1話 帰ることができない
異世界系の物語を読む度に、主人公が全く元の世界に帰ろうとしないことに違和感を覚える今日この頃です。
※タイトルを「小説のタイトルほど決めるのが難しいものはない」から、「異世界における姉弟の会話は多分こんな感じ」に変更しました。
「じゃあ元の世界に戻る手段、考えよっか」
姉が倒れたままの俺に手を伸ばし、引き起こす。
「う、うん」
しかし、あれだな、物分かりが良くて優しい姉ちゃんってのも、それはそれで気持ち悪いな。
「でも、ここ本当に異世界なんでしょうね?」
「ん?」
「確かに見慣れない植物とか生えてるし、建造物もいかにも異世界って感じの中世的デザインだけど、こんな景色、外国に行けば見れそうじゃない。それに、ケモ耳少女もモンスターも、私にぶつかってフラグをたてにくる美少年もいないじゃない」
「最後のは余計だな」
「美少女でもいいわよ!」
そういう問題じゃない。いや、むしろ問題が増えてる。百合は嫌いじゃないけど。
「言いたいことは解るよ、姉ちゃん」
「でしょ?」
「でもさ、だったらどうして・・・・・・空に月が」
空を指差す。
「4つもあるの?」
本当に月かどうかはわからないから、正確には月のようなもの、だ。
異様だ。ここが異世界だと一目で納得できる光景だった。
「ん......蜃気楼とか?」
「無理があるな」
「じゃあ幻覚とか」
「二人同時に?それはそれで問題だな」
「むぅ。イジワルな奴ね。」姉が頬をふくらませる。
客観的に見ればどうか知らないが、弟しては全く可愛いと思わない。
「わかったわよ。ここは異世界。認識した」
「それは良かった」
非常時における認識の一致は重要だしな。
「それで?帰る為のいい案はあるの?」
「ある。さっき姉ちゃんが言った俺達がフラグをたてたから異世界に来た説を信じるなら、今度は元の世界に帰れるようなフラグを立てればいいんだ、例えば......」
「異世界転移して、すぐに元の世界に戻れるとか、展開的にありえなーい!」
大声で言ってみた。
「......何も起こらないじゃない」
「フラグたててから転移するのに、さっき時間差があっただろ。少し待とう」
「......やっぱり何も起きないわよ」
「......」
やっべー。詰んだ。正直、この方法で帰れると思ってたから、楽観的じゃないとはいいつつも、心のどこかにあった余裕が消し飛んだ。
「姉ちゃんも言ってみてよ」
「わかった、そうね......」
「あーあ!明日から始まる期末試験受けたくないなあ!でも、このまま帰れなかったら受けずに済む!ヤッター!」
「......」
セリフのチョイスが姉ちゃんらしい。
少し待った。
「......何も起きないわね」
「......うん」
「姉ちゃんは何か案ないの?」
「あればやってるわよ。」
なんだ、姉ちゃんも帰りたいんじゃないか。でも、......
「帰るのは一旦、諦めよっか」
む。先に言われた。
声のトーンは軽いけど、顔が笑ってない。
「うん」
「しけた顔ね!大丈夫、なんとかなるわよ」
そう思ってる顔にはとても見えない。でも一応、調子をあわせる。
「その自信はどこから湧いて来るんだよ、全く」
「馬鹿ね。」
姉ちゃんが笑って言う。
「どこから湧いて来るのか、わからないものを自信って言うのよ」