4話 名前
えー、衝撃すぎた前回のあらすじ。
「地の文」を読める美少女が現れた。
え?理解不能?意味不明?
じゃあ、もう一度書いておこう。
「地の文」を読める美少女が現れた!
「私をRPGのモンスターみたいに言わないで、貰えます?」
うん、地の文読まれると、こういう現象が起きるんだね。
というか、こんなメタ要素100%のキャラクターを、物語に登場させていいものなのか?作者の頭、大丈夫か?
「あなたの今の発言も、充分にメタいですよ......」
む。それもそうか。
それに、プロローグからフラグとか言ってるしな、俺達......。今更何を、と言われれば確かにそうなのかもしれないけれど、それにしたってこれは、
「それで?私達に何か用があるの?」
姉ちゃんが不機嫌そうな顔で割り込んできた。
「別に弟と仲良くするのはいいけど、私には弟の心の声......じゃない、【地の文】は読めないんだから、そこら辺、気を使ってほしいわね。さっきからあなたが独り言を言ってるようにしか、私には聞こえないんだから」
姉を怒らせるとまずい。いつもなら気にしないが、異世界転移して今日の寝床もわからないこの状況だ、出来るだけ穏便にすませたい。
......何ならこの子とは仲良くなって、色々助けてもらいたい。
「しばらく俺の【地の文】に対して発言するのはやめてくれないか、俺も口に出すようにするから」
「わかりました、主人公さん」
「......その主人公さんっていうのは何なのよ」
「そのままの意味です......」
姉の方に首を捻って、というより首だけを捻って彼女が答える。
「私に彼の【地の文】が伝わってくる、ということは、彼が物語の語り部であり、主人公だということです。
そして、あなたの【地の文】が伝わってこないのは、あなたが語り部でも主人公でもなく、ただのモブだから......です」
「へえ......この私がモブで、弟が主人公、ね......」
なーんで怒らせる様なこと言うんだ、この美少女!
「何なら、語り部を、彼からあなたに交替してもらえれば、私にはあなたの【地の文】が伝わってくるようになる、と思いますが......」
「え?そんなことできるの!?ちょっと弟、私と変わりなさい!」
「無茶苦茶言うんじゃねえ!語り部を変えたらすごい苦労することになるんだぞ!」
......作者が。
「ちっ。語り部の書き分けも出来ないなんて、使えない作者ね......」
姉ちゃん、消されてもしらないぞ......。
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よし、みんな落ち着いたな。まだ姉ちゃんは作者の悪口を言っているが、アレは無視だ。
「それであんた、俺達に何か用事、というか話があるんじゃないのか?......あんたって呼ぶのもあれだし、まずは名前を教えてくれると助かるんだけど......」
「名前、ですか」
「うん、名前。」
「えーっと......」
どうしよっかなーという感じで首を傾げる彼女。......と言うと、かわいく聞こえるが、例の人形の様な動きなのでそうでもない。
「え、名前あるよね?」
「はい、あるにはありますが......」
どうしたんだろう、凄く恥ずかしい名前とかだったりするんだろうか。
「名前を教えろといいますが、あなた方も弟!とか姉ちゃんーとか言って、名前で呼び合ってないじゃないですか。......それどころか、物語が始まってから、1度もお二人の名前が表記されてないのでは、と推測しますが......」
おお、ビンゴ。頭いいのかもしれない、彼女。
目を見開く彼女。
「本当にそうなんですか......よく今まで物語を綴ってこれましたね......呆れました」
いやあ、お恥ずかしい。
「褒めてないですよ......。私には名前、教えてくれないんですか?」
うーん、俺は教えてもいいけど、名前を公開しないのが自分のスタンスだ!とかうちの作者が言ってたような気がするんだよな......酔っ払いながら。
「なら、読者にわからないように、こっそり教えてください」
うん、まあそれならいいか。
「耳打ちするからこっちに来て」
「わかりました」
一つ頷いて、上ってくる彼女。......歩き方は普通だな、安心した。
歩き方まで人形じみていたらどうしようかと思った。
「教えて下さい」
聞こえやすいようにか、横髪を耳にかけて顔を寄せてくる彼女。
こ、これは、美少女接近イベントにありがちな、「うわ、めっちゃいい匂いがする」が起こるのでは......
やばい、緊張してきた。
「たとえいい匂いがしても、シャンプーや香水の匂いだと思いますよ......夢を壊すようで申し訳ないですが」
しまった!【地の文】、読まれてるんだった!
自由奔放な姉の世話を焼くのに苦労しているクールな弟、というキャラで攻略するつもりだったのに!
「勝手にギャルゲーにしないで下さい」
「この世界にもギャルゲーあるの!?」
「ちなみに私が使っているシャンプーはTSUBAKIです」
「シャンプーの商品名まで同じ!?」
「ほら、教えて下さい、名前」
「う、うん」
ボケてるのか、素でこのテンションなのか、わかりにくい子だな......。
俺も彼女の耳に口を寄せる。
「名前はね......xxx xxxxxx」
姉ちゃんと自分の名前、両方を告げる。
「......本当に本名ですか?」
疑わしげな目線を向けてくる彼女。
まあ無理もない。僕だってこんな名前で自己紹介されたら、まず冗談だと思うだろう。
「正真正銘、本名だよ......世の中には、こういう名前をつける親もいるんだ」
「はぁ......変わった人もいるものですね」
物憂げに顔に手をあてる。
「じゃあ、私の名前もお教えしましょう......あなた方の作者の意向を汲むと、本名はお教え出来ないですが、通り名なら大丈夫でしょう」
通り名か、そういう手もあったな......あだ名とか。
「私の通り名ですが」
そう言いながら、黒い手袋に覆われた右手を、こちらに伸ばしてくる彼女。
なんだ、何がしたいんだ?
「語り部殺し、です」
「......え?」
そして僕の顔は、彼女の手にいつのまにか握られていた刃物で引き裂かれ─