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かんざし ~もう一度会えるなら~

作者: C-na

本作は、かんざし〜ボクの記憶〜 の

続編となっております。

よかったら、前の作品から読んでいただけると

嬉しい限りです。

(http://ncode.syosetu.com/n0343cw/)


登場人物


鷹野たかの ユウ (25 → 15) ♂

10年前に好きだった幼馴染、「夏野 花火」を亡くした。

また、霊になった花火に自ら死ぬ運命を変えられた過去も同時に持っており

花火の事を覚えている人間は彼しかいない。

死を受け入れて、吹っ切れたものの、誰かを好きになる事などは無いよう。

身の周りの人間にはどこかつくろった態度で、寂しさを隠せずにいる。

今は会社に就職し、立派に社会人になっているが、10年間毎日

花火と最後に別れた岩へお参りに行き続けており、彼女の残したかんざしを今も大事に持っている。


夏野なつの 花火はなび (24 → 14) ♀

10年前に交通事故で亡くなった女の子。

10年前、霊になりユウの死を止めてしまったことで

現世に住むユウを除く人間は彼女の事を覚えていない。

元気いっぱいの性格で一人称は「ボク」。

11年前の世界でユウと再会するが、当然のことながら

自分が死んでしまうとは思っていない。


望月もちづき 聡介そうすけ (25 → 15) ♂

ユウと3年の中学校生活を過ごした男。

なんとか会社に就職し、怒ったり怒られながらではあるが

しっかりと社会人となっている。

頭が良い方ではないが人思いで優しく、

10年前からあまり元気とは言えないユウを心配してくれている。


白井しらい 陽平ようへい (25 → 15) ♂

同じくユウと3年の中学校生活を過ごした。

元から頭が良かったこともあり、会社の上位にすでに立っている。

すでに奥さんもいるようで、時間通りに帰れる良い生活を送っている。

優しい性格で、困っている人を困っておけないような性格。

どこか気が弱いような一面もあるが、10年経って少し成長しており

思った事を言えるようになっている。


滝沢たきさわ 静音しずね (25 → 15)

ユウと3年の中学校生活を過ごした女の子。

今は巫女として仕事をしているが、もうすぐ定年で

どうしようかと迷っているよう。

霊的なものに10年前から興味があったのもあり、

気づけば巫女になっていたらしい。

花火とはまた違う元気さがあり、聡介、陽平と同じく

ユウの事を心配している。


鷹野たかの 葉月はづき (29) ♀

ユウの母の。義理の母親ではあるが

ユウの事を大切に思っており、優しい性格。

7月14日、発熱したユウを看病しており

時間が巻き戻る現象に少しずつ気づきはじめる。


神 (?) ♂

死を管理する者。

花火の死を扱ったこともあり、10年間ずっとお参りに行き続ける

ユウの様子をずっと見ていた。そのユウの心と性格に打たれて

本当はやってはいけない事だが、ユウに花火の死を止める機会を与える。

淡々とした感じだが、どこか頑張れといった様な感じも伺える。


『』は心の声です


ユウ ♂:

花火 ♀:

聡介 ♂:

陽平 ♂:

静音 ♀:

神/葉月♀:

----------------

現代


ユウ 「お疲れ様でした、お先失礼します」


聡介 「よっ、ユウ」


ユウ 「……聡介。 わざわざ待っててくれたのか? 悪いな」


聡介 「気にすんな、俺から飯行こうって誘ったんだからよ」


ユウ 「俺ももう少し早く帰れると思ったんだけど、上司が体調崩して今日休みだったからさ」


聡介 「お互い苦労するな、ハハッ。俺も毎日怒られて怒って、な毎日だぜ?」


ユウ 「怒るって事はお前も多少は上に立つ人間って事じゃないのか?」


聡介 「んなことねぇよ、まぁ…それは食いに行ってから話そうぜ? さぁ、行こうや」


陽平 「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!」


ユウ 「あれ、白井…?」


陽平 「はぁっ…はぁっ…トイレに行くって言ったじゃないか望月君…! 置いてかないでよもう」


聡介 「悪い悪い、そうそう。白井も呼んだんだ。こいつは俺達と違ってエリートだからなぁ…?」


ユウ 「結婚して、いつも定時で帰れるんだもんな……帰ってやんなくて大丈夫なのか? 奥さん、9ヵ月なんだろ?」


陽平 「大丈夫、最近は姉さんが家に来てくれてるから! ほら、行こう行こう!」




聡介 「せっかくだから、お祈りしてかねぇか?」


ユウ 「……そうするか…?」


陽平 「いいね、していこうしていこう」



ユウ 『……花火に会えたら……なんてな……』



静音 「あっ! みんな!」


聡介 「おぉ! 滝沢!」


陽平 「滝沢さん、巫女さんだったんだ! 本当久しぶり!」


静音 「鷹野君に望月君に白井君の3人でまさかお参りに来るなんてびっくりしたよ…!」


ユウ 「よっ、滝沢」


聡介 「滝沢、今から俺達で飯行こうってなってたんだけど、どうする?」


静音 「本当! もちろん行くよ! 今終わったところだから着替えてくるね!」




(食事)

陽平 「個人で会う事はあったけど、4人で集まるのなんて10年ぶりぐらいじゃない…?」


聡介 「そうだよなぁ……花火大会とかもこの4人で行ったっけな?」


ユウ 「花火………か」


静音 「そうだね…みんなそれぞれ就職して……もう行ってないもんね……夏祭り」


陽平 「でも、鷹野君の帰り道に河川敷に寄ってる姿はよく見るよね」


ユウ 「あぁ…まぁな…」


聡介 「何か探し物でもしてるのか?」


ユウ 「まぁ……ちょっとな、好きな岩があるんだ。それを見に行ってるだけだよ」


静音 「そうなんだ、私も見に行ってみようかな……」


ユウ 『そう…もうみんな花火を覚えていない。だから…墓も無い……あいつを覚えているのは…俺だけ…なんだよな……』


聡介 「中学の時みたいに馬鹿やれたらって思うよな、社会に出るとさ」


陽平 「本当、そうだよね……僕も高校でいろいろあったりしたから…社会とじゃ違うんだなって」


静音 「私なんてもう定年間近だよ……」


聡介 「は!? まだ25だろ…?」


陽平 「巫女さんって25歳ぐらいが定年って聞くもんね」


静音 「そうなの……はぁ……仕事探さないとだよぉぉぉぉぉ………」


聡介 「白井…良く知ってんな…お前の脳みそが少しあれば俺の人生もっと変わってたかもしんね」


陽平 「ははっ、そんなことないって! 望月君は望月君じゃない。滝沢さん、僕の独断じゃさすがに決められないけど……よかったらうちで…働く?」


静音 「ほ…ほんとっ!? ぜひ! 白井君の所でお願いします!!」


ユウ 『俺だけが変わらず、周りの時間だけが過ぎていく。そんな感じがした』


聡介 「おい、ユウ?」


ユウ 「えっ? あぁ…どうした?」


聡介 「何ボーっとしてんだ? 10年前からお前、なんか変だぞ」


ユウ 「変ってなんだよ…?」


陽平 「ずっと元気なさそうだよ……なんて言えばいいかわからないけど…」


静音 「うん…ここ10年をあまり見てないけど…私もそう思う………」


陽平 「何か…あったの?」


ユウ 「本当、なんでもねぇって! 会社で干されまくってるだけっての!」


聡介 「…無理すんなよ」


ユウ 「あぁ、大丈夫だよ」


陽平 「…な…なんか暗い感じになっちゃったよ! ほら、どんどん食べよう!」


静音 「そうだね! 食べよう!」


聡介 「金は白井が出すからよ!」


陽平 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ………任せてよ………うん…」




聡介 「…いやぁ…食った食った……悪いな白井!」


陽平 「ま…まぁ大丈夫! せっかくみんなで集まれたんだし安いもんだよ!」


静音 「ご…ごめんね白井君」


ユウ 「ごちそうさま、ありがとな…白井」


陽平 「本当、大丈夫! また、集まろう!」


聡介 「……時間も遅ぇし…帰るか……! あしたも皆仕事だろ?」


陽平 「僕は土日休みだから……頑張ってね」


静音 「ほんと白井君って…最高の社会人の模範解答だよね…」


聡介 「裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



(河川敷)

ユウ 「暗いな……っとと……夏祭り……か……ほんと来てないな………」


(岩へ移動)


ユウ 「悪い、遅くなった。花火……お前の命日……だよな………7月14日…………今日…久しぶりにあいつらと集まったんだ……。お前も……いたらなって…思うよ。……みんな覚えてないけど…お前が残していったかんざし、こいつがある限り…俺だけはお前を忘れないから…………じゃな、明日も仕事あるから…さ、また明日」


神 「………待て」


ユウ 「…!? ……誰だあんた……? どうして宙に浮いてるんだ…!?」


神 「………夏野花火か」


ユウ 「………花火を……知ってるのか…!? どういうことだ……」


神 「……これ言って信じるかどうかはお前次第だ、私は10年前夏野花火の死を扱った者だ」


ユウ 「……は…は? あんた何言ってるんだよ……」


神 「だから、信じるのはお前次第だ。私はお前にとある機会を与えるために来た………」


ユウ 「……機会……?」


神 「……夏野花火に会いたいと思うか?」


ユウ 「!? 当たり前だろ…! 俺には……あいつしかいない……この10年間ずっとそう思って生きてきた……」


神 「もう一度あえるなら、どうする?」


ユウ 「会えるなら……なんでもするさ………会えるならだけど…な……んなことあるわけ無いだろ……あんたが神様だかなんだか知らねぇけど………さ」


神 「そうだな……普通ならありえない事だ……だが…………。ありえなければ今私はここに居ない」


ユウ 「…………なんだよ……どういう事だ…!?」


神 「そのままの意味だ、会いたいのなら……私が力を貸してやる」


ユウ 「本当に神様なのかよ………そこまで言うなんて……だけど……やっちゃいけないことなんじゃねぇのか……俺にだってそれぐらいわかる…」


神 「あぁ…。その通りだ、完全に消えた人間と生きている人間が会うなどあってはならない事だ…。だが…………この10年お前は欠かすことなく毎日ここに祈りにやってきた。雨であろうと、帰りが遅かろうと、体調が悪かろうと……。ここまでしているお前が報われない世界は……私でもひどく思えたのだ」


ユウ 「………そんなことまで知ってたのかよ……」


神 「毎日見ていたかな。…………もう一度問おう……夏野花火に会いたいか…?」


ユウ 「…………会いたいさ………だけどどうやって…!?」


神 「……私は機会を与えるだけだ、どうするかはお前自身が考えろ」


ユウ 「おいっ! ちょっと待て…! おい…………お……い……」(倒れる)


神 「………失敗が許されるのは3度までだ。4度目は無い」



(10年前へ)


聡介 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やべぇやべぇ! 全然わかんねぇぇぇぇぇぇぇ!」


陽平 「だからそこは比較級だって!」


静音 「もうすぐ期末なのに………大丈夫なのかな…鷹野君は順調?」


ユウ 「え? お前ら何してるんだ? そんな格好して……てかここは学校…?」


聡介 「何してるってテスト勉強だろ!? 学校じゃねぇと勉強できないって言い出したのお前だろ? ユウ」


ユウ 「は……? ここ…は……? ま…待てよ…今日って何年だ?」


陽平 「今年って……2004年でしょ? 何言ってるの?」


ユウ 「待て…2014年じゃねぇのか!?」


聡介 「そうかそうか…呆けるぐらいに余裕かユウ!!!」


静音 「鷹野君はそれなりに勉強してるから疲れてるんだよ! ほら、望月君がんばって!」


ユウ 『ここは……10年前……って事なのか…!? 確かに俺はさっきまで河川敷にいたはずだ…』


陽平 「…夏野さんは凄いよ……1位ずっとキープだからね…」


ユウ 「!? 花火……花火を知ってるのかよ…白井!」


聡介 「てめぇだからどこまで呆けてんだっての! 知ってるも何もお前の幼馴染だろーがよ!」


静音 「だから望月君は英語をする! ほら!」


ユウ 「わ…悪い聡介……今日は……何月何日だ…?」


陽平 「7月の7日だよ? あ、黒板6日のままだね…まぁたしかに土日に教室かりてるんだから仕方ないか……直しておかないと」


ユウ 『2004年……の7月7日…花火が死ぬ…1週間前…って…事か?』


静音 「ほら、もう少しだよ! 望月君! 1ページ目が」


聡介 「ぬぉぉぁぁぁぁぁぁ俺の将来が心配だァァァァァァァァァァァ!」


ユウ 「………ちゃ…ちゃんと就職してるだろ…」


聡介 「本当かよ…! なら大丈夫だな…」


陽平 「次の問題!」


ユウ 「………滝沢、花火はどこにいるんだ?」


静音 「花火ちゃんは多分職員室じゃないかな…?」


ユウ 「あ…そ…そうか……ちょっと、行ってくる」




花火 「あっ、ユウ君! どうかしたの?」


ユウ 「………は…花火……花火…なのか…?」


花火 「……ど…どうしたの…? ボク…なんか変…!?」


ユウ 「い…いや……そんな事…ねぇ…ん…だけど……」


花火 「だ…大丈夫…!? 熱でもあるの…?」


ユウ 「なんでもない………いや……なんでもないんだ……」



陽平 「とりあえず…今日は帰ろうか! もうすぐ6時だし…」


静音 「そうだね、帰ろう!」


聡介 「アァァァァぁ……辛ぇ…」


花火 「元気出そう! 元気! ね、望月君っ!」


ユウ 『そうか……俺が……花火の死を止めるしかないんだ…10年前の俺は…あの日何をしていた…?』




神 「……………私にできるのはここまでだ、変えたくば、変えられないものでも変えろ」



(7月14日)

ユウ 「………こういう…こと…か………っ……」(発熱した)


葉月 「…39度よ……安静にしていなさい、ユウ」


ユウ 「……母さん………俺……」


葉月 「何…? 何か買ってきてほしいの…? 大丈夫よ、ずっといるから」


ユウ 「……俺……行かないと……だから…………ごめん……!」


葉月 「ユウ! どこへ行くの!」


ユウ 「行かなきゃいけないんだよ…!」


葉月 「ひどくなったらどうするの! ユウ!」


ユウ 「………ごめん…母さん!」



聡介 「おいおい! 何してんだよユウ! お前熱出してんじゃねぇのか! じきお前の誕生日だろ! それまでに治さなきゃどうすんだオイ!」


ユウ 「はぁっ……はぁっ……花火…は……どこだ…!」


聡介 「花火……? 夏野か………1時間前にここ通ってったことぐらいしか覚えてねぇけど……って…んな事言ってる場合じゃねぇだろ! っておい!」


ユウ 「クソッ! …………どこにいるんだ…花火…!」




(電話)

ユウ 「誰だ………もしもし!」


静音 「………た……鷹野……君………は……花火ちゃん………が………」


ユウ 「待て……待て…待て待て待て! 言うなぁぁぁぁぁぁぁ!」


静音 「花火ちゃんが……交通事故…で………亡くなった……って……」


ユウ 「…………ぇ………ぇ……?」


静音 「隣町の……ショッピングモールの……交差点…で……トラックに……」


ユウ 「………ぁ……ぇ……」


静音 「鷹野君! 鷹野君!」



(また10年前の7月7日へ)


聡介 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やべぇやべぇ! 全然わかんねぇぇぇぇぇぇぇ!」


陽平 「だからそこは比較級だって!」


ユウ 「……え?」


静音 「どうしたの……? 鷹野君」


ユウ 「今日は……2004年の……7月…7日…? だよな…?」


陽平 「そうだけど……どうかした…?」


ユウ 『また……まただ………また戻ってきた……どういう…事だ………!? …………! 失敗は…3度まで……だったか…!』


静音 「さぁ、頑張っちゃおう!」




(13日)

ユウ 「花火」


花火 「んっ? どうしたのユウ君」


ユウ 「……明日って、どこか行くのか…?」


花火 「うん! ちょっと買い物に」


ユウ 「良かったらなんだけど、明日…付き合ってほしいんだよな…」


花火 「うぅぅ……で…でも…どうしても行かなきゃなんだ……」


ユウ 「…………そうか………でも……」


花火 「本当にごめん! 本当に明日がだめなんだ……」


ユウ 「……あぁ、大丈夫だ」



(14日)

葉月 「…39度よ……安静にしていなさい、ユウ」


ユウ 「……母さん……ごめん……俺ちょっと行かなきゃ……ダメなんだ…!」


葉月 「寝ていなさい…! 買い物なら母さんが行くから…!」


ユウ 「……ありがとう…でも………ごめん!」


葉月 「待ちなさい! ユウ! 酷くなったらどうするの!」




陽平 「た、鷹野君!? こんなところで何してるの…!?」


ユウ 「はぁっ……くそっ………悪い…話してる暇無いんだ…!」


陽平 「高熱なんでしょ! 寝てないとダメだよ…! あっ…ちょっと!」


ユウ 「……くそっ! 急げ…!」




花火 「ユウ君……これだったら喜んでくれるかな…………もうすぐ…誕生日だもんね………………えっ」

(轢かれる)



(走ってる)

ユウ 「間に合ってくれ…………頼む……!! もう少しだ……!」


(電話の音)


ユウ 「……電………話誰……から…だよ………頼む………なぁ……頼む…から……ぐすっ……メールか………何か……だろ……?」


静音 「……鷹野……君………」


ユウ 「…………うっ……ぐすっ………なん…だよ……」


静音 「は……花火……ちゃんが……交通事故で……」


ユウ 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」




(また10年前の7月7日へ)

聡介 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やべぇやべぇ! 全然わかんねぇぇぇぇぇぇぇ! …………いや……少しわかるかもしんねぇぞ……! まさか………最上級か!」


陽平 「……比較級ね…何度言わせるの! って……一度目か…」


ユウ 「まただ………また……止められなかった………! くそっ…くそっ!」


静音 「………大丈夫!? 鷹野君!」


ユウ 「ぐすっ……なんだよ……くそぉぉっ!」


花火 「ユウ君!? どうしたの!?」


ユウ 「花火…………ぐすっ……ぅ……いや……なんでも……ない……ははっ…悪いなお前ら…!」


花火 「何か辛い事あったら…ボクでよければ…話聞くから………ね…?」


聡介 「………白井……俺…思ったんだけど…」


陽平 「どうしたの…?」


聡介 「俺…この問題解いた事あるかもしれねぇ……」


静音 「だって復習テキストだし……」


ユウ 『今で3度目だ………もし今回ダメだったら……次は……いや……考えるな……止めるんだ……絶対』




陽平 「鷹野君その靴、気に入ってるんだね この前買ったばかりって言ってたけど…もう1カ月も履いてる様な感じするよ」


ユウ 「そりゃあ……もう3週間は履いたから……って…」


陽平 「え? 買ったのは1週間目じゃなかったっけ……?」


ユウ 『……そうか……俺がこの1週間をやり直してることを……こいつらは知らないんだよな……』


陽平 「でも、そんなに気に入ってるって良い事だよね…僕もサッカーしてるからすごくわかる気がする…」


静音 「でも、痛んじゃわないようにね! 程よくだよ」


ユウ 「おう…! 気を付けるよ」



(14日)

葉月 「…39度よ……安静に………どこかへ行こうなんて考えてないでしょうね…?」


ユウ 「………え…?」


葉月 「なんか…あなたが……どこかへ出かける気がしたの……」


ユウ 「……母さん……ごめん……俺…………うん……出かける…から…」


葉月 「何処へ行く気なのか言いなさい!」


ユウ 「…………止めないと……いけないんだ……俺……」


葉月 「待ちなさい! ユウ!」


ユウ 「ごめん…っ……母さん………!」




静音 「鷹野君!? どうしてここにいるの…!? 熱なんでしょ! 寝てないとダメだよ!」


ユウ 「……はぁっ……はぁっ………ありがと…う…! で…も……! 行かないと……ダメなんだ!」


静音 「……いつも何処へ行くんだろう……? ………え? いつも………?」



ユウ 『頼む…頼むから……(電話が)鳴るな……鳴るな……!』



花火 「よし……このハンカチならきっと……喜んでくれる…!」


ユウ 「見えた……! 花火! 花火ィィィッ!」


花火 「えっ!? ユウ君どうしてここ‐」(轢かれる)



ユウ 「………ぇ……? おい………おい……! 花火……おい……花火……? 花火! 花火………ぐすっ…………誕生日………俺……の………ぇ……? おい………ぐすっ…うっ……また……かよ………あああああああああああああああああああああ!!!!!」



神 「これで最後だ……鷹野ユウ」



(7月7日へ)

聡介 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!? やべぇ………うん……? あれ…? これ……比較級じゃねぇか……?」


陽平 「比較級だよ……ってええ!? わかるの望月君!」


聡介 「フッ…人類待望の俺の進化だ……」


ユウ 「…………最後だ………」


聡介 「そうだぜ鷹野! このページはこれで最後だ!」


静音 「復習テキストだから解けて当たり前だからね! って………早い! 3ページ目に入ってるの!?」


聡介 「なんか…解いたことある問題ばっかなんだよ…!」


陽平 「こ……こんな望月君見たことない……」


花火 「みんな頑張ってるね! ボクも頑張らないと…!」


静音 「ほら、鷹野君も頑張らないとだよ! ってこっちも早い! もう終わってる……」


ユウ 「………え? あぁ…まぁな……解いたことあるし……な…」


花火 「さすがユウ君だよ…! 今の学年順位は…?」


ユウ 「何だったかな……26位だったか…?」


聡介 「そうかそうか……そんなに俺の順位が知りたいか…俺はだな」


陽平 「下から19ぐらいじゃない…?」


聡介 「それは2年生でだろ! 今の俺は下から24だ!」


花火 「あんまり変わってないけど……でも成長だよ!」




ユウ 「痛っ……」


花火 「大丈夫…? ユウ君…足すごく辛そうだけど……」


静音 「靴も…傷んでる感じするね……」


花火 「……靴…か……ユウ君の足のサイズってどれくらいなの…?」


ユウ 「えっ…? 26だけど……それがどうかしたか…?」


花火 「……ぁ……ううん! 何でもないよ! 大きいなぁって…」


ユウ 「そうか…? まぁ……花火と俺は性別も違うしな……」


静音 「……その感じ…すごく走りこんでるみたいだけど……」


ユウ 「まぁ……走ってるからな…」




(14日)

葉月 「…39度よ…………ユウ」


ユウ 「………何……? 母さん……」


葉月 「…………止めても………無駄…なんでしょう…?」


ユウ 「!? …………どうして……母さん」


葉月 「………さぁ………急ぎなさい……」


ユウ 「………ありがとう…母さん……!」



陽平 「鷹野君!? どうしてここにいるの…? 熱なんだから寝てないと!」


ユウ 「悪い…そんなこと言ってる場合じゃ…ねぇんだ!」


陽平 「いやでも…たかの……く……! 鷹野君! 左から車が!」


ユウ 「えっ!? マジかよ…!?」


陽平 『あれ………なんだ…この感じ……』


ユウ 『………7月29日の……俺の死が……ここで……来るのか……俺が…花火を護ろうと…した…から…?』


陽平 「鷹野君!」


ユウ 「はぁっ……はぁっ……………大丈夫…だ………転んじまった…だけ…だ…」


陽平 「靴が……完全に傷んでたから……だね……あ、ちょっと鷹野君!」


ユウ 「急がねぇと……! はぁっ…はぁっ……」




花火 「そうだな……どれが…良いだろう……」




ユウ 『頼む……もう…後が無いんだ……鳴らないでくれ………頼むから……!』

(電話の音)

ユウ 「おい……嘘……だろ………もう…………鳴るな…よ……もし……もし…」


花火 「あっ、ユウ君! 熱で寝てたかな……ごめんなさい…! 好きな色だけ……聞きたくて……」


ユウ 「え……? 花…火?」


花火 「うんっ! 何色が…好きかな………?」


ユウ 「………あ……青だ……」


花火 「そっか…! ありがとう! じゃ…ゆっくり休んでね…!」


ユウ 「待て花火! そこから動か‐ …………切れたか……! くそっ!」




花火 「これで喜んでくれる…と…いいな…!」


ユウ 「大丈夫だ……間に合ってる……! 花火は…花火はどこだ……!」


(目の前で車同士の衝突)


ユウ 「え………待てよ……間に合ったんじゃ……ねぇのかよ……! おい………おい……! くそっ……くそっくそっくそっ! どうして…………っ!」


花火 「だ……大丈夫…!? ユウ君! どうしてこんなところにいるの!?」


ユウ 「……ぇ? 花火……!? 花火なのか……!? どうして……どうしてお前がここにいるんだよ……!?」


花火 「そ…それはボクのセリフだよ……事故に遭ったんじゃないかって心配したんだよ……それに…熱もあるのに……どうして……! ダメだよ! もうすぐ誕生日なんだから…………って……その靴……どうしたの…!? ぼろぼろだよ……」


ユウ 「………あぁ……良かった………花火……花火! 何があっても……俺と一緒にいてくれ…お願いだから! なぁっ…! ぐすっ………うっ……ひぐっ……」


花火 「………み…みんな見てるよ…!? ………うん…大丈夫……ボクはずっと一緒にいるよ………これ……少し早いけど……」


ユウ 「………何だ………? これ……ぐすっ……」


花火 「誕生日……プレゼントを買いたかったんだ……最初は…ハンカチとかにしようと思ったんだけど……ユウ君の靴を思い出して……変えようって……」


ユウ 「………青の………靴……これ……」


花火 「ふふっ……誕生日…おめでとう…ユウ君」


ユウ 「良かった…………花火……俺……」(力なく倒れ意識が遠のき)


花火 「ちょ…ちょっとユウ君!? 大丈夫!?」


(現代へ)


ユウ 「………あれ……? どこだ……ここ……河川敷………痛っ……夢……かよ…………やっぱり……疲れてるのか……俺………あれっ!? どこだ……あいつの…あいつのかんざし………くそっ! 最悪だ…………何やってんだよ……俺………明日……探そう…………帰るか……」


神 「……………私は……神として失格かもな……だが………これが愚行ならば私は神でなくてかまわない」




ユウ 「はぁ………馬鹿だな……俺…………ただいま……」


花火 「もう、遅いよ! ユウ君!」


ユウ 「え………? 誰だ…よ……」


花火 「お酒飲み過ぎたんだね……ボクだよ、ほら…花火! わからないの?」


ユウ 「花火………花火!? どうしてお前がここにいるんだよ…!」


花火 「どうしてって……ボク達の家はここだよ…? ほら……明日も仕事なんでしょ! お風呂入ってさっさと寝ないと…!」


ユウ 「あ…あぁ………そうだ……な……」



(8月7日)

聡介 「本当、久しぶりだな…! 夏祭り……10年ぶりか…?」


陽平 「だね……はいっ、焼きとうもろこし! みんなの分だよ」


聡介 「4本……つまりお前は食わないんだな…?」


陽平 「うそ…みんなの分ってつもりで買ってきたんだけど…」


聡介 「さぁ、もう1本だ!」


静音 「もう1本!」


陽平 「くっ……行ってくるよ……」


静音 「あれ…? 鷹野君達は…?」




花火 「本当綺麗……ボク達が変わっても…やっぱり…ここは何も変わらないんだね……」


ユウ 「……だな…。ん?その頭につけてるのって……」


花火 「うんっ! 10年前……ボクにユウ君が買ってくれたかんざし…だよ…」


ユウ 「ははっ……やっぱり…似合わねぇよ…花火…」


花火 「ぶー……せっかくつけてきたのに……」


ユウ 「本当に綺麗なものであればあるほど…何かをつける方が似合わないことだってあるさ」


花火 「ありがとう……ユウ君」


ユウ 「………花火…ずっと……一緒にいてくれ……」


花火 「うん……もちろん……好き……ううん……愛してる…ユウ君…」




ユウ 『一度起こったことはもう戻らない。だけど……もしかしたら……変えられる…わずかでも…希望があるなら、可能性に賭けてみるんだ。きっと…何かが自分を助けてくれる、何かが自分を支えてくれるから。誰かが、待っていてくれるから』


ユウ 「…ただいま、花火」


花火 「おかえりなさい……あなた」



かんざし ~もう一度会えるなら~


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