5 「強制テイム」
○東の平原
「さぁ行こう我が家へ」
「ハル姉居候だよね?」
途中でオオカミに追いかけられたりもしたが、無事に坑道へ到着。
森から街へ向かった時は一切追われなかったあたり【隠密】がどれだけ強力かがわかる。視界に映っても平気なのは、認識阻害ってやつなんだろうか。
「てってれー!つるはしー!」
鑑定メガネを装着し、宣言する。
「じゃあ、僕たちはここで待ってるよ」
「わかった」
【採掘】スキルがないと、せっかく鉱石を掘っても品質が低いものばかりになるらしい。世知辛いのう。
アユはポーションを【調合】していたが、ナホは生産系スキルを取っていないらしく、作業中の私のスクショを撮って暇つぶししていた。メガネがなんとか言っとる。
それなりの量の鉄鉱石と少量のレア鉱石っぼいものが手に入ったので、そろそろ目的地へ向かう。
さあ、坑道の出口が見えて参りました。
「私の【危機探知】スキルが最大限の音量で鳴り響いているんですけど」
「大丈夫大丈夫」
私を先頭にナホ、アユがついて来る。アユなんかナホの背中でびくびくしている。
お、前方に鎌を持ったお姉ちゃん発見。
「お姉ちゃんただいまー」
地面を見つめ、黙して語らないお姉ちゃん。
不意にこちらへ紅い目を向けたかと思うと、
「死神様のお通りだあぁぁぁぁっっっ!」
お姉ちゃんが凄まじい剣幕で切り掛かってきた。
私の背後で二人が気絶した。
○東の森 死神邸
「「ごめんなさい」」
小屋に私とお姉ちゃんの声が響く。
なぜこんなことになっているかというと、私とお姉ちゃんがアユとナホを驚かせようとしたからだ。
【威圧】スキル全開のお姉ちゃんの迫真の演技は、二人を状態異常気絶に陥らせるには充分だったらしい。セリフは私監修。
そして目を覚ましたナホからお説教を受けて今に至る。もちろん正座だ。
「まさか、ユニークボスにお説教するとは私自身考えてもみませんでしたよ」
「あらあら、ごめんなさい、ふふ」
お姉ちゃんは怒られているのに嬉しそうだ。
「さっきから思ってたんだけど、ハル姉のプレイヤーネームとかが表示されないのはなんでなの」
「……あぁそれはお姉ちゃんからもらった加護の効果だよ」
「……スクショとか見せてくれたりは……」
「お姉ちゃんと私だけの秘密ー」
「「ねー」」
お姉ちゃんと顔を見合わせて言う。
アユはスキル【看破】を取っていたらしく、情報が見えなかったのが悔しいらしい。元々、好奇心旺盛な子だからね。
「随分と仲がいいんですね」
ナホがソファで頬を膨らまし、むくれている。
ナホはちょっとシスコン気味だからね。
ここは私が一肌脱ごう。
「んしょ」
ナホの膝の上に座る。
南穂は私を膝の上に乗せるのがお気に入りなのだ。
機嫌をとるにはこれが一番効くんだよ。ああ私はなんて悪女なのだろう。
その後、お茶会をしていると、あることを思い出す。ちなみに、ナホはまだ私を抱えてご満悦だ。
「お姉ちゃんこれ始まりの街のカフェの入場証だから渡しておくよ。ナホとアユにも」
「あらあらかわいいバッジね」
「ハル姉なにこれ」
「詳しくは明日行って話すよ」
「でも、ごめんねハルカちゃん。私街に入れないのよ……」
「……ねぇアユ、お姉ちゃんって今どう見えてる?」
「マリィさん自体は普通のお姉さんだけど、頭上にでっかいボスアイコンがあってすごい目立ってる。」
「それさえ誤魔化せればいいのかなー」
「ハルカちゃんの気持ちだけでも充分よ?」
「それはダメッ。私が一緒に街で買い物とかしたいから。ちょっと対策考えておくよ」
「いけるかどうかはわからないけど……。ハル姉もうレベルは10超えてる?」
「そういえばさっきちょうどなった気がする。あ、転職可能だって」
「そこにテイマーって職業があるんだけど、それでマリィさんに仲間になってもらえれば、アイコンも変わるかもしれない。ユニークボスが仲間になれるのかが微妙だけど。あとテイマーとサモナーは地雷っていう定評もある」
ちなみにアユはメイジ、ナホはソルジャーらしい。
「地雷云々は気にしないけど、なんだか気が進まないなぁ……。それって私の命令は聞かなくちゃいけないようなやつでしょ?」
「ハルカちゃんテイマーにしましょう」
「いやでも……」
「テイマーにしましょう」
「……はい」
お姉ちゃんの謎の圧力に押されてしまう。
「じゃあテイマーに転職しますよっと」
ポチッ。
《職業がテイマーに変更されました》
《死神 個体名:マリィのシステム権限行使により個体名:マリィが強制テイムされました》
《称号【死神の親愛】が称号【死神の加護】に上書きされました》
「うわっ」
「ハルカちゃんどうかした?」
「いや、ちょっと驚いただけ」
システム権限行使って……お姉ちゃん偉いんだね。なんか称号も変わってるし……。
「そうだ、アユ表示は!?」
「うん、青の小さな三角形だね。色で味方だってわかるしこれで平気だと思うよ」
「やった!」
ナホの膝から降り、隣に座っているお姉ちゃんの膝の上に座って、抱きつく。
なんかナホから「あっ」って声が聞こえたけど気にしない。
胸に顔を埋めるといい香りがする。
私にはないものだ……。
「あらあら、よかったわ」
「よかったよぅ」
安心したからか少し眠くなってしまった。
「ハル姉、今日はもう寝た方がいいよ」
「……そうする。お姉ちゃん夜ごはんお菓子になっちゃったけど、明日はちゃんと作るね。ごめんね」
「ふふ、期待してるわ」
「ではマリィさん、今日は失礼しますね」
ナホ達は少し森を探索してからログアウトするらしい。まだ、午後9時半だもんね。
二人は平原を突破してここまで来られないのでここを拠点にはしないようだ。ログインしてここだと街までたどり着けないかもしれないもんね。
「じゃあ寝ましょうか」
「うん」
ベッドが一つしかないが、元々広く、二人とも細めなので、特に苦労もなく寝転がれる。
「おやすみ、ハルカちゃん」
「おやすみ、お姉ちゃん」
幸せに包まれ、意識が落ちていく。
ちなみに、ゲーム内で眠り一時間ほど経つと、自動でログアウトして現実でも眠り続けるらしいが、その辺は設定でも弄れるらしい。便利だね。
ハルカ・パレスティア Lv10 テイマーLv1
HP F+
MP E-
STR F+
VIT F+
DEX F+
AGI F+
INT E-
LUK E
スキル【テイム】【支援魔法Lv3】【料理Lv2】【杖Lv5】【採掘Lv3】【眠り姫Lv2】(【隠密Lv50】【不意打ちLv50】【隠蔽Lv50】)
称号【第一旅人】【最速の帰還者】【死神の親愛】【ネコカフェ解放者】
マリィ Lv89 死神Lv89
HP B
MP B-
STR A
VIT B-
DEX A
AGI S-
INT B
LUK E
スキル【首狩り】【鎌の呪い】【隠密Lv100】【不意打ちLv100】【隠蔽Lv100】【威圧Lv80】【探知Lv70】
【NPC騎士団】東西南北平原攻略四歩目【降臨】
1.名無しのゲーマー
街の東西南北に広がる平原、通称死の平原の攻略スレです。
生き延びてその先の景色を見ましょう。
次スレは>>950でどうぞ。
(前スレ)
334.名無しのゲーマー
結局騎士団の出現条件は、ワイルドウルフリーダーが進化してジャイアントワイルドウルフが出現した時ってこと?
335.名無しのゲーマー
騎士たちのレベル30ぐらいあるしもう全部騎士でいいんじゃないかな
ジャイアントの遠吠えがトラウマになりそう
336.名無しのゲーマー
>>334
それで正解。
騎士が群れごと討伐してくれるから、その隙に進むみたいなスタイルが浸透してる。
群れ潰したら騎士は転移魔法で帰っちゃうけど。
337.名無しのゲーマー
ウルフリーダーならプレイヤー二人いればどうにかなるようになったし、そろそろ平原突破できるんじゃねえかな
338.名無しのゲーマー
まずはプレイヤー全体のレベルの底上げをしないといけないのか。
どういうバランスしてんだこのゲーム
339.名無しのゲーマー
初期マップでプレイヤー全体の連携が要求されてんのがなぁ。
まぁ、ゲーム全体がいい雰囲気になってるのは否定せんけど。
340.名無しのゲーマー
騎士召喚のためにウルフリーダーに全裸で突撃して、経験値献上してる奴ら見て流石に笑った。
戦闘勝利なくても、経験値入るしプレイヤー側としても間違いではないんだろうが。
341.名無しのゲーマー
初期装備の銀髪幼女がウサギワンパンで沈めててつい見守ってしまった。
342.名無しのゲーマー
>>340
全裸突撃マンだけど30回くらいモグモグされてレベル上がったよ。
>>341
ガタッ
343.名無しのゲーマー
>>341
ガタッ
344.名無しのゲーマー
>>341
御託はいい。スクショを出せ。
345.名無しのゲーマー
(画像)
後ろ姿一枚だけ。
二枚目撮る前に後ろからウルフモグモグくらって死んじまった。
346.名無しのゲーマー
ぎん!
347.名無しのゲーマー
ぱつ!
348.名無しのゲーマー
俺も杖で殴られてぇ
349.名無しのゲーマー
身長変更不可で15禁のこのゲームでこの姿。夢が広がるな。
350.名無しのゲーマー
まとめて通報した
○運営
「死神と接触したプレイヤー出現!」
「は?あれ森にずっといたはずだろ?プレイヤーまだ平原突破してないだろ」
「……いや一人森にいますね」
「とりあえず、そいつモニターに映せ!あとログも!」
「名前は……ハルカ・パレスティアか。小っちゃい女の子だな」
「ルートは地下空洞ね。どうやらキラーラビットの湧き地点の穴をそのまま掘ったみたい」
「あっはっはっは!マジかよ最高だな!」
「確かに平原の地下には坑道を用意していましたが……。鉱山側から行く以外の方法は考えていませんでしたね……」
「あー面白い。それで死神とはどうなった?殺されたか?」
「ぷふっ。い、今はお茶してるわね。こ、ここを拠点にさせてもらうらしいわよ?」
「あはははは!!なんだそりゃ!どういう流れでそうなったんだよ!」
「第一、ボスに友好的に話しかけてるのがおかしいですよね。僕個人としては死神さんが楽しそうなのでハルカさんに感謝してますけど」
「おい!こいつのステータスは!?」
「……あー。【鑑定】取ってないな。つっても、あんな見た目の奴に話しかけるか?
あとこの子【第一旅人】と【最速の帰還者】も持ってるわ」
「もう滅茶苦茶ね……」
「取り敢えず俺こいつのログ全部見てくるわ。後は任せた!」
「あっ!あの野郎逃げやがった……」
「おい、高橋!そろそろネコカフェに一人来るぞ!あと3分!」
「はぁ!?あのクソ面倒くさいルート通るネコ追っかけた奴がもう出たのかよ!まだ、サービス2日目だぞ!」
「あれ何匹かネコいたはずだし、楽なルートのネコ引いたんじゃないかしら?」
「一番面倒なルートですねこれ。ゴールの3メートル横がスタート地点のやつです」
「……ちなみにそのプレイヤーは誰だ?」
「…………ハルカさんです」
「……ハルカちゃんやってくれるわね……」
「あいつ昨日はまともに狩りしてたじゃん!なんで今日はこんななの!?」
「多分弟さんと、妹さんがいなくなって、抑える人がいなくなったのかと……」
「……取り敢えず増田はネコカフェ行ってきてくれ。あそこのマスターはまだNPCに移行していない」
「わかりました。では行ってきます」
「ちくしょー。俺の癒しのネコカフェがもうバレちまった。せっかく開発にお願いして作ってもらったのに」
「職権乱用じゃないの……」
「ああああ!!!」
「ちょっとうるさいわよ。どうしたの」
「死神が……テイムされた」
「はぁ?現段階でテイムできるようなもんじゃないでしょ?現段階どころか未来永劫無理みたいな話じゃなかったの?」
「システム権限行使のモンスター側からの強制テイムですね。テイマーなら枠取られますが、他の職なら枠がいらない破格の性能のやつです。そもそも権限持つようなキャラクターがプレイヤーの下につくのは想定されていなかったので、完全な死に仕様でしたが」
「なんで権限なんか持ってんのよ」
「いやさ、殺害不可の上位NPCも殺してなんぼの死神だろってことで、ある程度の権限持たせてたはずだ」
「余計なことを……」
「まぁ、こうなるかなとも思ってたのでマリィさんをネコカフェに連れてくるようお願いしておきましたし、その時お話してレベルダウン等の処置をとらせてもらいましょう」
「お前そこまで考えてたのかよ……」
「なんか怖いわ……」
「酷い言われようだ」