8 「姉と息子と街へ」
○東の森 死神邸
「今日は街へ行きます」
私は椅子から立ち上がり宣言する。
「あら、いきなりね」
「なんか用事か、母ちゃん」
「率直に言うと、食べ物が足りない」
そう言って机の上を見る。
たまごをふんだんに使ったオムレツ、大量厚切りベーコン。山盛りのサラダ。
タカシが来てからの食材の消費がとても増えている。この息子がそれはもう食べるのだ。スライムは食事でもレベルが上がるらしく、もうレベルは4に上がっていた。それはいいのだが、お金もあまりない。なので、
「モンスター狩りしつつ、お金を貯めて、食べ物を沢山買おう。タカシ、40秒で消化しな。お姉ちゃんはゆっくりでいいよ」
「わかった!」
「あらあら」
タカシが大きくなりテーブル全体を覆い尽くす。味が混ざってすごいことなりそう。
街へ向かって森を歩く。
今日は昨日と違ってプレイヤーの人がいるようだ。平原が攻略されたのだろう。
適当なモンスターをお姉ちゃんと一緒に倒していく。基本私の杖の不意打ちフルスイングで倒せなかったら、お姉ちゃんが鎌で倒すか、タカシが槍のような触手を作ってぶっ刺す流れだ。スライムに対しては、【支援魔法】のファイアエンチャントを武器に使ってから殴っている。タカシもお姉ちゃんから加護を貰ったので、隠密行動はばっちりだ。頭の上から動かないから関係ない気もするけど。
ふと思い立ち、私の頭に乗っているタカシに声をかける。
「そういえばあんたはどういうステータス割り振りしてるの」
私はステータスがランクでしか見えないので、適当にステ振りをしている。
本来テイマーは、仲間のモンスターのステータスの割り振りを決めるらしいのだが、私は面倒なので本人に任せている。人がどうこう口出しするもんでもないしね。
「やっぱ防御系だなー。マリィがいるから攻撃は平気だろうし。母ちゃん弱そうだし俺が守んねーと」
まだ攻撃らしい攻撃は受けていないが、もしもの時は触手なりで守ってくれるのだろう。
「頑なに私の頭から降りないのはそういう理由で……。ごめんね、あんたのこと誤解してたかも」
「降りないは動くのがめんどいからだなー。AGIに振ってないから足が遅いってのもあるけど」
「ふんっ!」
頭に乗っているタカシを、私ごと頭突きすることで、思い切り木に叩きつける。
くそぅ、私の感心を返せ!
「ふふーん、スライムに物理攻撃は効かないぜー母ちゃん」
「むきいーっ!」
「二人とも魔物にばれちゃうから落ち着いて」
「む、ごめんねお姉ちゃん」
「ふふ、仲が良いのね。ちょっと妬けちゃうかも」
「まあ親子だからな!」
「あんたは黙ってて!」
「グオオオオォォォゥゥゥ」
そんな私たちの声が聞こえたのか、魔物に見つかってしまった。大きなクマだ。
「罰としてあれは二人でどうにかしなさい」
お姉ちゃんに叱られてしまった。
くっ、このクマ完封して、許してもらうついでに頭も撫でてもらおう。はっ!頭にタカシ乗ってるから撫でてもらえないじゃないか。クマめ許さんぞ!
あ、そういえば、ゲーム始めてから初のちゃんとした戦闘かもしれないね。
「私が杖で殴るから、あんたは防御任せていい?」
「おっしゃ!俺も隙を見てぶっ刺して溶かすぜー」
「ファイアエンチャント。リインフォースパワー」
クマの突進が私に到達するギリギリまでねばり、呪文を発動する。
そして、クマが私の杖の射程に入ったところで、振り上げていた杖を思い切り振り下ろす。
「タカシ!」
同時にタカシが槍状の触手を勢い良く伸ばした。
私の杖は脳天に、タカシの触手は眼球に突き刺さり、一瞬の停止を挟んだ後、クマは粒子を散らして消えていった。
「いえーい」
「やったぜ!」
私が両手をタカシの前に配置すると、タカシの触手伸びてきて、ハイタッチとなった。
結局、ちゃんとした戦闘とは言えなかったけど、まあ及第点だろう。だよね?
「お疲れ様、ハルカちゃん、タカシ君」
「一か八かだったけどどうにかなったよ。あんなに速いクマなんか目で追えないから、一発勝負に賭けて良かったよ」
「まぁ母ちゃんいなくても、俺が触手5本くらい出せばすぐ終わったんだけどな」
「むぅ、じゃあ次はバフだけかけてタカシに任せるからね」
「おう!任せとけ母ちゃん!」
「あらあら」
普通の戦闘職の人たちはあんなのといつも戦っていたのだろうか。現実でもスポーツとかやってないと厳しそう
私?無理無理。運動神経ダメダメだからねー。なんなら何も無いところで転ぶくらいは普通にやるよ。
さて、プレイヤーの人たちに見つからないように、【隠密】全開で再び進み始める。
先ほどの宣言通りタカシを乗せた私がモンスターの背後まで歩き、タカシが触手で急所を串刺しにする戦闘スタイルを敢行している。すごい楽だね。お姉ちゃんがタカシにも加護をくれたおかげでタカシも【隠密】を得たから、万一にもバレることはなさそうだ。
イノシシやらクマやらを倒しているとようやく森から脱出した。モンスターが強かったからかレベルも結構上がったし満足だ。
平原を歩く途中で、一度だけ大きなオオカミがいたんだけど、それはタカシの触手じゃ倒せなかったよ。頭貫かれて死なないってどうなってるんだろうね。まぁ、お姉ちゃんがすぐに仕留めてくれたんだけど。タカシがワンパンで倒せなかったのは初めてだったから、親子共々びっくりしたよね。……今完全に無意識でタカシを子どもと認めていた。まぁ、生意気なお子ちゃまって感じで可愛いっちゃ可愛いんだけどねー。アユは昔から大人しい子だったし。
さぁそろそろ街だよ。