頼みごと
翌朝、僕はアパート前の叔父の家に行った。水曜日から高校の入学式の為、青葉は火曜迄は家にいるはずだ。
叔父の家に着くとインターホンを押し
「スミマセ〜ン、青葉居るか!」
しかし返事はなし。
この朝の時間だと叔父と叔母は近くの畑に行っているので、青葉は留守番してるはず。
もう一度インターホンを押すと、
「スミマセ〜ン! 青葉居るか!」
二度目の応答の後、二階からドタドタと音が聞こえた
僕は「スミマセ〜」と返事をすると
「朝からスミマセ〜ンを連呼して、何なのヒロ君は!」
インターホンから青葉の声が、しかしその声は、何か機嫌が悪い状態の返事に聞こえ、
「青葉居たか‥‥‥てっきり叔父さん達と畑に行ってるんじゃないかと‥‥‥」
僕はもし青葉が居なかったら、出直してこようと思っていたんです。が、
「私は昨日も今日も居ますよ!(少し怒)」
青葉はやはり、まだ機嫌が悪い様ですよ
「で、私になにかよう?ヒロ君!」
玄関のドアをいきなり開けると、開口一番に言ってきました。ただですね‥‥‥顔を見ると、更に昨日より機嫌が悪くなってる顔の青葉がそこに居ましたから、
「あ、うん‥‥‥えっ〜と、青葉に話しておかないといけない事があって‥‥‥」
青葉の顔色を伺いながら、話そうとする僕は、一歩後ずさりしてしまいます。
「もしかして‥‥‥彼女(あの人)の事?」
青葉は腕を組んで、僕の顔を見ながら言います。けど、その顔は、不安じみた顔にも見え、
「う、うん‥‥‥そうだよ。青葉にだけは本当のことを話しておきたくて」
「本当の事?」
「うん、本当の事」
「う〜ん、とりあえず話だけ聞くから。玄関先も何だから中に入って」
しかたなくなのか、青葉は玄関内に僕を招き入れた。
けど、青葉の顔は、何かを疑っている?のか、不安なのか、僕に背を向けて話してきます。
「で、ヒロ君。話しておきたい事って?」
「うん、カンナの事で‥‥‥」
僕が、カンナの名を出すと、青葉はまた機嫌が少し悪くなった。
「‥‥‥フ〜ン。あの子のこと、ねぇ‥‥‥」
何か棘のある言い方言ってきますよ。で、僕は
「青葉、なにかさっきから怒っているみたいだけど‥‥‥」
僕はその時何故、青葉がなんで怒っているか分からないでいた。
「怒ってなんかないもん!」
「いや、怒っている」
「怒ってないもん!」
「怒ってる!」
「怒ってない!」
「怒ってる!」
「怒ってない!なにヒロ君は!あたしを朝早くから怒らせに来たの?」
青葉は今にも爆発寸前の状態。
さすがにこの状態では拉致があかなく
「ごめん。怒らせるつもりじゃないんだ。ただカンナの本当の事、青葉に話しておきたくて」
青葉は、はぁー、と一呼吸置いて
「話しておきたい事ってなに?」
「‥‥‥実はカンナは妖精なんだ!」
真顔で僕は言うと
「ハァ?今なんて言ったの?」
「カンナは妖精なんだ」
その瞬間青葉は体をプルプルと震え出し、
「ヒ、ヒロ君はホントーにあたしを怒らせに来たんだね!」
場の雰囲気がだんだんと悪い方に、そして、
「ち、ちょっと青葉」
なだめようとするが青葉の怒りが頂点に達したのか、
「ヒロ君、ちょーと背中向けてくれる?」
顔を引き付けながらニコリと言った。
「えっ?背中?」
「そう!背中!早く!」
「わ、わかったよ」
逆らうとなにされるかわからない状態の青葉の言うとうりにする。
僕は背中を向けた次の瞬間、青葉の右ストレートが背中めがけ、
「ヒロ君のバカッーアー!」
叫びながら、おもいっきり背中に青葉渾身の右ストレートを喰らった僕は「おうっ!」と逆エビ状態になり、玄関の外に飛ばされた。
「ヒロ君!嘘をつくならもう少しマシな嘘を言いなさい!」
鬼のような形相の青葉が両腕を腰につけて、今にも二発目を喰らい出しそうな状態で、睨んできましたよ。
「イタタタッ、なにするんだよ!青葉!」
腰をおさえながら立ち上がり、青葉の方を見ると、
まだプルプル怒りに震えている青葉。
このままではまずいと、
「青葉、その俺の話・・・」
「帰って」
「えっ?」
「帰ってて、言ったの!」
青葉はそう言う背中を向けた。
その怒る青葉の後ろ姿を見て、何かを思い出した僕は、
『またなのか?また俺のせいなのか?』心の中でそう叫んだ。今までその場で諦め、追いかけるのを辞めてしまったあの過去が‥‥‥。
『このままでいいのか?』
何もかも諦めてしまっていいのか?と何度も僕は呟いた。
情けない、自分が情けなさすぎる。両手の拳に力が入り、
「頼む青葉!俺の話を聞いてくれ!」
青葉は無言のまま背中を向けているが、僕もこのまま引き下がれない!
「頼む!俺の話を聞いてくれ!」
青葉は少し気にかかり僕の方をチラリと見て驚いた。
「ちょ、ちょっと何してるの!ヒロ君!」
僕は土下座をしていた。しかも額を地面に付けて。
「俺は‥‥‥青葉頼む!話を聞いてくれ!聞いてくれるまで、ここを‥‥‥このまま動かない!」
さらに頭を下げる。
青葉はなんだか罪悪感がふつふつとわいてきて、
「はぁー。ねえヒロ君、なんでそこまでするの?」
ため息まじりに青葉は質問した。
「そんなにあの女の人が大事なの?」
青葉は悲しいような、それに近い感情のような言葉でまた質問した。
僕は少し言葉を選ぶように
「あ、うっ‥‥‥‥俺にとって今はカンナが大事な人だ。けどそれと同じくらいに青葉の事も‥‥青葉とは仲直りがしたい」
自分でも今、何を言っているかわからなくなってくる。けど、今の本当の気持ちを僕は青葉に言った。
青葉は少し間を置いて、土下座をする僕の前に座った。そして、
「もう、わかったわよヒロ君」
「そ、それじゃ!」
「話を聞いてあげる。それにしてもヒロ君は他人の事には凄く敏感なのに、自分の事は鈍感なのね。あと優柔不断だし」
青葉は皮肉ったような、けど内心ホッとしたようなそんな感じでニコリ笑顔で言った。
「優柔不断は認めるよ」
漸く僕は、顔を上げてそう言った。




