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はずれ勇者と諸刃の剣  作者: サムライ
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はずれ勇者

「ん・・・。」


・・・っ。

どれくらい気を失ってしまっていたのか。

まだ頭が痛む。


「あ、ユウ!目が覚めたのか!」


「あっ・・・!」


ナルが喜びのせいかあげた大きな声が僕の頭を刺激して、キーンと頭が痛む。


「ぁあ、すまん・・・みんなに知らせてくるな。」


ナルは苦笑いしながらそういうと急ぎ足で部屋から出て行った。

窓の外はすでに闇に包まれていて、大きな月だけがたった一つ浮いていた。


「大丈夫ですか~?」


異世界でも夜空の景色はかわらないんだな。

そんなことを考えていると三人が部屋に入ってくる。

三人の顔は僕に気を使わせないようにか、微笑んでいた。


「僕はどれくらい寝てたの・・・?」


「ユウが頭ぶん殴られて気絶したのは今日の朝のことだ。それから俺達はお前を守りながら外まで必死に引きずり出したってわけ。」


ナルが僕の肩をポンっと叩きながら言った。


「エリーナさんが目を覚ましたら私の部屋まで来るように、って。」


クロナはそれだけ言うと自分の部屋へと帰っていった。

まあ、クロナはそういう子だからしょうがないかと苦笑いする。


「クロナ、あんな感じだけど、ユウが倒れたときなんかすごかったんだぞ。」


「ですねですね・・・ユウ!ユウ!って。」


「それで目の前に群がるゴブリンたちに盾で突進していってなぎ払ったんだからな、そのおかげで道が出来て帰ってこれたんだから感謝しろよ。」


ドンッ!!


「「ひい!すいません!!」」


二人が悪い笑みを浮かべながらコソコソ声で教えてくれていたのが、なぜか聞こえてしまっていたのだろう。

壁が向こう側から叩かれ、二人はその場で頭を下げた。

クロナはもしかしたら地獄耳なのかもしれない。


「いっつつ・・。」


「おい大丈夫か?」


僕が立ち上がろうとするとナルが心配そうに手をかしてくれる。


「うん、エリーナさんのとこに行かないと。」


「そうか、気をつけていけよ。」


ナルが宿の出口まで手をかしてくれる。

エリーナさんは王城に隣接した軍の施設内にいる。


さほど距離があるわけではないが、今の僕には遠く感じられた。

月の光に照らされた石畳の道をふらふらと進む。


「ふぅ・・・。」


ひんやりとした夜風を肺いっぱいに吸い込むと、少し痛みが和らぐような気がした。


一歩一歩、ゆっくりではあるが進んでいく。

そうすると思いのほか早くついた。

入り口では二人の兵士が番をしている。


「止まれ。何用だ。」


「あ、エリーナさんに呼ばれてきました。」


「・・・ああ、勇者様でしたか!どうぞ。」


僕の髪色や顔付きに気付いたのか、門番の一人が焦ったように合図を出すと、金属で縁取りをされた木製の重厚な門が開く。


「案内を。」


「はっ。」


何かを小声でやり取りした兵士の一人が僕の元へと駆け寄ってくる。


「エリーナ少佐がお待ちです。」


案内されたのは大きく頑丈そうな石レンガの建物。

誰もが背筋をぴしっと伸ばし忙しなく動く建物内はなんとも言えない緊張感に包まれている。


「二階の突き当たりから一個手前だから・・・この部屋かな。」


焦げ茶の渋い色をした両開きの扉。

綺麗な彫刻の施されたその扉の先からは、禍々しい気が伝わってくる。


確実に怒っている。

エリーナさんが怒っている。

それは姿を見ずともオーラで感じ取ることが出来た。


「・・・何をしている、入れ。」


「は、はいぃ!!」


気付かれていたのか、扉の向こうからエリーナさんの凛とした声がそう言った。

僕はその場でビシッ!と姿勢を整えると、「失礼します!」と扉を開けて中に入る。


「君か、待っていた・・・座れ。」


「はい。」


エリーナさんは静かにそう言うと、僕と向かい合うように座った。

怒られる。

そう覚悟したとき、その人の口から出た言葉は意外なものだった。


「単刀直入に言おう、君のあの行動は間違っていない。」


「・・・え?」


「素晴らしい動きだった、連携も取れていた・・・だが君は勇者にはなれない。」


突然こちらの世界に呼ばれ混乱の中、唯一の希望が今この瞬間絶たれた。


僕は勇者でなく、どうやってこの世界で生きていける。

僕は勇者という肩書き無しで、どうやってこの頼れる人もいない見知らぬ世界を生き抜いていける?


その瞬間、周りにあるもの全てが信用ならないものに見えてきた。


「ど・・どうしてですか。」


恐怖の中にありながら僕の心では依然、好奇心が燻っていた。

知りたくないような、だけど知らないと納得できないようなこの感情。


「君はいわゆるはずれ勇者ってやつなんだ。」


「はずれ勇者・・・?」


エリーナさんは一呼吸置いて説明をはじめる。


「いいか、神選十六騎英雄には椅子があるんだ。攻撃、防御、攻撃魔法、回復魔法の椅子がそれぞれ四個ずつ、系十六個の椅子が。」


僕は無言で頷く。


「普通はこれが綺麗に割り振られるように勇者は選ばれる・・・だがまれに、たとえば五人目の防御が出てきたりする、そういうやつはどうなるかわかるか?」


今度は無言で首を横に振る。


「そいつは防御にはなれず、あまった椅子に座ることになる・・・そういうやつは決まってステータスは普通、神器も特に変わった能力はなくそこらの冒険者となんら変わらない、だから・・・。」


「・・・はずれ勇者。」


「そうだ。」


僕がポツリと呟いたのに対して、エリーナさんは静かに頷いた。

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