2話 深刻?
「馬鹿ね」
姉ちゃんが笑って言う。
「何処から湧いて来るのか、わからないものを自信って言うのよ」
ん。このセリフ、デジャブだ。前に誰かに言われたような気がする。でも誰だっけ。こんなことを俺に言うのは姉ちゃんしかいない。でも姉ちゃんじゃない気が......。
「ま、取り合えず明るいうちに、今日の寝床と食料調達ね。それから、この世界の人間と接触するか否か。建物があるんだから人間はいるはずだけど、問題は友好的かどうかね......」
まあ誰でもいいか。
「向こうから気付かれずに様子を伺えたら一番いいんだけど。それで提案だけど、まずあそこまで登ろう」
程よく高台になっている丘を指差す。
「あの上から見渡せば、何処に何があるか把握できる。人間の姿も見つけられるかもしれない」
「異議なし!」
敬礼する元気はあるのか......良く考えたら今の状況、かなり深刻なはずなんだけど。姉ちゃんがいるとそれを忘れてしまいそうだ。それがいいことなのかは置いておいて。
丘に向かって歩きながら話す。
「さっき、姉ちゃんは明るいうちに、って言ってたけど、もしかしたらそれは気にしなくていいかもしれない」
「ああ、月ね」
そう。この世界には何故か月、正確には月のように見える星が4つも空にある。元の世界でも満月で雲がかかっていなければ、本が読めるくらいには明るい。4つが4つ、全て沈んでしまうなんてことがないなら、この世界には夜が存在しないのかもしれない。
だとすればかなり希望がもてる。完全な暗闇は本当に精神を疲弊させるから......。
「弟」
前を鼻歌でも歌いそうな明るさで歩いていた姉ちゃんが、急に立ち止まった。
声を潜めて言う。
「あれ見て」
指をピストルの形にして前方を指差す。
「第一村人、発見よ」
指差した方を見ると、猫がいた。
猫がいた。
「猫じゃねえか!」思わず頭をはたいてしまった。
「何すんのよ!せっかく朗報を教えてあげたのに......」
「朗報?」
「そ。異世界に来て初めて出会う生物がモンスターじゃなくて、元の世界にもいる猫なのよ。安心すると思って......」
いや、確かに朗報だけれども。伝え方に悪意を感じるぞ。それに......
「俺、猫苦手なんだよな......」
「え?そうだっけ?友達の家で猫の赤ちゃんが生まれたとき、嬉しそうに見に行ってたじゃない。好きなのかと思ってたけど」
「まあ昔はね。でも俺は、最近重要な問題に気がついたんだ」
「何よ。もったいぶるわね」
「いいか、姉ちゃん」
人差し指を立てて言う。
「猫には......対人バリアが通用しないんだ!」
「......は?」
呆れた顔するのはわかる。でも弁解させてほしい。
「人間相手ならさ、近寄ってくんな~あっち行け~ってオーラを出していれば察して近寄ってこないだろ。でも猫は違うんだ。どんなに強力な対人バリアを張っていても、足元に擦り寄ってきてあの純真無垢な曇りなき瞳で、こちらを見上げるんだ......」
「う、うん」
「そうするとこう、自分っていう人間が、いかに小さいかを思い知らされるようでさ......。下手な悪意を向けられるより、100%の真っ白い善意の方が人って傷つくんだなあって。それ以来苦手になったんだ」
「我が弟ながらドン引きな理由ね......猫は苦手だ。対人バリアが通用しないから、って......」
「姉ちゃん、もう行くよ」
前に立って歩き出す。後ろから姉貴の元気な声が聞こえてきた。
「もしこの世界に、動物使いとか、使役魔法があっても、アンタには絶対使えないわね!」
フラグになりそうな発言は控えてほしい......。