4 「死神のお姉ちゃん」
○東の森 死神邸
「お姉ちゃんもそんなほいほい人を家に入れちゃダメだよー。悪い人かもしれないんだからねー」
「そうねハルカちゃん気をつけるわ」
そう言って、うふふと微笑む死神もといマリィさんもといお姉ちゃん。
お姉ちゃんは腰まで伸びた流れるような黒髪と、ちょっとたれ目な紅い瞳がチャームポイントのナイスバディなお姉ちゃんだ。なんでもあの黒いローブには強力な隠蔽魔法等が付与されていて、それを着ると他者からは、恐ろしい様相に見えるそうだ。
今は二人でお菓子を食べながらお話をしている。私はどうやってここに来たぐらいしか話すことがなかったけれど、お姉ちゃんは数十年前から生きているらしく色々なお話をしてくれた。私のように友好的に話しかけてくれるような人は今までいなかったらしく、人とお話することが楽しくて仕方ないらしい。ああ、かわいい。
そんなこんなで住まわせてくれることになり、私は居候として料理などを振る舞うことにした。なんでも、お姉ちゃんは死神の呪いだとかで鎌以外の刃物が使えず、料理が出来なかったらしい。そこで、料理を作ることを伝えたところ、私を抱きしめて喜んでくれた。柔らかかった。
ウサギ狩りのクエストがあるからと伝えると、私を抱き抱えて空を飛んで森の外まで連れてきてくれた。
「ありがとうお姉ちゃん。すぐ帰ってくるね」
「ゆっくりでいいから気をつけるのよ」
私の服に乱れがないかをチェックしてくれるお姉ちゃん。優しい。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい、ふふ」
次はアユとナホも連れてくるって約束をしてある。
街に向かって歩きだす。
そういえばお姉ちゃんから加護ってやつを貰った。それは称号に追加されている。むふふ。
【死神の加護】
死神マリィからの信頼を得た証
スキル【隠密Lv30】【不意打ちLv30】【隠蔽Lv30】付与
強すぎない?あと、オンオフも切り替えられるらしい。
【隠密】のおかげでウサギに一切ばれずに近づくことができる。
む、ナホからメッセージが来てるね。しかし、私はいま、隠密行動中なのだ。後で読むよ。
あ、オオカミは強そうなんで無視してるよ。【不意打ち】はレベルの分だけ敵の認識外からのダメージが上がるらしい。今は30%増しだ。【支援魔法】も使っているおかげで、頭に杖を振り下ろしてクリティカルヒットさせればワンパンでウサギが爆散する。
FPSでもサプレッサーを使っての隠密プレイなどをやっていたので、こういうのは結構好きなのだ。華麗なる女暗殺者ハルカです。
ちなみに【隠蔽】は敵から鑑定を受けた時にプレイヤーネームやステータスがバレないらしい。お姉ちゃんは死神力(今命名した)が高すぎて【隠蔽】では隠しきれず、街に入れないらしい。くっ、すぐどうにかしてあげるからねお姉ちゃん。
手当たり次第にウサギを殴り倒していると街が見えてきた。あの森結構遠くにあったんだね。この辺は人が多いから獲物もいないだろうし、走ってさっさと行こう。
ギルドでクエストの達成報告と素材の売却を行う。肉は料理に使うから少し残したけどね。
受付で例のバッジを見せると、受付嬢さんの目が見開かれると、「こちらへお越しください」と誘導され、個室へ入る。背後で扉が閉まったと思ったら、目の前に扉が現れ、振り向くと代わりに入ってきた扉は無くなっていた。
魔法ってすごいなーと思いつつ扉を開く。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん」
「マスター、いつもの」
「ふふっ、畏まりました」
また、人生で言ってみたいことトップ10が埋まってしまった。
にゃんこラテをちびちび飲みながらマスターに話しかける。
「マスター、【鑑定】の効果があるアイテムとか知りません?」
「そうですね……。これなんてどうでしょう」
しゃがみこんでゴソゴソしてると思ったら、メガネを手に持っていた。そこまで見ればもうわかる。
「ください!」
「ふむ……これは差し上げましょう」
「えーと……タダより怖いものはないと言いますが……」
「ではこちらを東の森に住んでいるマリィさんに渡していただしましょう」
そう言って肉球のバッジを差し出すマスター。
マスターは唖然としている私を置いてそのまま話を続ける。
「次は彼女も連れてきてあげてください。我々も彼女には幸せになって欲しい」
「……わかりました、マスター。でも、お姉ちゃんなら自分で幸せくらい掴めますよ」
「ふふっ、そうだね」
お会計を済ませて外に出る。振り返るとまた壁だ。
マスターはゲームマスターでもあったって話。ちゃんちゃん。
ガラにもないことを言ってしまって、気恥ずかしくなってしまったので、逃げるようにログアウトする。
○篠宮家
「なんで姉様はメッセージに反応してくれなかったんですか」
「ごめんなさい」
リビングで妹から怒られて正座してる威厳皆無な姉とかいる?
私だよ。
でも、座布団はもらえました。慈悲かな。
「まず、姉さんがずっとボスエリアにいたせいでメッセージが届かなかったんですよ。というか、なんですかボスエリアって」
「……多分、お姉ちゃんの家だろうなぁ……」
「お姉ちゃん!?お姉ちゃんって誰のことですか!?」
「いやあの、森に住んでるマリィさんっていう優しい女性の方です」
「なんでその人のことをお姉ちゃんと呼んでいるんですか!?」
「なんというか私の理想の姉って感じで、このチャンスを逃すわけにはって思って必死に食らいついた」
「むぅ……。というか、なんでその方の家がボスエリアなんですか!?」
「多分、お姉ちゃんがボス的な人なんじゃないでしょうか……」
「そのマリィさんとやらは一体なんなんですか!」
「死神」
「「えっ」」
料理をしていた歩も驚きの声を上げている。
「死神ってのは敵対されない限りは、攻撃しないらしいよ。あとは、ほら私の有り余るコミュ力で仲良くなったってわけよ」
「多分ハル姉が【鑑定】持ってなかったからだこそできたのかもね。普通ならボスを示す大きな赤アイコンがあるはずだし、逃げるか、攻撃するかしか択がないと思いそうだし」
「そういえば攻略組もまだ平原突破してなかったですよね兄さん」
「攻略組は今平原でひたすらウルフ狩ってると思うよ。放置しとくと進化して手がつけられなくなるらしいし」
「モンスターが進化とかするんだ。すごいね」
「敵側にも経験値システムがあるってのは珍しいかもね」
「それでどうやって森まで行ったんですか姉様は」
「うんとね、ウサギが出てくると地面に穴が開くじゃん?その穴をスコップで掘るとさ、地下坑道に着いたんだよ。あとは森に向けて坑道を進むだけさ」
「滅茶苦茶な……」
「流石です姉様!」
「まあねー」フフン。
「それで姉様。なんでマリィさんの家から出た後に届いたメッセージに返事してくれなかったんですか?」
「ウサギ狩りでテンション上がってて見るの忘れてたーなんて……。ごめんなさい」
妹がすごい悲しそうな顔をしたので、即座に言い訳から土下座へシフトする。
「……今回は許してあげますけど、次からちゃんと見てくださいね?」
「イエスマム」
ここで歩が夕食を作り終えたのでお説教は終了となった。
この後は三人でお姉ちゃんの家に行くつもりだ。