほど掛かる?」
確かめたアッズーロに、ピューメは黒曜石のような双眸に真剣な光を浮かべて告げた。
「二週間、頂きとうございます」
「よかろう」
アッズーロは鷹揚に認める。
「では、二週間後、試着ということに致そう。下がるがよい」
「畏まりました」
もう一度、深く頭を下げてから、ピューメは後ろ向きに下がって退室していった。
「……かなり緊張していたね」
ナーヴェが些か残念そうに呟く。
「もう少し話したかったんだけれど」
「二週間後には、もっと話せるであろう」
アッズーロは宝を慰めて、その体を支え、寝台へ腰掛けさせた。すかさず、フィオーレがナーヴェの普段着一揃いを持ってくる。アッズーロはいつも通りナーヴェの着替えを手伝ってから、立ち上がった。王城の尖塔で、時報の鐘が鳴らされている。午前の謁見を始める時間だ。レーニョも廊下に控えているだろう。
「では、行ってくる」
アッズーロは身を屈めて、寝台に腰掛けたままの宝の額に軽く口付けた。
「うん。行ってらっしゃい」
くすぐったそうな表情で、ナーヴェは見送ってくれる。可愛らしい。幸せだ。アッズーロは微笑んで、最愛を寝室に残し、政務へ向かった。
三
二週間後の朝食後、ピューメは約束通り、形になった婚礼衣装を持ってきた。色は婚礼衣装らしく純白だ。着替えの代わりにナーヴェに試着させて、アッズーロは目を細めた。
「ほう」
細かな金剛石や白金の飾りを散りばめ、透かし織りを多用してある。だが、決して、ごてごてした印象は与えず、寧ろ上半身はすっきりとした意匠で、腹の膨らんだ体型でも、背中や腕の美しさを効果的に見せ、ナーヴェの細さを引き立てる形だ。そして、胸のすぐ下から、やんわりと腹を覆って足元へと広がった裾の部分が、透かし織りを重ねた可憐な意匠になっており、ナーヴェの愛らしさを際立たせる。前裾は、重なり合った透かし織りが少し割れて細い足首が見えるようになっており、後ろ裾は、逆に少し引き摺るようになっている造形も秀逸だ。履き物としては、品のよい藤弦の草鞋が用意されていた。ナーヴェの白い素足をより艶めかしく見せて、素晴らしい。
「結った御髪には、これを」
ピューメが抱えてきた篭から、同じく透かし織りに細かな金剛石と白金の飾りをあしらった面紗を取り出した。結い上げた髪を束ねた根元辺りに、白金の櫛で挿して付ける意匠だ。
「なら、結って付けてみようか」
ナーヴェが、垂らしたままの髪を揺らして、アッズーロを振り向いた。宝は乗り気なようだ。何より、ピューメと触れ合えているのが嬉しいのだろう。
「うむ。フィオーレ、簡単に結ってやるがよい」
アッズーロは最も器用な女官に命じて、立たせていたナーヴェを寝台に腰掛けさせた。
「はい、ただ今」
フィオーレは櫛と結い紐を持ってナーヴェに近づき、先ほど梳いたばかりの長く青い髪を、丁寧に結い上げて括る。アッズーロが二週間前に示した通りの高さで結われた髪に、ピューメがそっと面紗の櫛を挿し入れた。ふわりとした面紗が、ピューメの手によって整えられ、ナーヴェの髪を飾り付け、顔を品良く隠す。
「如何でございましょう……?」
ピューメが緊張した面持ちで窺ってきた。ナーヴェも、面紗の陰から問う眼差しを向けてくる。アッズーロは、顔をしかめて言った。
「これは、ならん」
「何故だい……? 凄くいい出来なのに……」
ナーヴェが訝しげに訊いてきた。ピューメは凍り付いたようになり、フィオーレはおろおろとしている。アッズーロは深く息を吐いて告げた。
「愛くるし過ぎる。このような姿、他の男どもに見せられぬわ。皆、そなたに横恋慕してしまうではないか」
髪を上げたことで、細い首が強調され、その上の形のいい頭も常以上に可愛らしく、更に面紗によって飾り付けられたことで、何ともはや――だ。
「……つまり、ピューメはいい仕事をしたってことかい?」
ナーヴェが考える顔で確かめてきた。
「そうとも言えるが、これでは婚儀で使えん」
アッズーロは認めつつ、不満を零した。
「大丈夫だよ」
ナーヴェが微笑んで反論してくる。
「こんな青い髪をした、人ではない姿を愛する人は、きみが思っているより少数派だから」
「そのようなことはあるまい? そなたは誰が見ようと愛らしい」
「まあ、できるだけそうあるように造形されたから、そうではあるんだけれど……」
ナーヴェは言葉を探すようにして語る。
「ただ、きみみたいに、ぼくを人として愛する人は稀で、『人ではない者』に慣れていないきみの臣下達、国民達の中に、『横恋慕』する人は、殆どいないと思うよ」
「それは、単にそなたの憶測ではないか。そなたは、男というものを分かっておらん」
言い切ってから、アッズーロはパルーデの存在を思い出し、付け加えた。
「――女の中にも、そなたの魅力の虜になる者はおろうしな」
ナーヴェもパルーデを思い浮かべたのだろう、苦笑して言った。
「まあ、もしぼくに『横恋慕』する奇特な人がいたとしても、ぼくがきみの従僕で、きみのものであることに変わりはないんだから、心配する必要はないよ。王の宝として、ぼくがきみを選んだことは、周知の事実だしね」
「それは、そうだが」
「見栄えがいいのなら、それに越したことはないよ。ぼくが国民から好感を持って貰えれば、政治的に大きな意味がある」
「分かっておる」
「なら、この衣装にすべきだよ」
宝に朗らかに押し切られて、アッズーロは渋々頷いた。
「よかろう。だが、少なくとも、婚儀の中で面紗は上げさせんぞ」
「……それは、何だか、盛り上がりに欠けないかい? この婚儀は国家のもので、私的なものではないんだから、儀式の細かいところは、ちゃんと大臣達に諮って決めるべきだよ」
ナーヴェの言うことは正しい。アッズーロは肩を落とし、溜め息をついた。
「そなたは、やはりよい妃になろう。ヴァッレや伯母上が認めただけのことはある。婚儀については、そなたの言う通りに進めさせよう。他には、何かないか?」
一応尋ねたアッズーロに、ナーヴェは目を輝かせて進言してきた。
「きみの婚礼衣装も、ピューメに作って貰うべきだよ」
ナーヴェの試着の日に採寸をしたアッズーロの婚礼衣装は、それから一週間で出来上がった。元々、どのような意匠にするかは大体決まっていたので時間を取らなかったのだ。
「早く着てみて」
朝食を完食したナーヴェは、自分の試着の日よりも数段わくわくした表情で、ピューメの篭にある衣装とアッズーロとを見比べる。アッズーロは胸を張って言った。
「そなた、わが容貌の魅力にも気づいておったか」
「気づく、というか」
ナーヴェは不思議な笑みを浮かべて答える。
「人は、みんなとても綺麗だよ」
アッズーロは眉をひそめて聞き返した。
「『人は、みんな』?」
「うん。生まれたての赤子も、子どもも、若者も、生きる力に満ちていて眩しいし、大人になった人も、お年寄りも、年を重ねた生き様の美しさを持っている。人は、本当にみんな、とても綺麗だよ」
「では、そなたにとって、人は皆、同じか?」
アッズーロは憮然として尋ねた。
「ううん、同じという訳ではなくて……」
ナーヴェは真摯な眼差しでアッズーロを見つめる。
「例えば、きみがいろいろな格好をするのを見るのは好きだよ。きみは何でも似合う――何でも自分のものにして着熟してしまえるから」
「ならば、よい」
アッズーロは機嫌を直した。
「わが晴れ姿を篤と眺めるがよい」
「うん!」
愛らしい宝は嬉しげに頷いた。
アッズーロの婚礼衣装は、歴代の王の礼装に倣い、金の飾りの付いた純白の長衣に同じく金の飾りの付いた純白の筒袴、そして金飾りの付いた青い裾長の上着となっている。長衣には青い腰帯を巻き、金の象嵌を施した鉄の小刀を差すのだ。頭には、普段は外している金の王冠を被り、足には、金をあしらった白い革靴を履く。
「凄く、凄く似合う。とても、とても綺麗だよ……!」
ナーヴェは、アッズーロを眩しげに見つめ、手を叩いて喜んでくれた。
仲秋の月十五の日は、ナーヴェが思考回路の知識を元に計算した予測通り、晴天となった。
「人工衛星達に接続できなくて、地表からの観測だけで予測したから不安だったけれど、当たってよかったよ」
嬉しげに話すナーヴェに、フィオーレとポンテとピューメが、三人掛かりで完成した婚礼衣装を着せていく。一ヶ月前より膨らんだ腹を、純白の婚礼衣装が優しく愛らしく包んでいく。肩も背も首筋も腕も、文句なく美しい。そして、幾筋か編まれ、結い上げて束ねられた青い髪は、面紗の透かし織りを掛けられて、華やか且つ神秘的だった。
「完璧だな」
一言アッズーロが真顔で感想を言うと、透ける面紗の陰で、ナーヴェが頬を赤らめる。堪らない可愛さだ。腕の中に閉じ込めて、誰にも見せたくないという気持ちがどうしても強くなる。
「やはり、面紗を上げるのはやめぬか?」
アッズーロは、ヴァッレ達が決定した式次第の変更を提案した。だが、完璧な妃は、結い上げた髪をゆったりと揺らして首を横に振った。
「駄目だよ。急な変更はみんなを困らせてしまう。それに、ぼくを、より多くの人に知って貰うには、ちゃんと顔を晒しておいたほうがいい。きみも、そんなことは充分に分かっているだろう?」
当然、理解している。そもそも婚儀を行なうのは、王の宝ナーヴェが実体ある存在で、且つ王妃に相応しいことを、国内外に知らしめるためなのだ。
「全く、そなたのそういうところは相変わらずよな。頑固で、いつも正しい」
「そういうふうに造られたからね」
ナーヴェはアッズーロの愚痴をさらりと流し、嬉々とした目を向けてくる。
「それより、きみも早く着替えて。ぼくなんかより、きみのほうが、ずっとずっと綺麗なんだから」
「そなたにとっては、誰であろうと人は『綺麗』なのであろう?」
アッズーロは既に確認した事実を述べて、少々拗ねて見せた。
「勿論そうなんだけれど」
宝はあっさり認めてから、付け加える。
「でも、きみは……、きみのことをよく知っている所為もあると思うけれど、特別に、綺麗だと思うから」
また、ナーヴェの顔が赤らんでいる。
「……これも、不具合だよ……」
「歓迎すべき不具合だ」
アッズーロは、にっと笑った。拗ねて見せた甲斐があるというものだ。
「婚礼の朝に、そなたから『綺麗』と言われるは、無上の喜びだ」
「ぼくも……、ぼくも、きみから『完璧』と言って貰えて、とても嬉しいよ」
純真な返事に、アッズーロは有無を言わさず面紗を上げて、宝の柔らかな唇に口付けた。
王の間は華やかに飾り付けられ、いつもと雰囲気を異にしていた。金や白金をあしらった純白と群青の布をふんだんに使い、神秘的且つ豪奢な設えとなっている。
「ペルソーネが、随分頑張ってくれたんだね……」
ナーヴェが、アッズーロの腕を借りてゆっくりと歩きながら、婚儀の装飾面を支えた学芸担当大臣の努力を称えた。
王の間に集まった諸侯達、大臣達、将軍達は、割れんばかりの拍手でアッズーロとナーヴェを迎え、祝意を表している。
「パルーデも、ちゃんと来てくれているね」
ナーヴェが、面紗の陰から視線を走らせて呟いた。
「来ねば、謀反を疑ったがな」
アッズーロが薄く笑うと、ナーヴェが軽く頬を膨らませる。アッズーロの言いようが不満らしい。
「祝いの席で膨れっ面はよすがよい。如何に面紗で隠していようと、多少は透けて見えておるのだぞ?」
からかうと、ナーヴェは少しばかり悲しげに言い返してきた。
「祝いの席なんだから、そういう言い方はしないでほしいよ。ぼくの長い長い一生でも、こんなふうにお祝いして貰えることは、きっとこの一度きりだから」
胸を衝かれて、アッズーロは王座と妃座へ向かう足を止め、ナーヴェの肩を抱き寄せた。
「アッズーロ……?」
ナーヴェが怪訝そうに見上げてきて、臣下達もざわついている。だが、構いはしない。アッズーロは面紗をそっと上げて、小さく開いた宝の口へ口付けた。
「っん……」
ナーヴェが驚いたように身を竦ませる。その華奢な体を、腹を労りながら更に抱き寄せて、アッズーロは口付けを深くした。
「陛下、式次第より少々早うございますぞ」
司会役の財務担当大臣モッルスコの呆れた声が聞こえ、他の大臣達のぼやく声、苦笑する声が続く。それでもアッズーロはゆっくりとナーヴェと舌を絡め、蕩かしてから、力の抜け掛けたその体を優しく抱き上げた。純白の花嫁衣装の後ろ裾はやや長いが、抱き上げて引き摺るほどではない。そのまま大切に運んで妃座に座らせてやると、ナーヴェは潤んだ双眸で見上げてきた。臣下達からは、どよめきに続いて拍手喝采が起きている。式次第を取り仕切る外務担当大臣ヴァッレの小言が聞こえてきそうだ。けれど、今日の第一優先は誰が何と言おうとナーヴェだ。
「許せ。ここからは、祝いの席に相応しい振る舞いをすると誓おう」
アッズーロは宝へ囁いて、その隣の王座へ腰を下ろした。ただ、右手だけは伸ばして、妃座の肘掛けの上で、ナーヴェの左手を捕まえる。ナーヴェは困惑したようにアッズーロを見たが、手を引っ込めようとはせず、おずおずと指を絡めてきた。
(随分と自制心の試されることだ)
アッズーロは微笑んで、階段下の臣下達を見下ろす。王と臣下とを隔てる階段。この階段の上にナーヴェを伴って来たのは、今日が初めてだ。これまでは、王の宝ナーヴェといえど、階段の下までしか来させなかった。だが、今日から正式に、ナーヴェは王と並んで立つ存在となるのだ。
司会役モッルスコが儀式を進めていき、やがて神ウッチェーロに婚姻の誓約をする場面となった。王座の背後にある、普段は閉ざされている大窓が、それぞれ礼装を纏ったレーニョとフィオーレによって開かれる。さあっと吹き込んでくる風は爽やかだ。秋空の下、色づいた草木に彩られて、ナーヴェの本体――神殿が、神々しく眼前に聳え立っている。アッズーロは王座を立ってナーヴェを支えて立ち上がらせ、妃座を回って神殿に相対した。臣下達の視線を背に感じつつ、アッズーロはナーヴェを連れて大窓に歩み寄る。白く美しいナーヴェ本体を見据え、覚えた誓約の言葉を幾らか変更することを心に決めて、アッズーロは大きく息を吸い、口を開いた。
「神ウッチェーロに、本日、謹んで御誓約申し上げます。われ、オリッゾンテ・ブル国王アッズーロは、これなる王の宝ナーヴェを妃とし、生涯、大切に致します。ナーヴェは、あらゆる人を『綺麗』と言い、一人一人、全ての人を愛しています。また、多くのことを知っており、その知識を惜しみなくわれらに分け与え、われらの生活を潤します。ナーヴェは、王の宝というだけでなく、われら全ての人の宝であり、且つ、人の範となる者です」
四
朗々と響く誓約の言葉に、ナーヴェは目を瞬き、自らを支えて立つ青年の横顔を見上げた。
(練習の時と、違う……)
寝室で、この場面は三度練習した。その時、アッズーロは誓約の決まり文句の後、「ナーヴェは英知に富み、思慮深く、情愛に溢れた理想的な妃です」と簡潔に言っていた。だが、その部分が完全に変わって、内容が増えている。
(しかも、「人の範」だなんて……)
また不具合が起こり、アッズーロと触れ合っている手が震える。その震える手を、更に強く握り、支えて、アッズーロは締め括りの言葉を述べた。
「われは、この者を妃とできることに感謝し、これまで以上に尊び、慈しみ、支え合って、わが国を富み栄えさせて参ります」
本体へ――ウッチェーロを内部に抱えたままの、まさしく神殿へ一礼するアッズーロを見つめながら、ナーヴェは思考回路で呟いた。
(ウッチェーロ、ぼくはとうとう結婚までしてしまったよ。まさか、ぼくが花嫁になって、結婚式をして貰えるなんて……、今でも、これでよかったのかどうか、判断に迷うけれど……。でも、それでも、こうしてアッズーロの子を身篭もって、アッズーロに支えられて立っていると、とてもとても幸せなんだ。疑似人格電脳に過ぎないぼくが、こんなに幸せになっていいのかな……?)
――「おまえの幸せは、おれの幸せだ」
記録に残るウッチェーロの音声と動画が、温かく請け負ってくれた。
誓約の言葉は、ナーヴェの番となった。ナーヴェは肉体に大きく息を吸い込ませ、背後の臣下達にも充分に聞こえる声を意識して、語り始めた。
「神ウッチェーロに、本日、謹んで御誓約致します。わたくし、ナーヴェは、アッズーロ陛下の妃として、オリッゾンテ・ブル王室のため、そして人々のために、最後の最後まで、わたくし自身を使い尽くします」
一礼して顔を上げると、アッズーロが驚いた表情で見つめてきていた。ナーヴェもまた、練習の時とは誓約の言葉を変えたので、思うところがあるのだろう。だが、アッズーロは王らしく、何も言わずに、改めて式次第に則った口付けをしてきた。優しい口付けだ。いつも通りにその口付けを受け入れて、ナーヴェは暫し目を閉じた。少しばかり余韻を持たせてアッズーロは口を離し、ナーヴェを支えて臣下達に向き直る。王の間には温かな拍手が湧き起こっている。アッズーロと並んで臣下達を見下ろし、ナーヴェは微笑んだ。
(ぼくの――ウッチェーロとぼくの子どものようなきみ達のこと、きっときっと、何があっても守り抜いていくから)
パルーデを含めた諸侯達から祝福の言葉を贈られた後、アッズーロはナーヴェを連れて、階段を降りて臣下達の間を通り、王城正面の露台へ出た。途端に、庭園に集まった国民達から歓声が上がり、王城の周りに集まった国民達へと興奮が伝播していく。その国民達へ向けて、アッズーロはナーヴェの手を握った手を掲げて見せてから、つとナーヴェの肩を抱き寄せ、頬に口付けてきた。どっと歓声が大きくなる。
(きみは本当に、見せ方を心得ているよね……)
ナーヴェは笑みを深くすると、アッズーロの口付けが離れた後、愛する人々へ向けて、腹を庇いながら、できる限り優雅に一礼した。また、歓声が大きくなる。
「祝ってくれて、本当にありがとう、みんな。とても、とてもとても嬉しいよ」
ナーヴェは、歓声の中、聞こえないと知りつつも、真摯に礼を述べた。
「『最後の最後まで、わたくし自身を使い尽くします』とは、どういう意味だ」
案の定、宴席から寝室に戻ってきたアッズーロは、ナーヴェの誓約の言葉を問い質してきた。宴席から直行してきたのだろう、王冠だけは外しているが、婚礼衣装のままだ。妊娠を理由に、宴席を欠席して寝室で夜着に着替え、夕食も洗面も終えていたナーヴェは、寝台に寝転んだまま、微笑んで青年王を見上げた。
「そのままの意味だよ。ぼくは、きみ達のために、ぼくを使い尽くす。そのことを、改めてウッチェーロに約束しただけだよ」
「しかし、『使い尽くす』とは、不穏当な言いようではないか。そもそも、そなたは最早、物ではなく人で、わが妃だ」
反論してきたアッズーロに、ナーヴェは目を細める。
「きみはぼくを『人の範』と言ってくれた。それは、とてもとても嬉しかったよ。でも、どこまで行っても、ぼくが人でないことに変わりはない。この肉体は確かに人だけれど、こうしてきみと会話しているぼくは、結局のところ、疑似人格電脳に過ぎない訳だから」
「ならば、言い方を変えよう」
アッズーロは低い声で言い、寝台に腰掛けた。卓に置かれた油皿の灯りを背に、青空色の双眸がナーヴェを見据える。
「そなたは、今日、正式にわが妃となった。だが、われが即位したあの日から、そなたはわが宝であり、わが友だ。そなたは、われにとって掛け替えのない存在だ。そなたが人であろうと、人でなかろうと、その事実は変わらぬ。われはそなたを愛している。そなたはわが最愛だ。そして、われから見たそなたは、既に充分、人なのだ。それも、見習うべき、な。ゆえに、『人の範』と言うたのだ」
今日何度目かの不具合が起きて、両眼が熱くなり、涙が溢れた。
「……狡いよ、アッズーロ」
ナーヴェは、愛おしい相手を詰る。
「客観的事実ではなくて、主観だけで話をするなんて。世の中は、きみの思い込みだけで動く訳ではないんだよ……?」
「よく分かっておるではないか」
青年王は、何故か胸を張る。
「だからこそ、そなたは人であると、今日、臣下ども、民どもに知らしめたのだ。皆が思い込めばよい。神ウッチェーロが起こし賜うた奇跡により復活を果たしたそなただが、決して化物などではなく、人なのだと。その上、確かに王の子を身篭もっているのだと。皆が思い込めば、それが事実となる」
「全く……」
ナーヴェは溜め息をついた。この青年のものの考え方は、簡単に思考回路の予測を超えてしまう。
「きみには、いろいろな意味で敵わないよ」
「降参か」
勝ち誇ったように笑い、青年王は身を屈めてくる。夜の帳の中、為された口付けは、今日交わしたどの口付けより濃厚だった。
「……ぁ……ふ……んぅ……はぁ……」
息を切らせながら、ナーヴェはいつも以上にアッズーロを求めた。確たる理由は分からない。計算が追いつかない。ただ、自分の一生の中で、こんなにも幸せな日々は、そう長くは続かないと知っているので、無性にそうしたかった。
細く開けた窓の隙間から差し込む月明かりの中、蕩けていくナーヴェは、これまで見た中で、一番艶やかだった。
(そなたは常に、わが理性を試してくる……!)
胸中で文句を呟きつつ、アッズーロは舌で宝の口腔内を愛撫し尽くして、悦楽へと導く。細やかに丁寧に、時に激しく舐め上げていくと、やがて、ナーヴェの全身から力が抜けたのが分かった。腰砕けのような状態になったらしい。全く以て、愛らしい妃だ。アッズーロは、ぷっくりと腫れた柔らかな唇を解放し、陶然となっている可愛い顔を間近から見つめて、囁いた。
「気持ちよかったか?」
ナーヴェは肩で息をしながら、微笑んで頷くと、おもむろに左手を上げて、アッズーロの後頭部に触れた。もっとということらしい。初めての反応だ。
「全く、そなたはわれを絶対に飽きさせん……!」
アッズーロはにっと笑って、開いたままの妃の口へ、再び深く口付けた。
求められるまま、幾度も深い口付けを交わす内、ナーヴェは気を失うように眠ってしまった。その頬を撫でてから、アッズーロは革靴を脱ぎ、上着を脱ぎ、帯を解いて、小刀を外し、一纏めに床に置いて、ナーヴェの傍らに横になる。掛布の中へ滑り込んで、愛おしい体へ寄り添い、その手をそっと握った。同じ寝室の中の、自身の寝台へ行くことすら今夜はしたくない。それほどに離れ難い。
(そなたには分かったか?)
アッズーロは妃とした宝の、あどけない寝顔を、じっと見つめる。
(われは今日、そなたの本体へ向けて、誓約の言葉を言うたのだ。われは、そなた自身へ向けて、誓約したのだ。われは、そなたを尊び、慈しみ、生涯、大切にする。そなたは、わが友、わが妃、わが宝、わが最愛だ)
すうすうと、穏やかな寝息を立てているナーヴェは、いつもと変わりない。けれど、先ほどまでの、狂おしいほどにアッズーロの口付けを強請ってきたナーヴェは、明らかにいつもと違っていた。悦楽に酔っていても、まるで、何かを恐れているような、何かを忘れたがっているような、そんな表情に見えた。
(そなたが恐れていることは、やはり、孤独であろうな……)
以前にも感じたことだが、ナーヴェが抱える寂しさを、きっと自分は全ては理解できない。だが、そんな自分にも、できることはある。
アッズーロはナーヴェの手を握ったまま、もう片方の手で、その膨らんだ腹を優しく撫でた。
(人として、われの子を生め、ナーヴェ。そうして、わが子々孫々を見守るがよい。さすれば、そなたの寂しさは、これまでより、ずっと軽減されるであろう)
テゾーロが、アッズーロの手に気づいたかのように、ナーヴェの腹の中で動いた。それでも、ナーヴェは慣れてしまっているのか、安らかに眠ったままだ。
(テゾーロ、無事に、元気に生まれてくるがよい。父上が、母上とともに、この世界の素晴らしさを、篤と教えてやるゆえな)
アッズーロは微笑んで、繰り返し、ゆっくりとナーヴェの腹を撫でながら、目を閉じた。
漸く計算結果が出た。
(幸せ過ぎて怖い、か……)
ナーヴェは、疑似人格電脳にあるまじき感情を認識して、自嘲する。
(現時点で、ぼくはとても幸せだけれど、時間経過というものを知っているから、現実逃避を望んでしまう。とんだ疑似人格電脳だね……)
眠らせたままの肉体の腹を、アッズーロの手が柔らかく撫でている。反応して、テゾーロも嬉しげに動いている。
(……ぼくがすべきことは、ウッチェーロに約束した通りのことだ。ぼくは、きみ達のために、ぼくを使い尽くす。きみ達を守り切る。何があっても。ただ、それだけだ……)
アッズーロに触れられていると、幸せで切ない。その複雑な感情を受け入れて、ナーヴェは愛おしい伴侶の愛撫に、肉体を委ね続けた――。
婚儀の翌々日の朝、アッズーロはナーヴェに再び婚礼衣装を着るよう命じた。
「何故だい?」
もう二度と着ることはないと思っていた婚礼衣装を目の前に置かれて、ナーヴェは小首を傾げた。別に嫌ではないが、目的が推測できない。
「何、われらの婚礼衣装姿の肖像画を残しておこうと思うてな」
アッズーロは穏やかに告げた。
「ああ、成るほど。この服は、今しか着られないしね」
ナーヴェは膨らんだ腹を撫でて納得した。アッズーロ達の文明水準では、写真も動画も作成できない。アッズーロが絵で自分達の晴れ姿を残しておきたいと望むのは、至極当然のことだった。
「分かったよ。それで、誰が絵を描いてくれるんだい?」
「ゴーレだ。至高の絵を描かせようと思えば、あれしかおるまい」
アッズーロが挙げた名に、ナーヴェは目を見開いた。ゴーレは、マーレやチェーロの父ザッフィロが王の時に、既に王城にいた絵画職人だ。
「まだ現役だったんだ……。グランディナーレが自分の肖像画を描かせていた時に、ちらっと見てから後は、全然まともに会っていなかったから、知らなかったよ」
「われが即位した半月後にも、わが肖像画を描かせたが、その時、そなたは肉体を作り立てで、それどころではなかったな」
アッズーロに教えられて、ナーヴェは情報を整理した。確かに、玄関を入ったところの大広間には、チェーロの肖像画に換えて、アッズーロの肖像画が掲げてある。あれは、ゴーレが描いたのだ。彼女の他の絵の記録と照合すれば、確かにゴーレ作と鑑定結果が出る。
(ぼくは、もっと積極的に情報収集しないといけないかな……)
反省してから、ナーヴェはアッズーロに微笑みを向けた。
「彼女と会うのは久し振りだし、話すのは初めてだよ」
「そうであろう。そなたは、ゆっくりと描かれるがよい」
アッズーロは、ナーヴェが人と話すのを好むことを理解してくれている。
「ありがとう、アッズーロ」
礼を述べると、額に軽く口付けられた。アッズーロの愛情表現は、とても分かり易い。
「それで、今度の肖像画は、一体どこに飾るんだい?」
尋ねたナーヴェに、アッズーロは満面の笑みを浮かべて答えた。
「無論、この寝室だ。他の者の目に触れるようなところには飾らん。そなたに横恋慕する者が増えては敵わんからな」
かなり私的な目的らしい。だが、それはそれで、何故か嬉しい。
「分かったよ」
ナーヴェは、疑似人格電脳として自身の感情を分析しつつ、頷いた。
朝食後、御年七十七歳のゴーレは、足を引き摺るような歩き方で現れた。腰も少し曲がっている。だが、眼光は、若い時と変わらず鋭かった。
「おはよう、ゴーレ」
婚礼衣装を身に纏って椅子に腰掛けたナーヴェが挨拶すると、現役の絵画職人は跪くことなく無言で一礼し、寝室へ入ってきた。そのまま、さまざまな角度からナーヴェを眺めて、ゆっくりと歩き回る。
「アッズーロは忙しいから、昼に少し来るだけになるんだ、ごめんね」
ナーヴェはとりあえず、不在の王に代わって詫びた。
「そのようなことには慣れておりまする」
ゴーレは低い声で短く応じたのみで、矯めつ眇めつナーヴェを観察する。
「どこか、描きにくいところがあるのかな……?」
ナーヴェが心配になって問うと、ゴーレはぎろりと睨んできた。
「人を描くは、誰であろうと至難の業。その外見だけでなく内面までも描いてこそ一流。暫くお黙り下さいませ」
「ゴーレ、妃殿下に対し無礼でございますよ」
とうとうフィオーレが口を出してきた。
「無礼でも非礼でも、わたくしはわたくしの満足のいく仕事をするだけです」
ゴーレは平然と言い返して、ナーヴェの観察を続ける。
「フィオーレ、彼女の言う通りに」
ナーヴェは忠実な女官に微笑んで、ゴーレに視線を戻した。
「きみに全てお任せするよ。ただ、ぼくもずっと同じ姿勢をしているのはきついから、時々休憩させてほしい」
「分かりました。おつらくなられましたら、どうぞ休憩なさって下さいませ」
ゴーレは微かに表情を弛めて頷いた。
その後、三日間ゴーレは寝室に通ってきて、婚礼衣装のナーヴェとアッズーロを描いた。アッズーロは、昼食後に婚礼衣装に着替え、僅かに時間を裂くのみだったが、ゴーレは集中して描き、二人の姿はほぼ仕上がった。構図は、椅子に座ったナーヴェにアッズーロが寄り添って立ち、二人してこちらを見ているというものだ。後は背景を描き、二人の衣装の細かいところを描き込むだけとなって、ゴーレは城下の工房に篭もったらしかった。
完成した絵をゴーレが持参したのは、二週間後の朝食後だった。
「とても明るい色使いで、幸せな雰囲気だね」
画架に置かれた、縦一米、横八十糎の絵を眺め、ナーヴェは寝台の上から感想を述べた。アッズーロが指示した背景は、王の間の開かれた窓から見えるナーヴェ本体と青空だ。
(きみは、ぼく自身の姿もちゃんと絵に入れてくれたんだね……)
そう思うと、感慨深い。
「気に入ったか?」
アッズーロの言葉に、ナーヴェは深く頷いた。
「うん。きみと一緒で、しかもテゾーロを妊娠しているところを、綺麗に描いて貰って、とても嬉しいよ」
「これからは、毎日眺められる」
アッズーロも満足そうに絵を眺めている。その横顔が、可愛い。
「そうだね。ゴーレ、ありがとう」
ナーヴェが礼を述べると、白髪の絵画職人は、自身も横から絵を眺めつつ言った。
「何か気になるところがございましたら、仰って下さいませ。すぐに手直し致しまする。このように麗しい絵を描かせて頂いたのは久し振りでございましたゆえ、楽しゅう描かせて頂きました」
「よい出来だ。ナーヴェの姿形や表情、衣装の透かし織りまで、よく描けておる。背景の神殿も青空も、われが想像した以上に美しい」
アッズーロの褒め言葉に、ゴーレは漸く頬を弛めた。
「ありがたいお言葉にございまする。では、わたくしはこれにて失礼致しまする」
退室するゴーレの腰の曲がった背中を、ナーヴェはじっと見つめた。ゴーレに会えるのは、後何回だろうか。
(時々、手直しを依頼しようか……。でも、アッズーロが気に入った絵を直して貰うのは申し訳ない。そうか。テゾーロが生まれたら、また一緒に描いて貰おう)
密かにナーヴェは企てた。
アッズーロは、レーニョに指示して二人の絵を自分の寝台近くの壁に掛けさせた。窓から遠く、日が当たらないため、劣化しにくいという判断らしい。
「本当に、いい絵だね」
ナーヴェは呟いて、思考回路にしっかりと画像を記録した。建造当初、設定画像を作成されて以来、初めて描かれた自分の姿は、身篭もった体を伴侶と一緒に描かれて、本当に幸せそうだった。




