14 閑話
一応閑話としました。
むくり。
起きたけれど、この擬音は正しくはないだろう。なぜなら、抱き枕にされてて体が動かないからね。今は……5時半。いつも通りの時間帯だ。南穂を起こさないように数分かけて拘束から抜け出す。もう7月に入ったのだし、暑くはないのだろうか。私はちょっと暑いよ。
今日はクッキーを作るよ。コーヒークッキーです。
あ、南穂も起きてきた。なんやかんやでいつも起こしてしまうね。いや、勝手にベッドに入ったくるのは向こうなのだけれど。
私はクッキー作り、南穂はお弁当作りを終えた。あ、私の分も作ってくれてる。午前で大学終わるからいらない、なんてことは言わない。この世の終わりみたいな顔するから。
歩も起きてきたので、朝ごはんにする。私は朝はトースト半分くらいでお腹いっぱいになっちゃうんだよね。ゲーム内なら朝ごはん沢山食べられるんだけどな。あ、残り半分は南穂が食べたよ。うーん、沢山食べるのがやっぱり背が大きくなる原因か。私なんか中学入ってから今まで5センチも伸びてないのに。
歩と南穂が高校へ行くのを見送って、しばらくしてから私も大学へ向かう。
「あ、遥ちゃんおはよう!」
「おはようございます。またお掃除ですか?」
「おう!地域の清掃は我々女子プロレス部の責務だからな!」
「そ、そうですか。頑張ってください。応援してます」
「ありがとな!」
覆面レスラーの人たちが住宅地を跋扈してるのはかなり怪しいと思うんだけど、住人の人達も感謝しているらしい。まあ、いい人達だしね。
その後、掃除をしている柔道部や空手部の人達と出会いながら10分ほどかけて大学に到着する。うちの大学の部活は清掃ノルマでもあるのだろうか。そういえば、部活とサークルの違いってなんだろう。私には関係ないからどうでもいいけどね。
その後午前の講義が終わりいざ帰ろうとすると、朝に作った1袋3枚入りのコーヒークッキーの出番がくる。
「あの!篠宮さん!これ!これ私が作ったんですけど!食べてください!」
「あ、ありがとうございます。では、お返しにこれを」
「ありがとう篠宮さん!宝物にします!」
「いや、早めに食べてくださいね……」
その出番とはお菓子の交換だ。昔から、いろんな人からお菓子を貰う機会が多かったので、お返し用に作ることにしている。ただで貰うのも気が引けるしね。逆に、お返しができないって言えば、断ることもできるし。
「遥ちゃんこれどうぞー」
「遥さんこれも!」
「篠宮ちゃんほらあげるー」
「ありがとうございます、どうもどうも」
ふふ。私ってば人気者?
餌付けか。なんとなくわかるよそれぐらい。一方的な餌付けにならないように私もお返しを渡しているのだ。これで、対等な関係だね。
「やぁ篠宮さんボクからもグボアァッッッ!!」
なんか男の人がラグビー部の人達に轢かれて吹っ飛んでいった。
「遥ちゃーん!」
「げっ」
「むぎゅーーー!!」
「セクハラですよ、教授」
「これあげるー!代わりにクッキーもーらいっ!じゃあねー!!」
「えっ、あの、ちょっと」
私の帽子にきの○の山をテープで貼り付けて去っていった。本当に嵐のような人だな。美人さんなのにもったいない。
さて、帰ろう。多分正門に南穂が来ているだろうし。ちょっと遅れてしまった。急がないといけないし、小走りで行こう。
「あっ」
もつれる足。
目の前に近づく地面。
マットレスを抱えてスライディングしてくるサッカー部らしき人。
ポフッ。
なんらかの花のいい匂いがする。
「いやあ、篠宮さん申し訳ない。練習に巻き込んでしまいました。では、私はこれで」
「えっと、あ、あの、ありがとうございます!このクッキーどうぞ!」
「これはこれはありがとうございます。では」
「こちらこそありがとうございました!」
助けられてしまった。これを偶然だなんて思ったりはしないよ。月に2回くらい転ぶけど毎回助けてもらってるし。それにしても、自分でも訳わかんないくらい転ぶんだよね。
それにしても、おしりとか痛くないのかなぁ。地面普通にレンガだし。
さっき助けてくれた人はちょっと離れた所で、クッキーを天高く掲げている。あ、大丈夫そう。にしても、蹲って泣いてる他の部員を踏みつけるのはどうかと思うよ。なんで泣いてるのかわからんけど。それと、ちょっと聞こえたけど、クッキーファイト国際条約ってどういうことだ。
「あっ、姉様!」
「ごめんね、遅れちゃった。急がないとお昼終わっちゃうね」
「いえいえ、私も今日は少し遅れてしまったので。でも、ちょっと急ぎましょうか」
南穂と合流後、近場の公園へ向かう。この子わざわざお昼ごはん食べるためにお昼休みに高校抜け出してくるんだよね。私は少し心配だよ、友達ちゃんといるのかな。歩曰く、それは大丈夫らしいけど。
さあさあ、お弁当だ。うん、今日もおいしそう。
ん?南穂が固まっている。
まあ、お弁当箱が歩用のもので、ご飯やおかずにいつもみたいなハートマークがないから、予想はできるんだけど。
「ねぇどうしたの?」
「いえ、なんでもありませんよ姉様。はい、あーん」
「うん。歩ならうまくやるよ」
「そうですね」
あーんとか言われると恥ずかしくなるよね。なにも言わずに口に入れてくれるのは恥ずかしくないんだけど。
ふぅ、おいしかった。
「じゃあ姉様、私はこれで」
「うん、いってらっしゃい。あ、いらない教科書とかあったら持って帰るよ」
「じゃあこれだけお願いします。では、いってきます」
南穂の午前中の科目であろう教科書を受け取る。
さて、帰ってシャワー浴びてゲームしよう。
*****
姉様のあどけない寝顔を観察中です。
あ、姉様が起きそう。抱きついて、寝たふりしましょう。こうすると私を起こさないように、ゆっくりと起きようとするのです。優しいです。
姉様が部屋を出たので、姉様の親衛隊の方々に連絡をします。
「本日の護衛は女子プロのグループ3と柔道のグループ2と空手のグループ3の方々ですね。よろしくお願い致します」
『了解』
「構内では忍者同好会の方々、お願い致します。」
『承知』
実際にはもっと有志の方々ーーその他の運動部やご近所さんーーがいますが、私が直接お願いするのはこの人達だけです。今年の部活対抗闘技大会の上位の方々です。報酬は姉様特製のお菓子か姉様の写真なので競争率が高いんですよね。ちなみに、お菓子は私が食べる用に沢山貰ったものから血涙を流しながら捻出しています。姉様の安全には代えられませんから。
部屋を出た姉様を追って、キッチンへ向かい、お弁当を作ります。ほう、姉様はクッキーですか。姉様のクッキーは人気ですからね。姉様が作ったものならなんでもいいみたいな風潮もありますが。
今日のお弁当はチキンライスをハート型に詰め、その周りを白米で囲います。後は普通で。兄さん用には適当に詰めていきます。こうして、姉様&私用と兄さん用で2つ用意できました。
さあ、朝ごはんも食べたことですし、出発です。
登下校は兄さんと一緒です。男避けにはなりますし。それにしても、私は姉様に褒めてもらうために見た目に気を使っているのであって、男共はどうでもいいんですよね。迷惑なものです。
さあさあ、昼休みです。今すぐにでも、姉様を迎えに行きたいところですが、呼び出しされてるんですよね。はあ。非常階段だなんて面倒な。
「あの、俺、し、篠宮さんのことずっと気になってて、よければ付き合ってほしーーー」
「私はあなたに興味がありません。それでは予定があるので失礼します」
はあ。せめて昼休みでなければ話ぐらいは最後まで聞いたのですが。勇気を出してお話してくれたのですし。
最近は昼休みに呼び出しが無くなって嬉しかったのですが、兄さんにはもっとしっかり情報を拡散してもらう必要がありますね。"篠宮南穂を昼休みに呼び出すと確実にキレられる"と。まぁ、姉様と会うので機嫌はすぐなおるんですけどね。
そんなことを考えているうちに大学に到着しました。まだ、姉様はいないようですね。姉様は人気者ですし、色々な人に話しかけられているのでしょう。男共は近づきすぎないよう、互いに協定を結んでいるらしいですが。
あ、姉様来ましたね。はあ、私の選んだ服がとっても似合っています。やはり、ワンピースに麦わら帽子は安定ですね。にやにやしないために、後ろに組んだ手をつねり、必死に耐えます。
その後、いつもの自然公園に移動して、お昼にします。木の下でレジャーシートを敷くのと、ベンチとテーブルがある場所で食べるのとで2通りありますが、今日は後者ですね。
姉様にお弁当を出してもらいましょ……………………。やらかした。やはりお弁当箱のサイズが兄さんと一緒なのは失敗だってでしょうか……。兄さんからお弁当の量が多すぎるとは言われていたんですよね……。単純に私たち2人分食べている訳ですし。
「ねぇどうしたの?」
姉様を気を使わせてしまった!
「いえ、なんでもありませんよ姉様。はい、あーん」
「うん。歩ならうまくやるよ。あーん」
「そうですね」
やっぱりバレてましたか。流石姉様です。
兄さんが学校でトラブルに襲われないことを祈っておいてあげましょう。私の予想では女子からの質問責めにあっていますけど。
まあ、他に私ができることは今この時を楽しむことだけです。
いつも昼休みギリギリまで公園にいるので、食後に全力疾走するんですよね。まぁ、これぐらい姉様とお昼が食べられることと比べればなんともないんですがね。
食後、姉様に挨拶をして、学校へ向かいます。
さて、午後も頑張りましょう。