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第四話

 爆発音の直後に、ターニャ達の傍に煉瓦やコンクリートの塊が降って来た。

 色や形から、敵兵が潜んでいたアパートの欠片なのだと推測した。


 何事かと顔を上げたターニャは、思わず自分の目を疑った。

 元々、半壊していたアパートだが、今度は完全に破壊されているではないか。

 いや、それよりも驚愕すべきは、崩落したアパートの瓦礫の下で、何やら黒く巨大な物体が蠢いている事である。


「何なの…………?」


「“変異種”か…………」


 マトバが緊張した声色で呟いた。

 “変異種”とは、詳しい理由は分からないが、人型の『不死人』が何等かの影響で姿形を変異させた化け物を指し示す言葉だ。

 変異した場合、元は意識を持つ『不死人』であっても凶化の影響で意識が無くなり、本能の赴くまま破壊の限りを尽くす。


 ターニャも変異種と邂逅するのは初めてだが、マトバは違うようだ。

 「不味いな」と呟く彼は、ライフルの銃口を黒い物体へ向けてトリガーを弾いた。が、残弾が無く、撃鉄の落ちる乾いた音だけが空気を震わせた。


 そんな中、黒い物体がその姿を日の下に晒した。

 正しく化け物だった。

 全裸の女性が逆立ちをしたような姿をしていた。

 全長は三メートルはあるだろうか。真っ黒な体躯に迸る赤い血管のような線が、心臓が鼓動を打つように明滅を繰り返している様子が気持ち悪い。

 顔のような部分はまるで蜘蛛のそれで、八つの赤い目玉がそれぞれ独立して周囲を見渡している。

 女性の醜悪な戯画という表現が、或いは適切かも知れない。


 ふと、その巨大な女性のような『不死人』の足下に、『フリークス』の兵士の姿を見付けた。

 アパートの倒壊を免れた生存者だろう。元々死んでいるので、生存も何も無いが。

 けど、どうやら瓦礫に『コア』を傷付けたのか、虫の息のようだった。


 兵士を見付けたのは巨大な女もほぼ同時で、八つの目玉が狙いを定めたように兵士を見下ろした。

 刹那、女の前足が素早く兵士の頭を鷲掴みにした。そして百八十以上はあろう兵士の体を易々と持ち上げる。

 何をするのか、息をひそめて次の行動を伺っていたターニャは、危うく悲鳴を圧し殺した。

 兵士を持ち上げた化け物は、その口を四方へ大きく広げたかと思うと、兵士を足先からバリバリと咀嚼し始めたのだ。


「■■■■■――――!」


 兵士の痛々しい悲鳴が耳朶を打つ。

 堪えきれず目を逸らすと、ふとマトバの手元へ視線が向いた。


 彼はレバーアクションライフルに銃弾を装填しているが、その指先は震え、思うように給弾作業が出来ていなかった。

 この子も恐怖している。

 そう理解した瞬間、ターニャは思わず彼の手に自分の手を重ねていた。冷たい手をしていた。


「大丈夫よ、マトバ。私が傍に居るから」


 あまりに勇敢だったので失念していた。

 マトバはターニャより年下の少年兵でありながら、必死に勇気を振り絞り『不死人』と渡り合おうとしている事を。


 ターニャは『M3 Salamander90』に新たなショットシェルを給弾し、発砲準備を整える。

 今は怖くとも歯を食い縛り、この子と共に生き抜かねばならない。


「不味い、バレた!」


 マトバが叫んだ。

 刹那、巨大な影が二人の上に落とされた。

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