馬鹿と美少女と優しき人
間に合ったの初めてかな?
ゆっくりとベッドから体を起こす。大きくあくびをして剣を持って庭へ行く。
息を吐き、剣を振るう。風切り音が鳴りながら、魔法陣が書かれる。剣が振るう度一つの魔法陣が虚空に完成していく。
剣を500振るい、魔法陣を500書ききった後、近くの木に腰掛ける。
ここのところ剣を振るう速さも魔法陣を書く速さも変わっていない気がする。身体能力は1ミッシェ前と変わらない。
まだ全盛期も迎えていないのに。
もし、あの恩人…口下手な真っ白の髪をした少女、どちらかといえば幼女に近かったあの人なら何か解決策があるだろうか。
…そもそも俺は、強くなって何がしたいのか。………
――――大切なものを手から取りこぼさないように、剣と魔法と知恵を身に着けないと。
ああそうだ。 恩人の言葉だ。そのとき幼かった俺は、命とか、家族だとかだけとも思えたが、他にも何か失うものがある気がする。
この世界はなかなかに理不尽だ。一番上の強さを示す『八大盛強』なんてのは世界をあっさりと消し飛ばせるとか。誇張されたものだろうが、大陸くらい消滅させてもおかしくはない。その2つ下の神話級は国を消しばせるのだ。
大切なものか。ミリナとか、エイフィスとか、近所の人とか。その人達を守るためだった。強くなろうとしていのは。…魔女?門番長?あいつら死ぬなら俺先に死んでるって。
身体能力トレーニングを行う。息というのは大切だ。剣を振りながら息を吐く。息を吸いながら動くのは体に力が入り辛い。そのため魔術の詠唱というのは俺のような剣も魔法も使うやつはあまりしない。
しないのだが、魔術の中には契約魔術というものがある。これは呼びかけ、詠唱、承認が必要となる。最悪呼びかけと承認だけでも発動はするが効果が著しく下がる。
俺はこの契約魔術も使う。というか使えるようにと恩人からかってに悪魔を紹介されて契約させられた。これは確かに強いのだが肉体的にも魔力的のも負担がかかる。
あまり使いたくない。しかしいざという時に使えなくては話にならない。
トレーニングをしながら魔力を流さずに声のみを出す。
「ピューアーバルーオン深淵に座す奈落の王よ破壊に滅亡を深き常闇を見せよ承認せよ我はヤレット」
…なんでこんな物騒なのと契約させたのだろうか。
「アーグレースアゲスト自然と時と常世を踏みにじりし変化の地獄の大公爵よ地を震わせよ承認せよ我はヤレット」
…怖っ何度言っても怖いわー…
トレーニングを終わらせ、風呂で汗を流してリビングへ行く。
「おはようミリナ」
「おはよー…」
「疲れてないか?」
「少し。でも楽しいし、充実してるよ。先生は教えるのが上手い人でね、素人の私でもすんなり理解できたんだ」
魔法陣は法則性があるが、魔力回路や属性は感覚みたいなものだ。それ故魔術を経験したことのある者以外は魔術がわかりにくい
。魔術を専門に教える所でも慣らすということでしか鍛錬させないくらいに。それの表現や説明が出来るのは恩人や魔女くらいしか思いつかない。
「とっても良い先生だよ。優しくて美人の。素人目だけど魔術の腕も、とっても凄いよ」
朝がーキーター。うん何言ってるんだろう。朝じゃなくて朝ご飯だね。白米、赤身魚、水。
普通だ。でもこの時期この魚はいないはず…
「お隣さんが冷凍保存してたのを貰ってきたの」
驚いた?という感じで笑いながら俺の疑問に答える。
「なんで冷凍保存してあるんだよ」
「ふふ。明日楽しみだね。たくさんイベントあるってさ」
「そうだな。祭り楽しもうぜ」
食べ終わる。ミリナは魔術の練習があるからと言ってどこか出かけて行った。
町を歩く。ふと顔を上に向けると青空に太陽が輝いていて、いい天気だ。
ふわりと風がそよいでいる。近くに丘が見えた。俺は何となく上がってみることにした。
花の咲き乱れる丘の頂上には先客が居た。
「おはようございます。先日お会いした門番さんですね」
銀色の髪が風に揺られた美少女。豊穣祭にやって来たお姫さまが居た。
…………逃げていっかなー。俺お偉いさんとの会話の技能無いんだけど。なんでかなーただの門番なんだけどなあ…俺の平凡な日常は何処へ。
「少しお話を」
「あ、すいません忙し」
「姫特権でお話をしてもらいますね、門番さん」
周り込まれた。何話せと。
「フフ。このように話せる人はいなかったです」
「…そういえば、姫様、護衛は…?」
「撒いてきました。自由になりたかったので」
門番長ー多少砕けても許すのは姫様は器が大きいんじゃなくて自分がいろいろやらかしてるからだと思いまーす。
「姫様は行動力が高いですね……しかし話ですか…」
「敬語は不要ですよ。私はルーネート。そう呼んでくれると嬉しいわ。
「ではルーネートさんと。俺ヤレットです。ルーネートさんはここで何を?」
「風に当たって、町を眺めてたの。ここは景色が綺麗ね。
確かにここの景色は綺麗だ。町の外、海や山も見える。
「ヤレットさんは何故ここに?」
「なんとなくです。丘が見えたので寄ってみようかなと。
「そうなんですか。じゃあ次はこの町について教えて。表面じゃなくて、中の方」
どんどんくだけてますねアナタ。
「そんなに教えてあげられるほど詳しくないけどな。あーまず、門が多い。無駄なくらい」
「無駄…そんなに? 変な町ね」
「変ですよ。あー後ミッシェの宿の飯が美味い。あとあそこの方に謎の魔女がいる。
そう言って中央通りから外れた一つの路地を指す。
「行ってみたいです。その宿に。えっと、魔女?」
「そう。魔女。魔導具ばっか作ってる魔女」
「変わった魔女ですね」
ふと、何かに気付いたように、申し訳なさそうにして、
「護衛の人が来ちゃったみたい。戻らないと。さようならヤレットさん」
「ん、気をつけて」
ぺこりと会釈してルーネートは丘から去っていった。
ここで丘降りると厄介ごとになりそうだ…
「んーなにすっかなー」
やることが無い。あ。…どうやら長く居すぎたらしい。もう昼だ。
反対から降りれば見つからないんじゃないだろうか。というわけで降りてみたところ何の問題も無く降りられた。
しばらくブラブラと歩く。露店で肉を買い口に放り込み、ぶらっと歩く。まだ勤務時間は来ていない。しばらく歩いていても問題はない。
しばらく歩くと自宅付近まで戻ってきていた。
「ヤレット、暇なのか?」
声をかけられた。振り返るとそこにいたのは赤い髪の青年がいた。
「まあ暇だな。バルト。お前は?」
「俺も暇だ。今日一日休みで時間を持て余してる」
そこで茶髪の青年、顔は少年。が割り込んでくる。
「おっ暇暇? ならこの町に来てるって異界人と姫様探そーぜい! ほら、異界人って何だかスゴそーだし?行くしかないやん?ほらほら行こーぜい!」
「引っ張るな鬱陶しい」
「姫さんナンパしにいくのかお前は。懲りないなーキッカ」
門番は露骨に嫌そうな顔をし、バルトは呆れる。
「レッツゴー!レッツゴー!あ、これってほら行こーぜ!って事なんだってよ!」
引っ張られる。あーあー面倒くせー。つかもう二度会ってるって。行く当てあんのかコイツ。」
「おいどこ行く。目的地くらい言え」
「こうビーン! ときちゃった方に向かうのが俺の流儀。目的地はビーンときちゃったとこだ!」
行く当て無いのか。このはた迷惑な軽薄男め。
「うんこっちだねーこっちにバーン! と来ちゃったねー!」
ビーンじゃないんかい。
ずるずるずるずるずるずる引きずられる。たどり着いたのは領主の横の格の高そうな宿だ。まさかここに入るのか?
中に入って行く三人。内二人は引きずられている。一つの部屋の前で立ち止まるとノックをして返事もせず、
「こんにちはー!貴方に惹かれて来ました!」
悪びれもなく扉を開いて挨拶をした。鍵かけろよ。
「え…」
呆然としている少年少女。と、姫様。こいつの感知スキルなんなの?
「ちょっと!何よアンタいきなり!」
至極もっとlもなセリフが放たれた。なにこの空間……うち帰りたい……………
「失礼したねレディ。僕は君のとなり麗しき少女に誘われてきたんだ」
ああ。お前が勝手にな。爽やかな笑顔が鬱陶しい。
「そ、そうなんですか姫様?」
「い、いえ…どなたか存じ上げないのですが…」
だろうな。この軽薄男が勝手に見つけて勝手に来ただけだ。殴りたい、この笑顔。
「僕の名前はキッカ。君の名前を聞かせてくれるかな?」
「る、ルーネートです…よろしくお願いしますキッカさん」
姫さん、こっちをちらっと見てもどうにもなりません。諦めてください。
「ここは姫様がおられる。これは不敬なことだ。分かっているな?というかどうやってここが…」
イケメン少年がキリッと言う。解る。解るぞその気持ち。
隣のぼやっとしてる人がリーダーっぽくないがリーダーだろう。何も言わない。
あれ、そういえば俺もバルトも巻き込まれでしょっぴかられる?嫌だなーそれ。そうなったらキッカを奈落の王に呪ってもらうわ。
「ルーネートさんの美しさに惹かれてここまでたどり着いてしまったのだ。ここは愚かな僕を許してもらえないだろうか」
ドン引きする少女達。姫様は例外。…バカだろこいつ。
「お前アホだろ。チャラ男」
ぼやっとした少年がは?みたいな顔で言う。うん。こいつアホなんだわ。
姫様はすっと俺を見て
「姫特権です。なんとかしてください」
………
「残念ながらそこまでの権利はないし、非番だし、指揮系統が違いますよ姫様」
「…………………………………………」
沈黙の姫様。
「………キッカ。死ぬか捕まるか首差し出すかどれがいい?」
「それどれも最終俺死んじゃわない!?」
「不敬罪だからな」
バルトが諦めろと言う。
「お、俺たち引っ張られてきただけなんで。こいつの過ちと関係ないんで」
「見捨てるのか我が親友ー!?」
「罪はお前がなんとかしろよ…まあ多少庇うから」
「あ、姫様。こいつどうするんです?」
「う、うーん…?」
普通死刑だ。姫様優しい。
「殺るか?」
「殺っていいんじゃない?」
「殺ろうぜ」
「殺りましょうか」
「……………………………」
ぼや少年以外殺るに傾いている。さらばキッカ。
「あの、今回が初犯ですし見逃すのは…」
お優しい姫からの提案。
「「「「却下」」」」
死んだなキッカ。さらば永遠に。
「そこの門番さんはどうしたい?」
「いやなんで俺?」
「ルーネートがちらちら見てるしそこそこ偉いのかなと」
「しがない町の門番です。というかそろそろ勤務時間です」
「ん? じゃあ門番さんは不問でいいか?」
「というかそこの問題のやつ以外はいい」
おっしゃ解放。さらば。
「それでは。失礼しました」
薄情な門番がすっと離れる。
走って自宅へ。装備を持って門へ向かう。
「あ、先輩こんにちは。急いでどうしたんですか?」
「ああ、軽薄青年の異常な直感で姫様の宿にたどり着いて罪を不問にされて今に至る」
「先輩運どうなってるんですか?」
うん。厄日だな。
「姫様に会えるなんて羨ましいっ!替わって欲しかった!!」
駄目なやつだった。小突いて黙らせる。なにするんすか。と非難されたが無視だ無視。
ん、魔物か。
ひゅっとした音が聞こえ矢がゴブリンへ命中。ゴブリンは生命活動を停止したのだ…
瞬殺か。
骸骨が二体。一体を弓で牽制している間に剣で斬り伏せる。
「せいっ!」
うち一体はそこそこ強かったが何とかなるレベルだった。
間髪入れずにドレッドヴァイド。弓で腕を狙いながら逆方向から斬りつける。抵抗は中々のものだが耐えきれず矢が胸に突き刺さり倒れる。それに前回より弱い。
「やー本当に居るんですねドレッドヴァイド」
「おう。お前もフィートの上の方一人で殺ったら姫様に会えるかもよ?」
「おお!?頑張ってやります!」
確証は無いがな。
夜更け。ここまでいろいろな魔物が来たが大したことはなかった。さて。そんなとき。
メイド服のいつか見た金髪碧眼美少女がすっ飛んできた。
エイフィスの後ろに着地…つんのめった。その豊満な柔らかい物体が、振り返って少女に押されたエイフィスの頭に命中ー!羨ましい…か?まあ少しは?
「だ、大丈夫ですか…?」
「え、あ、はい…」
胸を押し付けられたまんま答えるエイフィス君。
ニヤニヤしながら見る俺。さて。
「で、君は何しにすっ飛んできたのかな?」
「えっと、空を飛んでまして。寝まして。慌てて降りまして。寝ぼけてまして。ぶつかりました「
「そうか。まあ空をうんぬんは気になるがそろそろ胸をそこのやつからどけてやれ「
少女は顔を林檎にしながら慌ててどく。
「じゃ、気を付けて」
エイフィスは顔がまだ赤い。
「気持ち良かったか?」
「気持ち良かったですけど…ビックリが勝ちました」
さて。なんの問題もなく?? 業務終了。風呂入ってベッドに潜る。明日は祭り。楽しみにしながら眠りについた。
気になる点感想をお待ちしております。
門番さんになった理由と、日常です。なんもなくは無かったですね。まあ、へんてこりんなこともあるでしょう。
さて。祭りです。構想練っときます。