大平 沙也加 その2
今回も大平 沙也加の過去話です。
不良達が逃げた後、男子(太田君)は10キロの鉛が入った竹刀をヒョイといとも容易く持ち上げると肩に竹刀を担ぎ歩き出した。
「あ、あのう‥‥‥ありがとう‥‥」
私が恐る恐る礼を言うと男子は暗い?顔をしてペコと頭を下げて部活へと行ってしまった。
私は何故さっきはニコリと挨拶したのに今は暗そうな顔をするのかわからなかった。
それにあの竹刀、普通あれだけの重り中学生がするのは‥‥‥。
あの男子は一体誰なのか興味が湧いてきた。
翌朝、私は剣道部の朝練を見に来ていた。
学校の体育館の隣にある武道場へ。
そこは剣道部と柔道部が半々づつ使っていて、竹刀が道着に当たる音、畳に受け身をする音で活気に満ち溢れていた。
「‥‥あの男子は‥‥て、面を被っているので誰が誰だか?‥‥」
仕方なく私は朝練が終わるまで待っていた。
暫くすると同じクラスの男子が汗を拭きながら近づいてきた。
「あれ?委員長。こんな所になにしにきたの?」
「‥うん‥あのね‥‥」
私は昨日起こったことを話した。
「う〜ん?‥‥もしかしてあいつじゃないかな?」
と指差す方には打ち込んでいる2人がいた。
「ねえ、どっちがあの男子なの?」
「左側、垂れに名前がない方」
私は左側の男子を見る。丁度相手と打ち合い稽古をしていた。が、「なにあれ」と思えるほど振った竹刀が見えなかった。ではなく、目で追うことが出来ないほど速かった。それは竹刀の空気を切る音がわたしの所まで聞こえてくるほど。
「ヒュン!パーン!」
私は驚いた。けど、あの竹刀を軽々と持つぐらいだからあれぐらいは出来るのかな?とも思っていた。
「確かに10キロの鉛が入った竹刀を軽々と持つぐらいだから‥‥‥」
と私が言うと隣に居た男子が驚いた表情で
「はあ?10キロだって⁈本当かよ?」
「う、うん、確かに彼が言っていたわ。けど実際測ってないからわからないけど」
「‥‥あいつ先月は7キロだって言ってた。俺もあいつの竹刀貸してもらったけど両手でヨタヨタと素振りするのがやっとだったよ。それを今度は10キロ‥‥」
やっぱりあの男子は凄いんだ。けどなら何故あんなに表情が暗いのかしら?生きているよりも何とか生きています的な感じだし、あれだけ強いのだからもっと自信があってもいいきがするし。
「‥‥彼て、何であんなに覇気というか表情が暗いのかしら‥‥」
「さあ?俺にも分からないなあ?‥‥ただあいつ部活のこと以外はあまり喋ろうともしないんだよね。あと友達もいなそうだし」
「‥‥そうなんだ‥‥」
私は彼(太田君)が何かに取り憑かれて?いるようにしか見えなかった。いえ、取り憑かれているよりもわざと自分を痛めつけているようにしか‥‥。実際今の打ち合いの時は彼のが正確に面やコテに当たっていたが相手との打ち込みのが数多く当たっていた。しかも明らかに私から見てもわざと当てられにいっている。これは打ち込みではなく打ち合いなのだからよければいいのに‥‥‥‥彼はわざと‥‥。
私が彼を見ていたので隣に居た男子が
「そんなに気になるのなら告白すればいいじゃん」
「はい?‥‥て、告白て誰が誰によ!」
「あいつの事が好きなんだろ」
「えっ?はあ?な、なに言っているのよ!私はただ彼が気になっただけ‥‥‥なんだから」
私は確かに気になっただけだった。好きとかの感情は微塵も‥‥‥感じて‥‥いないんだから。私はそう心に呟いた。
で、私は一番肝心な事を聞くのを忘れる所だった。
「‥‥それはそうと彼の名前って‥‥」
「あ!そうだな。名前も知らないと告白出来ないもんな」
『だから違うんだって、全くこいつは』
私はまた心の中で叫んでしまった。
「あいつの名前は太田 ヒロ。1組の奴だよ」
「太田‥‥‥ヒロ‥君か」
私が頷いていると、隣の男子がしつこくまた
「で、いつ告るの?」
「しない!しません!」
そんなやり取りをしていたら朝練が終わり太田君は部室の方へと行ってしまった。
‥‥‥そして四月、新学期になり私と太田君は同じクラスになった。




