18 「こっちに目線ちょうだい!」
ログイン。
さーて、どうしよう。昨日の夜、大理石の使い道をちょっと思いついてたんだけど完全に忘れた。まぁ、眠かったしなぁ。しょうがない。
街にも行けないし、ダンジョンはクリアしたしで、特にすることが無くなってしまった。我ながら、もう冒険心が失われてるね。
とりあえず、ログなりアナウンスなりを見てから考えよう。
おお、南のダンジョンがクリアされてる。
あ、ダンジョンクリアとか最短討伐云々のアナウンスは非表示にしたよ。戦闘中にお知らせが来たら危ないもんね。
え?私は戦闘してない?まあ、うん。それは置いといて。
なんか今日もダンジョンに行くって気分でもないしなー。とりあえず、みんなに今日の案を募ろう。それでも、案が出なければ久々に森を散策でもするか。
「セルバスー、みんなはー?」
「皆は森へ狩りに出ております。今、連絡したのでしばしお待ちください」
「【念話】だっけ?便利だねー」
…………スキル取り忘れてた。
次は【念話】を取得しようと思っていたのに、追われる恐怖に駆られて【隠蔽】を選んでしまっていた。一回寝ると頭から色々抜け落ちるのをどうにかしたいなぁ。
「ただいま」
「早いね」
お姉ちゃんだけ先に帰ってきたようだ。
「もふもふー」
「むぐっ」
話を切り出す前に抱きしめられた。
ああ、私にはない柔らかさが。
あと、もふもふてなんだ。そうか、服か。
もうお庭で寝てていいかなー。
色々考えるのがめんどくさくなってきた。
まったくもう。人をダメにするお姉ちゃんだ。
「ぷはぁっ。……今日はお庭でごろごろしようかー」
「たれハルカちゃんかわいい……。……はっ!ええ、そうね。じゃあお庭にいきましょ」
(各員に通達。姫様がお庭でご休憩されます。万が一にも、モンスターが現れないよう周囲の掃討を厳に)
(私は人間用に【威圧】発動しておくわね)
「せるばすー、りくらいにーん」
「かっ、かしこまりました」
ぐでー。
うーん。こういう時は地面の方がいいかなー。木陰だし気持ちいい。
降りよう。
「ああっ」
なんか残念そうな声が聞こえたけど。
地面に足をつけた途端に、お姉ちゃんに押し倒された。
あ、地面を大理石で一部舗装して道っぽくするのってどうかな。
忘れないうちに提案。
「ねえねえ、お庭にさ、大理石埋め込むのって
「いいわね。やりましょう。セルバス」
なんか、お姉ちゃんの反応がいい。
大理石をいくつか取り出して地面に置く。
「ウインドカッター。【念力】」
瞬く間に石が切り揃えられ、小屋の扉の前に半径3メートル程の円形に敷き詰められた。
おしゃれー。
ていうか、風で石が切れるんだ。すごいね。
「お疲れ様。あ、大理石渡しとくから好きに使っておくれ」
「かしこまりました」
「帰ったぞー」
「ただいまお嬢様の元へ帰りました」
「ただいまー」
みんなが帰ってきた。
リビ爺が音も無く着地。エムオが爆散。タカシがぽよんと着地。
リビ爺……忍者が様になってきたね。
戦闘中はテンション上がるのか、どうしても鎧の音が目立っちゃうけど。高笑いしてるし。
あ、私が教えたその忍者ポーズも似合ってるよ。
ぐっ。
あ、返してくれた。
もし表情がわかったとしたら満面の笑みだろう。
「おかえりー。呼びつけておいてアレだけど、私とお姉ちゃんはごろごろするから後はお好きにー。ごめんねー」
抗えぬ、この心地よさ。
ぼーっとしながらお庭を眺める。
リビ爺はまだ体を動かし足りないと言って外に出て行ってしまった。経験値が入ってくるので、その暴れっぷりがよくわかる。
他のみんなも思い思いに過ごしているようだ。
犬小屋に自分の頭蓋骨をボウリングのように投げ込んでいる骨男がいるのが気になるけど。
でも、頭蓋骨ボウリングは後で私もやらせてもらおう。
「あー、お姉ちゃんごはん何食べたいー?」
「ハルカちゃんー」
「だめだこりゃー」
タカシも私のお腹に張り付いて寝ていて、セルバスは大理石加工職人になってる。
あぁ、平和だ。
お、眠気。むしろ、この環境で今までよく眠気が来なかったものだ。
ぐっない。
「……様、姉様」
…………結構寝ちゃったかな。
あ、強制ログアウトしてるし。
今のうち色々済ませておこう。
夜ごはんも食べ、歯も磨いたので再ログインだ。
最近は、ごはんの度に今日は何をやらかしたのか歩と南穂に根掘り葉掘り訊かれるのが当たり前になってきている。
いや、やらかすって。まぁ、昨日の冒険者ギルド採掘は言い逃れできないけど。
そうそう、2人は最近森で狩りしてるらしいよ。この後、一緒に遊ぶんだ。
「ホホホホホホホホホホホホ!!!!!!」
目を開けると、空中を逃げ回る全身の骨を、頭蓋骨が追いかける無重力ボウリングが展開されていた。いや、ボウリングですらないね。
「お姉ちゃん、なにあれ」
「【念力】取得したらしくて、練習がてらやってるらしいわ」
「おや、お嬢様。空中から失礼しますぞ」
声が右から左へ流れて行った。
「いや、それはいいけどさ」
「これはですな、私の頭部の操縦が上手くなればなるほど、自分を痛めつけられる極上の遊戯にございます」
いきなり説明始まった。
「他の骨の操縦も上手くなってそうだけど」
「そうですな。一瞬でも気を抜けば頭部以外の骨が動きを止め、快感を享受するだけになるので、注意が必要なのです」
よくわからん。
「痛めつけたいのか痛めつけられたいのかどっちなんだろうね」
「それはもちろん…………………………。いやこれは…………。ワタクシは何を求めて…………。………………性癖の共存…………………SMウロボロス…………」
よく聞こえないけど、どうやらしょうもないこと考えてるな。考えごとしながらも飛び回っているのはさすがだけど。
「あ、お姉ちゃん。今日はアユとナホと一緒に狩りするけどいい?」
「ええ、じゃあ後で迎えに行ってくるわ」
「おねがいね。あと、他のみんなには紹介もしないとね」
セルバスは大理石で作った細長い板を、外周の壁に埋め込んで階段っぽくしていた。螺旋階段かな。センスが光るね。
何か食べるもの作るかー。
と思ったけど、既にタカシが1人焼肉を敢行していたので、それに便乗することにする。触手の操作上手くなりすぎじゃないかな。
「母ちゃんには俺が丹精こめて育てたこいつをあげよう」
「ありがとー」
カルビっぽい味がする。牛なんかいたかな。案外、ヤギとかかもしれない。
「玉ねぎちょうだい」
「はいよ」
「我には肉山盛りで、あと飯も」
「はいよ、米は自分でよそえ」
焼肉奉行ってよりただのコックさんと化してる気がする。
あ、メッセージ。
「ごはん中に悪いけどお姉ちゃん、森の入り口まで迎えに行ってくれる?」
「あーん一回で引き受けるわ」
「えーと、……あーん」
「むぐむぐ……。行ってくるわ!」
なんか急に条件付けられたけど。
サラダでも作るか。適当な野菜をドレッシングで和える。はい、終了。
早速群がるハイエナたち。セルバスはイバラではなく【念力】で持ち去っていった。
お姉ちゃんの分は確保しておこう。
あ、この前買ってきたニンニクを醤油と一緒に漬け込んだんだった。ゲーム内だし匂いとかいいよね。
「ふふふ、これも使いなさい」
「おお!なんだこれ!」
「食べてみ」
「うめえ!」
お、好評。他のみんなも思い思いにご飯にかけるなりしている。
「ねーえーさーまー!」
ん?空から大の字で落ちてくる人がいる。
とりあえず、避けよう。
「あっ」
タカシが食事しながら片手間に触手で受け止めた。
「もう!酷いです姉様!あ、タカシくんはありがとう」
「あんなの受け止めたら死んじゃうよ」
「いや、お嬢なら多分耐えられるぞ。レベルもそれなりにあるしな」
「えっ」
「ほら、こうして……えーと」
「我はリビルト。お嬢に使えるリビングアーマー忍者だ」
「リビルトさんもこう言ってるんだし!さあ!あ、リビルトさん、私はナホといいます。姉様の妹です」
「ほう、やはり、お嬢の妹君か。では、ナホ殿も我のことはリビ爺と気軽に呼んでくれ」
「わかりました、リビ爺」
その後、お姉ちゃんとアユが合流して、顔合わせ兼食事を済ませた。
「それでこれからどうするの?」
「個人的には闘技大会までにレベル上げしておきたいんですよね」
「ナホあれ出るんだ。でも今からじゃダンジョンは時間的にキツいかもなぁ」
「森の奥にでも進んでみたらどうかしら」
「私は多分寝落ちしちゃうけど2人はそれでもいい?」
「構わないよ。テントもあるしそこでログアウトもできるから」
「姉様の寝顔を見られるなんてむしろありがたいです」
「毎日見てるでしょうに」
ちなみに、テントってのはそこでログアウトができ、次にログインした時は拠点に戻ってるらしい。便利だね。
「じゃあまだ見ぬ新天地目指してれっつごー」
「…………暖かい…………。……アダムはドM………………痛みこそが救済…………」
「あんたも行くよ」
「……はっ。これは失礼」
「あと、その哲学はやめておいた方がいいと思う」
その後、森でみんなの無双を眺めつつぼんやりと過ごす。
あ、鑑定メガネつけて、植物鑑定しとこ。
すちゃっ、と。
「っ!姉様!?」
「え、なに」
「1枚いいですか!?」
このパターンは絶対1枚じゃ終わらないやつだ。
「まぁ、いいけど」
「兄さん!後は任せました!」
「みんな!後は任せたわよ!」
なんか増えたぞ。
「ではこの場で留まって戦闘ですな。【念力】」
エムオが全身の骨をカタカタ鳴らしながら全方位に散らばって行った。敵連れてくるつもりだな?MPKはいけないことだってアユが言ってたぞ。
倒し切ればいいのかな?うん、いいよね。
「じゃあ姉様!メガネをくいっとやってください!」
「ハルカちゃん!肘置き使って頬杖ついてみて!足も組んで!」
「姉様!ピース!えへ顔ダブルピース!」
「ハルカちゃん!こっちに目線ちょうだい!」
お姉ちゃんまでちょっとおかしくなってるけど。
地面に仰向けになってカメラ向けてくるのは、ちょっとどころじゃないかな。カメラなんてどこで買ったんだ。
まぁ、流されるままにいよう。それが1番早く済むのだ。