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第五話

 ドンッと二人が先程まで居た場所に、巨大な女の化け物が落ちてきた。

 危うく二手に別れた二人は難を逃れたが、あの足のような手のようなものに捕縛された時には即死していた事だろう。


「『コア』か足を狙って!」


 マトバの怒鳴り声が聞こえ、ターニャは体制を立て直すのもそこそこに即座に銃撃を開始した。

 今度のショットシェルは『ドラゴンブレス弾』だ。

 散弾の代わりに炎の塊を吐き出すショットガンは、正しく火の化身たる『サラマンダー』の異名に相応しいだろう。


 しかし、女の化け物には効果は今一つのようだった。

 いや、それどころかほぼ無効化されていた。

 確かに火炎弾は化け物の胴体を捉えたが、炎は瞬く間に消火され、その黒い体躯に焦げ跡すら残さなかった。


 何か特殊な粘膜で覆われているのか。

 そう仮定したターニャは、次に顔面へ向けて火炎弾を撃ち放った。やはり効果は無かった。


 反対側でマトバが銃撃を行っているが、同じく効果は薄いようだ。

 けど、火炎弾より効果はあるようだ。

 ただ拳銃弾だけに貫通力が低く、堅牢な皮膚に防がれてしまっているようだった。


「非物理的な攻撃は通用しないのか…………」


 ターニャは自分でも驚くほどに状況を分析し、ショットシェルを入れ換える。

 『フレシェット弾』を選択した。


 そんな最中、女の化け物が動き始めた。

 女の八つの目玉がターニャに狙いを定め、次の瞬間には眼前が真っ黒に塗り潰されていた。


「は、早――――」


 全て言い終えるより早く、女の前足が持ち上がりターニャの腹部を打った。

 瞬間、体が宙を舞い数メートルも吹き飛ばされた。


「ぐぁぁ――――ッ!」


 地面に何度も体を打ち付け、最後に公園の遊具に体をぶつけて止まった。

 腹部の殴打と全身の強打で、束の間呼吸が出来なくなった。

 それでも意識を失わなかったのは幸運だったのか。


 朦朧とする意識は、女の前足に掴み上げられる。

 全身が危険信号を放っていた。

 このままではあの兵士と同じく足先から食われてしまう、と。


 しかし、ターニャにはどうする事も出来なかった。

 体は激痛に動かず、それ以前に頭は鷲掴みにされ足は宙に浮いていて逃げることすらままならない。

 諦めたくは無いが、絶望だけが薄まる意識を埋め尽くしていく。


「放せこの化け物めがぁぁぁぁぁ――――ッ!」


 刹那、耳朶を打ち据える怒声が聞こえたかと思うと、ターニャの体は自由を取り戻し、地面に力無く落下した。

 見れば女の腕に白銀の刃が突き刺さっていた。


 マトバだ。

 彼が銃剣突撃を行い、女の前足を刺し貫いていたのだ。


「■■■■■――――!」


 女は怒るように咆哮を上げながら、前足を無茶苦茶に振るった。

 マトバは銃剣を引き抜くと、身軽に前足をかわし女の懐に入った。


「こいつは効くだろ!」


 斬ッ――――。

 そんな擬音が聞こえたような気がした。

 マトバは女の顔面へ目掛け、銃剣を横一文字に振るったのだ。


 女の八つの目玉の幾つかがが、卵を潰したように弾けた。

 女は激痛に悶えるように、大きく体を仰け反らせる。


「今だ! 『コア』を撃って!」


 マトバの紅い瞳がターニャを真っ直ぐに見詰める。

 現存、あの化け物の体表を貫く威力を持つのはターニャのショットガンだけである。


「ア――アァァァァァ――――!」


 ターニャは叫びながら、軋みを上げる体に鞭を打ってショットガンを構える。

 原則、『不死人』の『コア』は頭部にある。

 それは変異種でも同じである。


 ターニャは血飛沫を撒き散らす女の顔面へ、ダットサイトの赤い光点を向ける。

 そしてトリガーを弾いた。

 一発目の『フレシェット弾』が、残った眼球ごと顔を破壊する。

 やはり物理的な攻撃は通用する、と頭の端で分析しながら、すかさずハンドガードを操作。排莢しつつ次弾を装填し、再びトリガーを弾いた。


 そうしてチューブマガジンに納められた『フレシェット弾』を全て撃ちきった頃には、女の顔は完全に潰れてしまい、素早かった巨躯は動かなくなっていた。

 的場薫(マトバ・カオル)

 年齢:15歳

 身長:160cm

 体重:50kg

 国籍:日本

 所属:デッドキラー

 階級:二等兵

 適正銃器:レバーアクションライフル


 日本人ガンスリンガー。

 黒髪に紅い瞳が特徴的な少年。

 歩兵連隊に加わっていたが、部隊が壊滅したので味方と共に撤退していた。敵軍の追っ手を逃れる為に公園へ逃げ込み死体に紛れて潜んでいた。

 危機感知能力に秀でており、攻撃を事前に察知する事が出来る。

 勇敢であるが、怖がりでもある。

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