3話 出会い
15分程で丘のてっぺんに着いた。
姉ちゃんは......何かあればすぐ立ち止まるせいでまだ下の方にいる。
「どれ......」
360度見渡せる。ここに来て正解だった。
「何か見えるー?」
姉が大声で叫ぶ。
見える。めっちゃ見える。
「朗報と悲報があるけど、どっちから聞きたいー?」
「じゃあ朗報からー!」
「朗報は、美少女らしき人影が見えるってことー!」
「お、いいねー!」
異世界でも、姉と馬鹿な会話ができることに、こんな状況なのにおかしさを感じて笑ってしまう。
「悲報はー?」
「えっとね......」
唾を飲み込んで言う。
「その美少女が、刃物を持って姉ちゃんの後ろに立ってる」
「......は?」
「こんにちは」
見た目の想像よりも、低い声が彼女の薄い唇から漏れる。抑揚はないが、綺麗だと感じる声だった。
姉ちゃんといえば、「こんにちは」の「こ」の部分で猛烈なスタートダッシュを決め、「は」の時には俺の横まで来ていた。
「もっと早く言いなさいよ!」走って来た勢いそのままにストレートを放つ。
「俺もたった今気付いたんだよ」予想していた俺は右手でそれを受け止める。
本当だ。最初に姉ちゃんに言った、「美少女らしき人影」というのは、この子のことじゃない。この丘から少し離れたところに見える川にも、美少女(流石にこの距離だと顔がよく見えないので美少女らしき人影、と言ったのだ)が、いたのだ。
「こん、にちは」
彼女が首を傾げて繰り返す。いや、傾げるというよりも捻るといった方がいいような、首に負担がかかりそうな、人形のような動きだった。無表情なのもより人形らしく見える理由だろう。
肩まで覆うピッタリした黒い手袋に、男物であろう黒いパンツ。白いシャツだけが、女の子らしく首もとにフリルがついていた。......かわいい。
まあ、右手に刃物引っ提げてるから、台なしだけど。
「......かわいいわね」
姉ちゃんが俺に耳打ちする。思ってもこの緊迫した状況で口に出すんじゃねえ。
「......それより、言語が同じことの方が、俺は驚きだよ」
敵意はなさそうだ。いや、刃物を持った相手に敵意がなさそうというのも変な話だが、本当にそうなのだ。
まるで、誰に対しても、こうして刃物を持って挨拶するのが当たり前だと言うような......それほどに自然な動作だった。
「......こんにちは」
不信感丸出しの声で、姉が返事する。
気持ちはわかるけど、そこはもっとこう、フレンドリーな感じで言って欲しかった。無駄に有り余らせている対人スキル、ここで使わずにいつ使うんだ?
せめて俺だけでも友好的にと、口を開こうとする一瞬早く、彼女がまた声を発した。
【敵意はなさそうだ。いや、刃物を持った相手に敵意がなさそうというのも変な話だが、本当にそうなのだ。
まるで、誰に対しても、こうして刃物を持って挨拶するのが当たり前だと言うような......それほどに自然な動作だった......まる】
地面と平行になるほど、首を傾げたままで彼女が言う。
......え?今なんて......?
「ねえ、わけわかんないこと言ってるわよ、あの子」
いや、違う。
「姉ちゃん......俺今、心を読まれたっぽいんだけど......」
「はあ?」
「誤解がある、みたいですね」
首を傾げたのと同じ方向に、今度は腰も倒しながら言った。
正直、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!心を読まれたのもそうだけど、動きが完全におかしい。どうやって重心を取ってるんだその体勢。
「こう言えばわかりやすい、かな」
【首を傾げたのと同じ方向に、今度は腰も倒しながら言った。
正直、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!心を読まれたのもそうだけど、動きが完全におかしい。どうやって重心を取ってるんだその体勢......まる】
ね、これでわかったでしょ?と言いたげにこちらを見つめる不思議少女。いや、不気味少女。
「いや、だから俺の心を読んで......」
「違うわね」
姉ちゃんが不気味少女を睨みつけ、一歩前に出る。
「心を読んでいるのなら、気持ちだけを読むことができるのなら、【首を傾げたのと同じ方向に、今度は腰も倒しながら言った。】っていう部分までわかるのはおかしいわ。それはただの状況説明であって、あんたの気持ちじゃないでしょ」
「つまり、この子は」
何故か不気味少女の真似をして、首と腰を倒しながら、姉が言う。
衝撃的な一言を。
「地の文を、読むことが出来るのよ」
「察しがよくて、助かります」
「え?えええええええええええええええええええええええええ!?」
すまない。驚きすぎて、読者がゲシュタルト崩壊を起こすくらい叫んでしまった。地、地の文?そうか、語尾につける【まる】って何だろうと思っていたけど、「。」のことなのね?
物語の中で一番強い登場人物といえば、一般的には主人公になるだろう。
物理的に力が強いとか、精神力が強く周りの人を変える力があるとか、運がずば抜けて良くて強いとか。
強さの定義によっては、主人公が最強じゃない話もあるかもしれないが、殆どの作品の主人公は最も強い。
しかし、その主人公よりも、さらに強い存在がいるとするなら、それは作者以外にありえない。
主人公を生かすも殺すも、強くするのも弱くするのも、作者次第だからだ。
その作者と同じくらい強いんじゃね?という美少女が今、目の前にいる。
え、だって地の文を読めるんだよ?「心を読む」の完全上位互換じゃない?
「心を読む」能力への対策としてよくありがちな、何も考えていない、故に読めないというのも、彼女には通用しないだろう。地の文を一切書かずに、行動出来るキャラクターなんて存在しないからだ。(作ろうと思えば作れるだろうが、凄まじいまでに読みにくいこと請け合いである。)
例えば、彼女に一発、拳をお見舞いしてやりたいとする。こう、自然な感じで歩み寄って......
「物騒なことを、考えますね」
2歩も行かない内に言われた。デスヨネー。
「安心して貰って、大丈夫。敵意は、ない」
それなら、その不気味な体勢と、刃物をどうかしてほしい。
「わかった」
刃物を仕舞い、体勢を戻した。
おお、これは便利だ!言わなくても伝わる。
「さてと、じゃあ」
お前そんな顔出来たのかよっていうくらい、とびきりの笑顔で彼女が言う。
「私とお話しましょう、主人公さん」
......どうなんのコレ。
主人公から一言。
「地の文っていうのは、小説の会話文以外の文章のことを言うんだって。え?知ってた?ごめん、でもうちの作者はよく知らなくて、このシーン書くために検索したらしーゴフッ」
一時、意味不明な音声が流れたことを謝罪致します。