素晴らしきかな非番の日
十時ぐらいに…あ、十二時。
※5/15五時半頃加筆修正しました。
※感想欄でミリナの影薄いと言われたので加筆してみました。何が「んで」なんですかね門番のヤレット君。
朝だ。昨日は疲れて寝室に直行し、寝た。鎧がベッドの横に無造作に転がっている。
…ヒャッハアア! 非番! 今日! 非番! HI BA N! 体が痛いがそれよりも非番が嬉しい。週2日休日の内の一つを消費する癒しの日。素晴らしきかな非番の日!
体をウーンと伸ばし、鎧を片付ける。
「ヤッくん起きてる~? 朝ご飯作りにきたよ~! 起きてない? ちょうど右手に便利なジャム瓶があってね~」
このちょっとこう、抜けた感じの声はミリナだな。お前はジャム瓶で何をするつもりなんだと問いたいが。
昔から少々おかしな言動をしたりおかしな物を集めるのだが、逆にそれが魅力らしく学生時代男子がこぞって告白し玉砕させてきた。んで家族ぐるみの付き合いだったので近くに居た俺が妬まれる、という流れが多々あった。面倒でもあったけど同じ年で関わる人なんていなかったのでミリナが居てくれたのは嬉しかった。苦労も二倍くらいあったけど。
んで大体毎日朝は作りに来てくれる。
俺はそりゃ一人暮らしをしてると料理は出来るが、朝は大抵体が重い。肉体労働だから。それでミリナは朝を作りに来てくれる。良い人だ。
「起きてる起きてる。入ってー」
「はいはい入っちゃうよー」
扉の音がし、ミリナが入ってくる。台所で何か作っている。ずっしりとした体を持ち上げ、部屋の横の風呂に入る。魔導具の小さい箱に魔力を流し、水を流し、温める。少しも待たずにお湯が浴槽に満たされ、その中に肩まで浸かる。はあ~疲れが流される~!
気がする。
それぐらい重い。今回の疲れ。ドレッドヴァイドがでるとか異常。しかも街道沿いに。昨日は厄日だ。俺の恩人の言葉で不幸な日とのこと。まさに昨日はそれだった。
門番ことヤッくんは疲れた体を癒し、体を手間をかけず洗い、台所のあるリビングに入る。空色の髪、紫の瞳の少し幼く見える顔。ミリナが朝ご飯の支度をしているのが見える。
「おはよう、みりなー」
「おはようヤッくん。眠そうだねえ。昨日はしんどかった?それとも眠れなかった?」
「疲れも疲れた。昨日は魔物が強かった。フィートの上の方だよ…」
そう言いながらテーブルの椅子に座る。
「よく寝込まないね…フィートの中くらいって、嘘ついちゃった?昔から自己評価が低いよね。ヤッくん。そろそろできるよー」
目を丸くさせてミリナが言う。
「そうか?運良く最初腕が斬れたから何とかなったって思ってるけど…」
ミリナが台所から出てきて朝ご飯を出してくる。今日は四角いパン、プルパンにイチゴジャムと、卵とミルというしなしなしている葉のスクランブルエッグが出てきた。
「はい、どうぞ。食べよっか」
「いただきます」
「そろそろ豊穣祭だねえ。何か予定はある?」
「ああ豊穣祭。あの仕事が休みになる良い祭りか。特にないな。日課を終えたら」
「じゃあ私と周ろっか。私もすることはないし」
「んーじゃ、そうする」
「じゃあ、朝ご飯食べたら行こっか!」
ミリナはぱあっと顔を輝かせ、俺は頷いて時間を決める。
「ごちそうさま。皿は俺が洗っとくよ」
「それじゃ…」
何かに気付いたのかこっちを見てくる。
「ヤッくんかなーり疲れてるでしょ?肩揉みしてあげるよ」
「ん? いいよいいよ別に」
「遠慮しない遠慮しない」
ミリナは俺の後ろに立って肩をもみ始める。かなーり、じわーりくる。
「やっぱりすごくこってるね」
ぎゅっぎゅっと何度も肩をもむ。気持ちいい。んーあ~…
「ふふ。顔崩れてるよ?」
知らずにやけていたらしい。俺のそんな様子を見て微笑んでいる。
「食べ終わったみたいだし、はい、ソファでうつ伏せになって」
言われるがまま席を立ち、ソファに寝っ転がる。
ミリナは背中、腰を指圧してくれている。体から力を抜く。じーんと心地よい感覚が広がる。
次に足、ふくらはぎをもんでくれている。一番使う場所でこれまでとは違う良い感覚する。
「ふう。それじゃ、体には気をつけてね」
そう言ってミリナの家へ戻って行った。
俺はいつもは朝食前に行う日課の剣と魔法の鍛錬を遅れてやることにした。
恩人にはたくさんのことを教えてもらった。その一つが剣と魔法だった。恩人が去った後も毎日続けている。
素振り500。魔力制御、基礎鍛錬。魔法陣を書く。この4つが日課だ。
俺は庭に行き無心で素振りを行う。そして魔力制御を同時に行う。ヒュン、ヒュン、と剣を振る音が鳴る。
500。この後は基礎鍛錬として走りながら魔法陣を書く。
魔法陣の種類は氷の矢、氷の華。交互に書きながら庭を50周。小さい庭なので多く走らないと鍛錬にならない。そして腕立て、上半身の持ち上げ100回。
手早く済ませて風呂で汚れを落として町に向かう。
近所の雑貨屋の近くで話声がする。
「そういえば3日後の豊穣祭には王都の姫様と最近古代竜なんてものを討伐した人がくるとか」
「姫様に古代竜を討伐した人!? 領主さんと町長さんも大変ね~慌てて準備してるんじゃないかしら」
「古代竜を討伐した人はなんと異界の人だとか」
「この世界群とは違う本当の異世界?」
「そうみたいなんですよ。なんかニッポン? とかいうところから来たとか」
「そんなことがあるなんてね~」
いいのかそんな異界から来たとかいう機密事項。ていうかなんで知ってるんだこのおばちゃん。
中央通りの横の顔見知りの魔女の店。俺はそこに足を踏み入れる。
「いらっしゃい。んっ? ヤー坊じゃないか。世間話でもしに来たかい?」
大人っぽく黒のローブに黒のとんがり帽子を被った女性。
「メリーさん最近どうです?」
「ああ、おおかた強い魔物でもでたかい?最近は活発だねぇ。何が原因かは解らないけどね」
そうか。んーしばらくこのよくわからん強魔物発生期が続くのか。
「これを持ってきな、魔女の魔力の詰まったありがた~いナイフさ。魔力の質を変えて練り込んでいてね。魔物みたいな魔力の流れが活発なやつにはよく効くよ。お代はいらないよ」
「ありがとうございます。いつもよくしてくれて」
「何、顔をみせてくれたらそれでいいさ」
それではと別れの挨拶をして魔女の店を出る。
家へ戻り昼食の用意をする。パンにポトフ、ソーセージとハサリダというしゃきっとした食感の葉野菜を並べる。
ポトフは恩人の好きな料理だ。そのおかげでこの俺はこの料理が得意だ。元気だろうか。…どんな姿になっているだろうか。
「いただきます」
ポトフのジャカルタの柔らかく、ほんの少し甘い味。様々な旨味の詰まった味わい深いスープ。
数分の間で食べ終わった俺は、ミッシェの安らぎに向かう。
「おおヤレット君か!! 元気に門守ってるか?」
快活に笑う親父さん、ナイコフさんは濁った薄紫の髪に力強い目をしているがっしりしたお父さんみたいな顔の人だ。
「相変わらず辛い仕事だけど上手くやれてるよ」
「そりゃあ良かった!もうすぐ豊穣祭だ。彼女できたか?」
「ぜーんぜん。ミリナと周るよ」
「相変わらず仲がいいねえ!これで付き合わないってのもまたいい関係じゃねえか」
「確かに。しばらくここにいますけどいいですか?」
「全然大丈夫だ。空いてるとこに座っときな!」
丁度空いている真ん中から少しそれたテーブルに腰を落とす。
「今日のダンジョンではマジックアイテムが出てよー。いやーついてたわ!」
「まじかーいいねー! こっちは鉱石掘って魔物素材剥ぎ取るいつものだよ!」
マジックアイテムか。ついてるなーあいつー。マジックアイテムは魔力がこもっているため魔導具のように魔力を流す必要がない。
魔導具は魔力供給用の魔石が要る。それがないマジックアイテムはそれだけで重宝される。使いきりではなく魔力は自然と産み出される。
その上の魔導宝具なんてものもあるが、物による。まあそんなもんこれからも使うことは無いだろうが。
「ここの酒は旨いねー!」
「お前昼間っから酒かよ…」
「いいじゃねーか明日も明後日も休みもらってんだからよー!」
「かー! 今日もそろそろ終わりかー!」
「あー! 生きてるぅー!!」
ここで夜を食べていくことにした。注文はブルーテートーの香草蒸し焼きにオニオーンのスープ。それに白米だ。
「ブルーテートーの香草蒸し焼きにオニオーンのスープ、白米だよっ!」
親父さんが持ってきてくれた。やはりこの肉とは白米だ。肉のかむとたっぷりの肉汁と共に流れ込む香りと肉の旨み。蒸すと柔らかくなるこの肉を噛みながら白米をかきこむ。
あっというまに食べてしまい、満腹感に満たされる。
代金を払い、家に戻る。
風呂に入り、肩から力が抜ける。着替え明日は仕事か…と思いながら熟睡した。
見てくださった方。本当にありがとうございます。感想、誤字脱字に誤用、質問あればガンガン送ってください!
門番さんの名前。出現。ヤレットさんでした。
あ、男性諸君。ミリナさんのスリーサイズとか聞きたい?問われれば答えるし暇なら出します。
あ、ミリナさん身長152㎝だよ。
さあ恩人とやらは誰なのか。
異世界人は出るのか!あ、出ない場合もありますよ。お姫さまはいつ来るのかな!