覚醒
『意・・・きレベ・・・上昇、安定値ま・・・達しました。』
何か頭の中で声が聞こえる。
無機質な女の声。
「・・・。」
気のせいか?
僕の下半身は大きな湖の中に浸かっている。
もしかしたらこの湖から出る水の音を勘違いしたのかもしれない。
そんなことを思いつつ上半身を起こそうと右手を地面につく。
「いっつつ・・・。」
『おはようございます、我が主。』
「うわぁ!なんじゃわれぇ!!」
突如頭に響いた声に驚きすぎて、まるでヤクザのような口調になってしまった。
まったく・・・心臓に悪い。
『私はマルフィム・イブ・サルバライア・ぺクティス・シー・ディスミリア・バン・ド・ノアと申します、以後お見知りおきを。』
「は?なんだ?」
『ですからマルフィム・イブ・・・。』
「ああ!ああ!もういい!」
よくわからない長々とした名前をもう一度言おうとしたなんちゃらかんちゃらの言葉を制止する。
頭が痛くなってくる。
『なんちゃらかんちゃらではありません、ですが我が主がご所望なのであれば改名いたします。』
「心の声を見るな!あと改名もしなくていい・・・えーと、なんちゃらノアって言ったか?まあ、ノアって呼ぶぞ。」
『かしこまりました。』
「んで・・・お前は誰なのかも含めて何があったかを説明できるならしてくれ。」
『アーカイブを検索・・・ヒット。』
ノアは、淡々と状況を喋りだした。
『ゴブリンに襲われ味方の放った魔法が地面を破壊、我が主はゴブリンとともに約1500メートルの地中ダイビングを楽しみ500メートルほど落下した時点で全身の粉砕骨折と出血多量により意識を失いました、その後に前方に広がる地底湖に着水、その時点で全身の損傷は危険地をはるかに超えていました。』
「ああ、それで?どうして俺の体は綺麗に治ってる?」
『はい、ご主人様の携帯するダガーにご主人様の血が多量にかかったため血の契約がなされ補佐システムである私が起動したのです、しかしご主人様の意識レベルは低下しており命令が出来る状況ではないと判断したため一時的に命令権を剥奪、コクーンモードに移行しました。』
「コクーンモード?」
コクーンて英語で繭って意味だよな。
『コクーンモードとは主の意識レベルが著しく低下、もしくは主が命令実行不可の状況に起動し、全方向からの攻撃を防御及び主の体の損傷部を修復することだけに専念する状態のことです。』
なるほど。
めちゃくちゃすごくね?
「それで俺はすっかりぴんぴんしてるってわけか・・・それはどの勇者にもあるのか?補佐システムとやらは。」
『いいえ、我が主・・・主は自分の武器が弱いと思っていませんか?』
「あ?」
なにを言っているんだ。
事実、弱いじゃないか。
『なんと・・・心外です、勇者補佐神器士官学校を主席で卒業したこの私が弱いなんて・・・。』
なんじゃそれ。
そんな学校あるのか。
『あるわけないじゃないですか、HAHA。』
「てめぇぶっ壊すぞ。」
『冗談です、人間は冗談が好きでしょう?』
「状況を考えろ。」
まったく・・・。
調子を狂わされる。
そのうえ心の中を覗かれていると思うと落ち着かない。
『現在の階層は459階層、主のレベルは9・・・ここら一体の魔物の攻撃がかすりでもすれば瀕死、運が悪ければ即死します。』
「な・・・なに?」
『魔物に気付かれないよう、どこかに拠点を作ることをおすすめします。』
俺が生きていたのは・・・運がいいのか悪いのか。
でも目が覚めたからには全力で地上に戻ってやる。
そう、心に近い、ゆっくりと暗闇の中を歩き始めた。