プロローグ!
とある家の、部屋の中。
「姉ちゃん姉ちゃん」
「何」
「最近さあ、異世界転生もの多くない?」
「多いねー」
「ライトノベル買いに本屋行ったらさ、右も左も異世界ものでさ」
「うん」
「小説投稿サイトでもランキングは異世界系が独占してる感じあるし」
「あるねー」
「まあ確かに異世界ものは面白いの多いし、いいんだけどさ」
「うん」
「なんでこんなに流行ってんのかな」
「真面目に答えたら長くなるけどいいの?我が弟」
「いいとも。我が姉」
「そりゃあ、作者が物語をつくりやすいってのが理由じゃない? 転生、転移した異世界の設定は作者が自由にいじれるわけだし。世界の設定を自由にいじれるなんて物語をつくる側からしたら楽、なおかつ面白くしやすいに決まってるじゃない。
それに現代の知識、感覚のまま異世界にいけるってのも便利よね。異世界の文明が発達していなければ知識はチートスキルになるし、感覚がそのままなら作者が主人公の気持ちを描きやすくなるんじゃないかな。まとめるとまあ、作りやすいから、ね」
「......」
「何よその浮かない顔は」
「作者が物語つくりやすいからとかいう理由なら知りたくなかった......」
「贅沢な奴ね、そんな理由なんてどうでもいいじゃない。面白い物語が無料で読めることに変わりはないでしょ」
「そうだけどさ......」
「まあ確かに多いわよね。今すぐにでも異世界転生しても楽に攻略できるくらいには読んだ気がするし」
「異世界転生とかあるわけないじゃん。姉ちゃん何言ってんの?」
「だよねー、冗談よ、冗談」
1分後。
魔方陣が出現。そして転送。さらに絶叫。
『異世界きたああああああああああああああああああああああああああああああ!』
叫び声が見事にシンクロ。さすが姉弟だな......っておい。
「姉ちゃん......フラグって知ってる?」
「物語における、お決まりお手軽セットみたいなやつのことでしょ?知ってるに決まってるじゃない、馬鹿にしてるの?」
馬鹿にはしてない。でも非難はしている。
「この状況!この展開!!周囲の景色の圧倒的異世界感!!!どう考えても姉ちゃんのせいだ......今すぐに異世界転生しても攻略余裕wwwwとか言うから!」
「今すぐに異世界転生しても、楽に攻略できるくらいたくさん異世界設定の物語を読んだって、物の例えで言っただけじゃない。人を勝手に煽り大好きみたいな言い方しないで......っていうか」
「私達、転生じゃなくて転移したんじゃない?」
「ヘ?」
「転生なら姿形が変わってるはずでしょ......っと」
姉が急に腕を伸ばして俺のほっぺをつかみ、自分の顔の前で固定させる。
「うん、あんたの顔も特に変わってるところないし......いつも通りの死んだ魚のような目ね、結構、結構」
「確認ついでに罵倒していくな」
「あたしの顔は?どこか変わったりしてない?」
「うーん......」
姉がニッと笑ってこっちを見る。なんだ急に。あとほっぺから手をはなせ。
「いや、特に変わってない......と思う」
しかし、こうやってよく見ると本当に似てないなあ俺と。顔以外は割と似ているんだけど。趣味が合うから、欲しい漫画も割り勘で買えるし。数年前までは声の区別がつかないって言われたこともあったっけ......。
「そ。じゃあ、転生じゃなくて転移確定ね......」
余りに似てるから、電話に出た姉ちゃんを俺だと勘違いして、長々とエロ話した友達がいたっけ......。まあ聞き続ける姉ちゃんも
「じゃあ、この状況はあたしじゃなくて、あんたが悪いんじゃないの?」
姉ちゃんだよな......「え?」
「だって私は、異世界転生しても攻略出来そうって言ったのよ。でも実際に起こってるのは転生じゃなくて転移。これって、あんたが異世界転生とかあるわけないじゃん、中二病おつって言ったせいじゃない?」
中二病おつは言ってない。
「いや、言ってることがよくわかんないんだけど......」
「鈍い奴ね。だから、異世界転生しても攻略余裕だわ→異世界転生とかあるわけない→じゃあ異世界転移なら......転生じゃなくて転移なら、起こしてもOK?ってことよ」
姉ちゃんに言われた言葉の意味を頭の中で反芻する。反芻する。する。そして、
「理不尽すぎる!!!!」
「そうね」
理解がまるで追いつかない。大体、「OK?」ってなんだよ。誰が言ってるんだ。神か?フラグ回収の神なのか?
姉ちゃんがVサインにした右手を横向きに顔の前に構える。SEがついてたら、キラーン!かな。
「Do you understand?」
「なんで姉ちゃんは神視点なんだよ......」
あと、そのムカつくポーズをやめろ。
「姉ちゃん」
「何」
「帰る方法を考えよう」
「よしきた!」
嬉しそうだな......。
「でも、以外ね。あんたならこの状況、もっと喜ぶんじゃないかと思っていたけど。二羽の鶏と庭駆け回るんじゃないかと思っていたけれど」
「この状況を楽しめるほど、俺は楽観的な性格してないよ」
「そう?あんた、異世界系の物語好きだし、アニメも好きだし、中二病だし、中学二年生だし。もっと喜んでもいいんじゃない?」
「中学二年生は関係ないだろ......」
「これから、楽しい冒険とか、美少女ハーレムとか、私は女だから美少年ハーレムになるけど、とにかくそういう楽しいことが起きるかもしれないのよ?そんなに焦って帰ろうとしなくてもいいんじゃない?」
「姉ちゃん」
「何、そんな怖い顔して」
「そんな都合のいいことが起きるのは、物語の中だけだ。 物語は面白くて、現実はつまらない。そして今、俺達は現実に生きてるんだ。つまらない現実に。なら、楽しいことなんて期待せずに、早く帰る方法を見つけるべきだ」
今日、ジャンプの発売日だしな。
姉ちゃんもさすがに俺の真面目な雰囲気に考えるところがあったのか、シリアスな顔を作った。
「物語は面白くて、現実はつまらない、か......。まあそうかもね」
わかってくれたか。
「なーに格好つけてんのよ、むかつく!!」
「うおうっ!?」
こ、この姉、躊躇なく拳を振り抜きやがった。
倒れた俺に姉ちゃんが馬乗りになる。
「中学二年にして、そんな擦れたセリフをはくアンタにいいことを教えてあげる」
「いや、それより俺の上からはやくどいてくれ」
姉ちゃんが無視して続ける。
「物語は面白くて、現実はつまらない。なら、そんな面白い物語がこの世に存在するという現実が、面白い」
姉ちゃんの表情は......至って真面目だ。どうやら真剣に言っているらしい。何故か数秒、姉弟で見つめ合った。
「なんてね」
姉が笑って立ち上がる。
「じゃあ、元の世界に帰る手段、考えよっか」