6話 理由
取り合えず、気絶している美少女の足と腕を縛った。
パーカーで。
しかし、汎用性高いなパーカー。
これから、無人島に何か一つだけ持っていくなら?と聞かれたら、パーカーと答えよう。そうしよう。
「馬鹿なこと考えてないで、この子からこの世界の情報を聞き出す方法でも考えなさいよ」
「そうだな......あんまり言いたくないけど」
気絶して、手足を縛られた彼女に目をやる。
「端から見たら、俺達が犯罪者に見えるんだろうな」
「何言ってんのよ、異世界転移者なんて、現地の人間からしてみれば、不法入国者みたいなものじゃない。私達は最初から犯罪者よ」
「異世界系の主人公全員を、敵に回すような発言を軽々しく言うんじゃありません」
俺と姉ちゃんは、彼女を気絶させた後、大きな木の下へ移動させた。
特に理由はない。強いて言えば、場面が変わったと判断したからだ。
彼女を木の幹にもたれかけさせて、姉ちゃんと俺は木の根っこに腰掛けている。
「情報は欲しいけど、知らぬ存ぜぬを貫かれたらどうしようもないぞ」
「その時は拷問よ」
「冗談だよな?」
「冗談よ」
「......」
姉ちゃんが言うと冗談に聞こえないんだよな......。
「そういや、さっきのどういう意味だったんだろうな」
「さっきの?」
「ほら、<殺すつもりはあるけれど、傷つけるつもりはない>って言ってたろ」
「ああ、あれね......<致命傷しか負わないように殺したい>とも言ってたわね」
「とりようによっては、苦しませずに殺したいっていう親切心だよな。いや、殺すこと自体は親切でも何でもないけどさ......何考えてんだろーなああの子。仲良くなれそうな感じもあったのに......」
「その意見には賛成ですね」
「姉ちゃんもそう思う......ん?」
見ると、ヤンデレ美少女が目を覚ましていた。
「ナチュラルに会話に入ってくんな。本当、友好的なのか敵対的なのかわからない奴だな」
「私は病んでいるとは思いますが、あなたの前でデレた記憶はないんですけどね。何でヤンデレ認定されてるんですか?」
「俺の姉ちゃんが、美少女が刃物を笑顔で構えてたら、全員ヤンデレだと思うような大雑把な性格をしてるからだ」
というかこいつ、自分が病んでるっていう認識があるのか......。
「じゃあ、尋問は弟に任せるから、後は二人で仲良くやってね。私は黙って見てるわ」
「何でだよ!」
「あんたの【地の文】を読めるのはその子だけだからよ。殺そうしたのもあんただけ。それに私は、弟を殺そうした奴に優しく質問できるような性格をしてないの」
「わかった、俺がやる」
笑顔で言うな、笑顔で。怖いよ。
取り合えず、縛られている彼女の前に座る。何から話せばいいんだろう。考えあぐねていると、
「この世界について、どれだけのことを知ってますか?」
彼女の方から質問してきた。
「1~100で言うと、0だな」
「1~100で言ってないじゃないですか」
「それぐらい何にも知らないってことだよ」
「この縄......じゃない、パーカー、解いて貰えませんか?」
「無理に決まってるだろ」
「解いたら、<美少女が 仲間になった!>っていう音声が流れるかもしれませんよ」
「そんなわけあるか」
「殺そうしたことはお詫びします。ですが、殺せないことを確認できたので、もうこれ以上私があなたを殺そうとすることはありません。安心して解いて下さい」
「それを聞いて解く奴がいると思うか?」
「はい。これから私が話すことを聞いてくだされば、あなたはきっと解いてくれます」
そして彼女は語り始める。僕を殺そうとしたそのわけを。ぽつり、ぽつりと。
やがて、饒舌に。
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まず、私が持っている【地の文】を読む、という能力に関してですが......あなたはこの能力を随分と高く評価してくれましたが、実はそんなにたいしたものではないんです。
なぜなら、この世界の人間の......そうですね、わかりやすく言うなら左利きの子供が生まれるのと同じくらいの確率で、この能力を持つ人間はいるんです。
しかも、それぞれが読める主人公は一人だけ。一人の主人公の【地の文】しか読めない能力なんです。
ね、全然たいした力じゃないでしょう?
主人公の【地の文】が伝わってくるのは、主人公が近くにいる証拠。つまり、もうすぐ物語に参加できる前兆なんです。
え?そう、その通りです。随分呑みこみがはやいですね。
この能力を持っている、ということはそのまま、物語への参加資格がある、ということを意味します。
私達は選ばれた人間ということですね。
主人公が迎えにくると、大抵の人は喜んで仲間になります。迎えにくるのが、総じて私達が10台後半の時というのも、関係あるかもしれません。物語の登場人物に憧れる多感な時期ですからね。
中には、今の暮らしが気に入っているのか、付いていかない人もいますが......。
ごく稀です。
かく言う私は、迎えが来たらついていこうと思っていました。
ところが、です。
ついこの間、迎えに来た主人公を殺したと名乗るものが現れたんです。
そんなことは今まで一度もありませんでした。
主人公の死はそのまま物語の終わりを意味しますから。
せっかく手に入れた物語への参加資格を自ら捨てるようなものです。
しかし、殺したと宣言した者は、続けてこう言いました。
自分は主人公を殺した。だが、物語は終わらずに続いている。
《IFルート》というものに突入し、新たに自分が主人公になった、と......
この知らせは、私達にとって衝撃でした。
自分が、主人公になれるかもしれない......その思いから、迎えに来た主人公を殺そうとするものが続出しました。
その結果、どうなったと思います?
うーん、まあそれもあるかもしれませんね。
大きく分けて、3パターンあったみたいです。
みたいです、というのは、私も人から伝え聞いた話なので。
まず、さっきも言った、殺すことに成功、《IFルート》に突入し、新たな主人公となった人。
殺すことには成功したものの、《IFルート》に突入せず、物語への参加資格を失った人。
そして、殺そうとしても、殺せない人。聞いた話では、確実に殺せるような状況でも、どうやっても殺せなかったとか。
そう、例えば、目の前で無防備に会話している所を狙っても......。
え?そうですね、はい。
私があなたを殺そうとしたのは、
主人公に、なってみたかったから......です。
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