11 「配下に加えていただいたい」
○東の森 死神邸
「あ、パジャマ買い忘れた」
「あら、そういえばそうね」
「母ちゃんメシー」
タカシには果物を投げ入れておく。
いくら汚れが付かないといっても外用の服でベッドへ入るのは如何なものかと思って、パジャマを買おうねって話をしていたのだ。おそろいのやつ。よくナホが来てるねぐりじぇってやつでもいいかも。セクシー。
「まあ次に街に行った時でいいかな」
「そうね」
「母ちゃんメシー」
タカシには果物を投げ入れておく。
「今日は森の奥にでも行こうかなーって思ってるんだけど、どう?」
「ピクニックね?行きましょう」
「母ちゃんメシー」
タカシ専用のフライパンに作ったスクランブルエッグを、フライパンごとその体に乗せる。すると、フライパンが体の中に取り込まれ、中身を消化されて空になったフライパンが出てくる。 段々、食事がテキトーになってきたけど、本人も文句言ってないしいいよね。
お姉ちゃんがやけにピクニックに乗り気だ。気に入ってくれたのだろうか。だといいな。
「じゃあ、お昼寝用にタオルケットでも持って…………、待つのよマリィ。タオルケットを準備するとハルカちゃんで暖をとるという大義名分が失われる……?いやでも万一風邪でもひいたらどうしましょう……。て、そうならないために私が抱きしめて暖めるのよね。うん、そうだわ。二人で暖をとりあう。みんなはっぴー……」
「お姉ちゃん?」
「あぁ、いえ、なんでもないわ。お弁当楽しみにしてるわね」
考え事をしてるお姉ちゃんも様になってるよねぇ。
そんなこんなで朝食です。
食後のお茶も飲んだことですし、
さて、行きますか。
「あ、イノシシがいたら倒しておきたいんだけど」
「料理に使うのね?」
「うん、昨日の焼肉でだいぶ減っちゃったし」
「じゃあ頑張りましょう」
両手を胸の前で握るお姉ちゃん。かわいい。
「タカシ、触手で一撃で倒せるような考えない?」
「んー、頭に突き刺したあと、取り付いて溶かしとけばそのうち倒せんだけど、母ちゃんから離れるから却下で」
「じゃあタカシとお姉ちゃんでがんばって倒してもらっていい?」
「ええ、それでいきましょう」
「りょうかーい」
正直なところ戦闘に参加するのは疲れるのだ。荒れ狂うモンスターが目の前にいるってかなりキツいんだよね。なんでこのゲームやってんだって気もするけど。
そういえば私、まだ初期装備の杖だったんだよね……。杖っていうか、ただの棒だけど。耐久力無限が手放しがたいなぁ。まぁ、良いのが売ってたら買えばいいか。
30分ほど歩くと、前方に地下鉄の入口のような露骨なほら穴が見えてきた。
「えーと……お姉ちゃん?」
「あらあらなにかしらね、偶然ねぇ、あらあら」
森を知り尽くしたお姉ちゃんに偶然などあるだろうか。いやない。
「じとー」
「ええっと、あのね?このダンジョンは結構難易度高いから、レベル上げも捗ると思ったのよ。新しい仲間もできるかもしれないし。決してハルカちゃんを騙そうとか考えてた訳じゃないのよ?信じて?」
「そんな心配はしてないけどさ……。うーん……正直怖いんだよぅ……」
「っ!大丈夫よ私がついてるわ!」
「母ちゃん!俺もいるぜ!」
いつの間にか起きたタカシからも援護射撃が飛んできた。
でも、お姉ちゃんがここまで言うなら行ってみようかな。仲間は多い方がいいしね。この洞窟に犬とかいたら、念願の動物仲間をもふもふする夢が叶うんだけど。多分無理だよね。
「じゃあ入ってみようか。お弁当はどうする?ここで食べてからにする?」
「中に休憩所があるからそこでも平気よ。そこで食べましょう」
「じゃあそうしようか。あ、松明とか持ってきてないんだけど」
「ダンジョン内には照明代わりの石があるから大丈夫よ」
「へー。持ち帰れるかな。こう、【採掘】スキルでゴリゴリと」
「うーん。どうなるかわからないけれど、やってみる価値はあるわね」
「じゃ、そういうことで。いざしゅっぱーつ」
ほら穴から階段を降りて内部に侵入。
お、壁に光る石嵌ってるね。さっそくつるはし先生に頑張ってもらおう。
カーンカーン
カーンカーン
カーンカーン
ポロッ
「お姉ちゃん!取れたよ!」
「あら、やったわね!」
「いっぱい取ってお庭に置いておけば、オシャレになるかもね!」
ざくざく乱獲しながら先に進んでいく。帰り道暗くなってそうだなぁ。この辺で乱獲はやめておこう。
おっ、ガイコツが歩いてる。
「ねぇ、お姉ちゃんアレは?」
「あれはスケルトンね。骨がバラけてもまた合体するから、ちゃんと骨を砕かないといけないのよ」
「あ、溶かすのはいけるのか?」
「うーん、いけるんじゃないかしら」
「じゃあ、私が杖で殴って、タカシが骨を溶かす感じで」
えいやっ、と殴る。頭が砕ける。相手は死ぬ。弱っ。
タカシが出るまでもなかったね。
「これで倒せたの?お姉ちゃん」
「ええ。これは一体だけだったから楽なのよ。スケルトンは数体での連携が厄介な種族だから」
「へー。じゃあ本番はこれからってことなんだ」
その後も、ちまちまスケルトンやスライムと出会いつつ進む。
すると、高校の教室程の大きさの部屋に突き当たった。
「お姉ちゃん、ここが例の?」
「ええ。お弁当にしましょうか」
「……その前に、アレなんだけど」
そう言って、部屋の隅にある騎士のような全身鎧と宝箱を指差す。鎧は第四次の某バーサーカーみたいな細身のやつだ。宝箱は木製の細工が付いたやつ。
聞いておいてなんだけど、もう正体わかってるよねぇ。
「あれはリビングアーマーとミミックね。ミミックは近づいたらパクッといかれるから気をつけてね」
ですよねー。
あのリビングアーマーさっきまであぐらかいて座ってたもん。
私達のこと見つけていきなりポーズとったけど遅いよね。
「メシにしようぜー」
「とりあえず動かないようだしお弁当にする?」
「ええ……そうね」
今日はお手軽にサンドイッチと果物です。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
……気になるなぁ。
部屋の隅に居たはずのリビングアーマーとミミックが少しずつ近づいてきている。
「えっと、食べる?」
「おっ!いいのか?」
「ほぅ!よろしいのですか?」
釣れたー!リビングアーマー、ミミックの順に返事がきた。
「あんたらも喋れるんかい……ほい、サンドイッチ」
「ありがとよ!っと、あぁ、ある程度の知能があれば喋れるぞ。獣とかは怪しいがな」
「ありがとうございます、お嬢さん。数年ぶりのちゃんとした食事です。あと、普段は人間とは話したりしませんよ。敵同士ですし、情が湧いても困りますし」
リビングアーマーは頭の鎧の口の部分を開けて内部の虚空に放り込んでいる。
そして、私はミミックの内部の暗闇にサンドイッチを放り込む。
サンドイッチがどこに行ったとか気にしちゃいけないよね。
「あー、なるほど。話し合った直後に殺し合いってのもねぇ。じゃあ私達のことは見逃してくれる?」
「むしろ見逃してくれるかは我らのセリフだがな」
「えぇ、お嬢さんのお隣のご令嬢のプレッシャーだけで私どもなどやられそうですし、彼女にとって私ども取るにも足らない存在なので、あなたとお話する時間もいただけているのですよ」
お姉ちゃんの顔を見るといつも通りにっこり笑顔だ。【威圧】発動してたかぁ……。
「そういえば、あなた達って普段は何を食べてるの?」
「私たちは魔力生命体ですので、魔力が満ちている空間ならば生き延びられます。しかし、普通の食べ物の方が美味しいには違いありませんけれどね」
「外に出るかって話もあったんだがな、我はともかくとして、ミミックが外で見つかるってのはどうしようもないからな。我が抱えることも考えたが余りにも不自然であるし」
「えぇ、リビングアーマーには迷惑をかけています」
「ミミックさんってどうやって動いてるの?ぴょんぴょん跳ねる感じ?」
「それもできますが、もっぱら【念力】スキルで動いています。結構速く飛べるので便利なのですよ」
「じゃあ待ち伏せしなくても、空中を移動して噛みつきにいけばよくない?」
「えぇ、結構その手は使っていますよ。【念力】を使えるミミックなんて私以外聞いたことがありませんし。不意打ちでは有効でした」
私のレアモノへの執着心をくすぐることを言いおった。
「へ、へぇ。それであなた達はこれからどうするの?」
あわよくば、テイムを受け入れて欲しい。
もう心は傾いていた。騎士さんいれば私もさらに守ってもらえそうだし。ミミックさんには私を乗せるなり、しまうなりして【念力】で運んでほしい。いや、私自身に【念力】かけてくれないかな。
「今まで通りこのダンジョンで過ごします、と言いたいところですが、お嬢さんはお見受けしたところテイマーでは?でしたら、私どもを配下に加えていただきたいのです!リビングアーマーには私のせいで迷惑をかけてきましたし、このダンジョン以外の広い世界を見てみたいのです!」
「我からも頼む!嬢ちゃん!」
やった!
「うん!これからよろしく!お姉ちゃんもいいよね?」
「えぇ、こちらからお願いしたいわね。ハルカちゃんの守りも強化しておきたかったから」
「ありがとよ!嬢ちゃん!いや、お嬢!」
「ありがとうございますお嬢さん、いや、姫様!」
《リビングアーマー 個体名:無し をテイムしました》
《ミミック 個体名:無し をテイムしました》
「えーと、……まぁいいか。よろしくね。私がハルカでこっちのお姉ちゃんが死神のマリィお姉ちゃんで、これが愚息のタカシ」
「よろしくね、二人とも」
「よろしく頼むぜ!母ちゃんを一緒に守ろうな!」
「……複雑なご家庭なのですな……」
「我は気にせんがな」
「二人とも名前はあるの?」
「いや、ないが?必要もなかったしな」
「私も同様です」
「じゃあ名前つけてもいい?」
「構わんぞ」
「是非ともお願いしたいです」
「うーん、うーん。どうしようかなぁ」
むむむ。
名前つけるとは言ったが、私はネーミングセンス皆無なのを忘れてた。
むーん。ごろごろ。ごろごろ。地面を転がりながら考える。服も汚れないしセーフってことで。
「どう?うちのハルカちゃん可愛いでしょ?でしょ?」
「あぁ、娘がいたらこんな感じなのだろうか……。おじちゃんって呼んでほしい……。ってことは姪っ子か?姪っ子なのか?」
「私の忠義を捧げる相手を見つけました……」
なんかお姉ちゃん達がボソボソ言ってる。
名前考えてくれてるのかな。
「よし、決めた!リビルトさんに、セルバスさんで!」
「おぉ……リビルト……お嬢!ぜひ、リビルトおじちゃんと呼んでくれ!爺でも構わん!」
「セルバス……。私の名はセルバス……。セルバス、この命、姫様に捧げます!」
やばい、いきなり忠義がすごい。どうしたんだ。リビルトさんもなんかキャラ変わってるけど。
「じゃあリビルト爺にセルバスさん?」
「おぉ……おお!」
「さん付けなど不要です!ただ、セルバスと!」
「リビルト爺とセルバス、改めてよろしくね」
「おう!」
「よろしくお願い致します」
仲間も増え、二人ともお姉ちゃんから加護(小)をもらったことだし、帰宅、と言いたいところだけど、二人の戦闘能力を見るためにもうちょっと探索します。ちなみに、私はセルバスの上に座ってます。余り座り心地は良くないけど。
「そういえば、お嬢にマリィさん、この色々なスキルはどうすりゃいいんだ?」
「あー【隠密】とかのことか。暗殺者とか忍者用だよね」
「忍者!?お嬢!忍者とはなんだ?」
「あぁ、知らないよね。忍者ってのは昔存在した闇に忍び、敵の情報と命を奪い去るスーパーかっこいい集団だよ」
夜ごはんどうしようかなぁ。お弁当変な時間に食べちゃったからなぁ。
「我、忍者として頑張るぞ!お嬢の敵を華麗に排除しよう!」
「え?うん」
なんかリビルト爺が盛り上がってる。水差すのも悪いしそのままにしとこう。
うーん、軽めのにしようかなぁ。
「マリィさん!全身鎧のリベルトに隠密行動は絶対無理だと思うのですが!」
「いいのよ、セルバス君。彼が騒音を撒き散らして、敵の注目を引く。すると、ハルカちゃんは……?」
「そうか……。姫様の安全性が高まると。流石です、マリィさん」
「えぇ、だから彼には自分が忍者になってると信じてもらって満足させなければならないわ。あとは隠密性に長けた種族に進化しないように注意するだけね。あと、ハルカちゃんが寝ているときは、起こさないように気を使わなければならないわね」
「わかりました。その方針でいきましょう」
リビルト爺とセルバスの好きな食べ物がわかんないしなぁ。
適当に何種類か作るかぁ。タカシ用に焼肉も。
戦闘はリビルト爺無双で進んでます。スケルトンの集団が例外なく頭蓋を切り砕かれる様は壮観だ。
私は馬に乗るようにセルバスに座っている。
「ねえ、セルバス」
「なんですかな姫様」
「クッション敷いてもいい?座りづらくて」
「申し訳ありません!どうぞどうぞ!」
一々畏まられて落ち着かない。でもやめてもらえそうにないしなぁ。まあそのうち慣れるよね。
そんな感じで進んでいると後ろから声を掛けられた。
「そこのお嬢様。骨でも舐めますか?」
振り返ると、小さな子に飴でもあげるかのように、自分でへし折った指を差し出してくるスケルトンがいた。