一日のはじまり
「王様の迫力すごかったな~、思わず『はっ。』なんて言っちまったよ。」
「そうですね~!でもあの王様はいい人そうですよね!」
この世界の常識を一通り学び、今は部屋でくつろいでいた。
四人が同じ部屋というのには驚いたが、さすが国の用意した宿だけあって部屋がかなり広く、一つの部屋の中に四人の個室や皆が談笑できるスペースなどがある。
僕はベロニカとナルが王様やこの世界のことについて楽しそうに話しているのを横目に、習ったことを整理していた。
その習ったことというのはこの世界にある国や通貨の価値などこの世界で生きていくのに必要な一般常識から、レベルやスキルの仕様やステータスの表示方法など勇者としてとても重要なことなどだ。
それを総合して思ったことがある。
この世界はゲームのような世界だ。
敵を倒しレベルを上げ、今度はさらに強い敵と戦う。
それを繰り返し強くなり、最後には魔王を討つ。
なんともありきたりでよくあるゲームの設定と一緒だ。
そう、ゲームが現実になったような世界といってもいいかもしれない。
そしてだ・・・こんな小さなダガーとはいえ僕には神器なんてチートアイテムがある。
これがどういうことか・・・僕のモテモテハーレム勇者生活が始まるんじゃね?
ああ、笑いたいなら笑え。
しかし、僕がこの世界に期待するのはそれだけだ!!
「なあ・・・おーい。」
「はっ、ん、なに?」
妄想を膨らませていたら、ナルに呼ばれていたことに気付かなかった。
へんな妄想をしていたと悟られないように何気ない感じで反応する。
気づかれてないよな・・・。
「いやさ、明日ってダンジョン?だっけ?行くらしいじゃん。」
「あ、うん、そうだね。」
騎士長が「明日はレベル上げや戦闘に慣れる意味合いも込めてダンジョンに行く。この一週間は我々騎士団監督の下戦闘法を学び、その後は学んだことを外の世界で試してもらいたい。」と言っていた。
つまり一週間はダンジョンとやらで戦闘の練習。
自由に冒険できるのはそのあとってことだ。
まあ、チュートリアルとでも思っておけばいいかな。
「まあ、下の階層に潜らなければ強い敵は出ないらしいから大丈夫だと思うけど、弱いって言っても初めての戦闘じゃん・・・やっぱ緊張するよなぁ。」
「そ、そうだね。」
やばい。
なんか僕も急に怖くなってきた。
「まあ、傷ついても俺が回復してやるし大丈夫だけどな!」
「そもそも私があなた達を守るわ。」
クロナは今ここにはいない。
そそくさと自分の個室に入ってしまったからだ。
ただ声が大きかったせいで聞こえていたのだろう。
扉の向こうからそんな言葉が聞こえてきた。
「その前に私が近づく敵の悉くを粉砕しますのでご安心を!」
「おいおい、ダンジョン崩すなよ?」
「なっ・・・!」
「ぷっ・・・。」
「くくく・・・。」
「ちょっ、なに笑ってるんですか!それくらいの調節は出来ますって!」
「「あはははははっ!」」
ナルと二人で腹を抱えて笑う。
久しぶりにこんなに笑った気がする。
大丈夫・・・僕も勇者だ。
みんなの力になれるはず。
「さっ、今日は寝よーぜっ。」
「そうですね、明日に備えねば!」
「うんっ、おやすみ~。」
「「おやすみ~。」」
明かりを消し自分の部屋に入る。
ぼふっ。
倒れこむようにベッドに横になった。
ベッドもふかふかだ。
「はぁ・・・明日からがんばるぞっ。」
三人に迷惑をかけたくないという思いからそう呟いたのを最後に僕の意識は眠りの中へと沈んだ。
「・・・。」
暗闇の中に僕はいた。
体はなく、ただ意識だけがそこにあった。
ここはなぜだか・・・安心する。
『・・・よ。』
「え・・・?」
どこからか、声が聞こえる。
懐かしいような女の人の声。
『求めよ。』
「君は誰・・・。」
優しく囁くような声。
それが辺り一帯に反響している。
『求めよ・・・力を。』
力・・・?
『喰らえ・・・全てを。』
「はっ!・・・はぁ、はぁ。」
その瞬間あたりが一気に明るくなったかと思うと、僕は飛び起きた。
ぐっしょりと寝汗をかいてしまっているのがわかる。
とりあえず落ち着こうと窓をあけると、外はもう朝日が昇ろうかという頃合で鳥のさえずりと新鮮な空気が心地よかった。
「ふぅ、夢か・・・。」
しばらく風に当たり、心が落ち着いてきたころにクローゼットを開け着替えを始めた。
着替えなんかもちろん持ってきてはいないが、国から支給されたものがあるのでそれに着替える。
「うんっ。」
服もそれっぽくなり、なおさらゲームっぽい。
まあ、なんかこう・・・村人みたいだけど。
「すぅ・・・はぁ・・・。」
ガチャ。
一度大きく深呼吸をして扉を開けた。
「・・・あら、早いわね。」
「あっ、おはよう。」
そこには僕と同じく国から支給された服に着替えたクロナがいた。
うん・・・かわいい。
いつも気だるそうにしていてちょっと掴みにくい部分もあるがクロナは可愛い。
神器を壁に立てかけて、窓から外の景色を眺めている。
朝日に照らされた彼女の姿は、どこか神々しい。
僕は一旦顔を洗うために離れたが、戻ってもクロナは景色を見ていた。
クロナの神器は見るからに強そうだ。
クロナだけではなく、ナルやベロニカも。
やはりどこか劣等感を感じてしまう。
「ああこれ・・・ブサイクよね。」
僕が神器を見ていたのに気付いたのだろう、クロナはそういいながら盾に撫でるように触れた。
「そんなことないと思うよ、すごく綺麗でかっこいい・・・僕なんてこれだから。」
綺麗はクロナ込みでだけど、と心の中で付け足す。
僕は黒いダガーを引き抜いてクロナに苦笑いした。
装飾といえば刀身に彫られた文字くらいのものだ。
なんとも地味で魂のごく一部を取り出したといっていたが、僕の人間性はこんなもんなんだろうと溜息をつきたくなる。
「君の武器のほうがかっこいい。私なんて・・・。」
「そんなことないって、味方を守る盾だもん!すごいと思う!」
「優しいのね。」
なぜか必死になっている僕に、クロナはどこか弱々しい笑顔でそう言った。
消えてしまいそうなクロナの笑顔に、どうしてだか胸がざわめく。
少しの間沈黙が続いた。
「わ・・・。」
ガチャ。
クロナが何かを言おうと口を開いたちょうどそのとき、扉が開いてナルが顔を出した。
「なんだお前ら、早いな。」
「あ、ナルおはよう。」
「・・・おはよ。」
ナルがまだ眠そうな顔でのそのそと部屋から出てくる。
「はぁあ・・・そろそろ出発か?」
「そうだね。」
欠伸をしながら言うナルの言葉を肯定する。
おそらくそろそろ部屋に朝食が運ばれてきて、それを食べ終えたらいよいよだ。
「ベロニカは?」
「まだ、寝てるかな?」
「もう少ししたら起こすか。にしても・・・。」
コンコン。
しばらく初戦闘の緊張やこっちの世界に来たときのことなど他愛もない話をしていると、ドアがノックされた。
おそらく朝食だろう。
よいしょっと僕は椅子から立ち上がる。
「僕出るよ。」
「おう、ありがとよっ、んじゃまベロニカちゃんを起こしますか~。」
部屋のドアを開けると、そこにはやはり朝食を運んできた宿の従業員らしき人が立っていた。
その人が牽いている台には美味しそうに湯気をあげる朝食たちが並んでいる。
「朝食をお持ちしました。」
「あ、ありがとうございます。」
従業員を部屋に招き入れる。
従業員は慣れた手つきで朝食を机に並べると、スッと立ちその場で礼をした。
「朝食を召し上がられたら、宿を出て大通りを右に進まれた先にあります広場へとおいでになるよう、騎士団の方より・・・。」
そういうとまた一礼して「失礼します。」と部屋から出て行った。
動きの一つ一つが洗練されていて感心してしまう。
僕は朝食の並べられた机に座った。
「・・・ベロニカは?」
「ああ、さっき起きて今顔洗いにいってる。」
僕の質問に答えながらナルはパンを一つ食べ始めた。
「なんだこのパン、うっまっ!!おいふわふわだぞ!何だこれ!」
「ほんと?いただきます。」
大興奮のナルに促され、僕もパンを一つ手に取る。
もぐもぐ。
「確かに美味しいね!」
確かに美味しいのだが・・・。
うん、そこまで驚くことではないと思う。
いや、僕とナルのいた世界は違うから、驚くことなのかも?
パン屋さんで買った出来立てのパンのような感じで普通に美味しい。
「クロナも食べようよっ。」
「うん。」
景色を見ていたクロナを呼び、皆で朝食を食べる。
メニューは丸くてふわふわとしたパン、スクランブルエッグ、ベーコンのようなもの、謎野菜のサラダと謎スープ。
謎野菜のサラダと謎スープ以外は異世界にしては普通の朝食だ。
ベーコンや卵は何の動物のものかがわからない恐怖もあるが、まあ変なものは出ないだろう。
サラダとスープは変わった味ではあったが美味しく、むしろその方が異世界感が出てよかった。
「ん・・・美味しい。」
「このたまごもうめぇ!」
「あー!ちょっとちょっと!何私を置いて皆で朝食楽しんでるんですか~!!」
そこに顔を洗ったベロニカが勢いよく飛び込んできた。
朝から元気だ。
「酷いじゃないですかー!」
「早く食べないと・・・もうすぐ出るぞ。」
「なっ!」
ナルがもぐもぐと朝食を食べながらそう言うと、ベロニカは急いで席についてパンを一つ取った。
「はむっ・・・うまぁ!!!」
結局みんな朝食を完食することができ、準備を整えて部屋を出た。