耐える時
今日も昨日と同様に広場に整列させられていた。
今でもまだ頭が痛む。
だが何よりも胸が痛かった。
なぜ僕がここにいるのかわからない。
三人は僕と目を合わせてはくれないし、僕も目を合わせることなんて出来ない。
ただただ周りの人の軽蔑するような冷たい視線や、ニヤニヤと寒気のするような笑みが僕のことを貫いた。
「今日は昨日言ったとおり四組合同で訓練を行う、そのためにまず比較的広い十階層に向かう。」
ライザー中佐だけはいつもと変わらない様子で話し出す。
もちろんこの空気に気付いていないわけはないだろう。
今この状況にあって唯一いつも通りなのが、逆に違和感を覚えさせた。
「チッ・・・んであいつがいんだよ。」
「すいませ~ん、犯罪者がどうしてここにいるんですかぁ~?」
「「「あはははははっ!」」」
そんな言葉であたりは笑いに包まれる。
吐き気がする。
僕だって好きでいるわけじゃない。
帰れるものなら・・・。
「彼はまだ犯罪者ではない、軍の王都秩序保安部隊には容疑者及び被害者の証言が真実であるかを調べる魔道具がある・・・それで調べない限りは彼を犯罪者として扱うこと、彼が犯罪者であると世間に言いふらすことは民衆をいたずらに不安に陥れる行為として重い罪に問われるので、誰が聞いているかも分からない街中で気軽に口にしないことをお勧めする。」
「なっ・・・。」
「えっ。」
それなら・・・。
それなら僕の疑いは完全に晴れる。
どこまでも続く暗い泥沼に、一つの光が生じた気分だった。
今日ずっと俯いていた顔をはじめてあげた僕とマリサの目が合った。
マリサは焦ったようになにやらシンと話している。
でもそんなことはどうでもよかった。
マリサが嘘の証言をした罪でとらわれようが罰せられようがそんなことは僕の知ったことではない。
今は、三人に真実が伝わり、また一からやり直せる希望が見えたということで僕の胸は今までになく踊っていた。
「それでは話を続ける。」
今の最悪な状況が変わったわけではない。
でも、希望があるというだけで僕は冷たい視線にもなんとか耐えられるような気がする。
大丈夫。
大丈夫。
今にもバラバラに崩れてしまいそうだった心を、そんなありきたりな言葉でなんとか繋ぎ止める。
「十階層ともなれば今までのものとは段違いの敵も出てくることだろう、気を抜かないように、以上だ・・・私に続け。」
そういってライザー中佐はスタスタと歩き始めた。
全員がその後に続く。
もちろん僕も。
「あっ・・・!」
歩くのが早いライザー中佐に置いていかれないようにと早足で歩いていた僕の足に何かが引っかかる。
僕はそれに躓いて迷宮の入り口前で四つんばいのような格好になった。
そんな僕の横で誰かがしゃがんで僕の顔を覗きこむ。
「おいおい大丈夫か・・・?犯罪者さん。」
「あっ・・・だってよ。」
「ククク・・・。」
僕の足に引っかかった何かとは違うチームの男三人組が僕の前に出した足だった。
三人は僕に歪んだ笑みを向けながら先へと歩いて行く。
こんなことをして何が楽しいんだ。
そんな文句を口に出せるわけもなく、飲み込む。
「いっつつ・・・。」
誰も心配などしてくれない。
して欲しいわけでもないけど。
今は耐えるんだ。
きっとわかってもらえるから。
僕は手とズボンについた土を払い、少し距離をあけて皆に続いた。