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魔王様のお気に召すまま

魔王様は人気者

作者: 旱咲



「あ、ドモ。世界征服しに来ました」


――ドアを開けたら、魔王が立っていました。












「……コレ、美味しいね。なんて言うの?」

「……たいやき」

「たいやきぃ?あぁ、だから魚の形を模してるワケ。人間は訳わかんないモノつくるねぇ。なんだっけ?ナットウだっけ?よく腐った豆を食う気になったよね〜」

「……」


我が家の居間で、コタツに入りながらたいやきを食べている男は、突然インターホンを鳴らしてこの家に住み着いた魔王様である。

お金払うから、と居座っている図々しい魔王様は、ぐうたらとコタツに入り一向に世界征服をしようとしない。

……いや、世界征服されても困るけど。


「奈緒ちゃん、お茶淹れてきてー」

「……」


呑気にそう言う魔王様に、とうとう我慢の限界が来た。ダンッと強く湯飲みを彼の目の前に置き、笑い声の聴こえるテレビを消す。


「ちょ、奈緒ちゃんなにしてんの?!今からが面白いとこなのに」

「……いい加減家出てって貰えませんか?!」


いきなり大声を出した私にびっくりしたのか、魔王様は口に入れていたたいやきを喉を詰めらせた。そして私の淹れたお茶を啜る。


そんな魔王様を見ながら、私は言葉を続ける。


「あのですねぇ魔王様。百歩……いや、千歩譲ってこの家に居座ることを許すとしますよ。弟と仲いいし。だけどどうしてご近所さんに私を婚約者だって言い触らしてるんですか?!」


魔王様は我が家に来てから数日も経たずに、この町の首領(ドン)と呼ばれる駄菓子屋のヒロばぁと一緒にお茶を飲む仲になった。

初めは世界征服の第一歩かと思ったけど、この小さな町のヒロばぁを手懐けたところでなんの利益もないことに気づいた。


……それと、ヒロばぁはただの面食いってことも。



魔王様はお得意の呑気さと人懐っこい性格で、どんどん町に馴染んでいき、しまいには嫁に行き遅れた私を貰ってやれだの、早く既成事実を作っちゃえだの、町のみんなから背中をおされるほど魔王様は人気者になった。


そんな魔王様も私を婚約者だと言い触らしはじめ、町ではもう祝福モードになってしまっている。



……魔王様が自分が魔王だと示すために魔法で壊した隣の家を目の当たりにした時、あまりの力に思わず魔王様を家に入れてしまった昔の私を叱りたい。殴り倒したい。


次の日に隣の家が元通りになってたことにも恐怖を感じていたけど、今はクリーニング屋でバイトをしているフリーターの魔王様なんか怖くない。というか、本当に世界征服する気あるのかすらわからない。




「今まで怖くて言えなかったけど、どうして私の家に来たんですか?!」

「え?いやぁ、異世界に来たとき目の前にあったのが奈緒ちゃん家だったし、それに―」

「世界征服しないのはいいですけど、私の家に入り浸ってると私外を歩けないんですよ!」

いつも冷やかしにあうから!



魔王様は落ち着いたのか二個目のたいやきに手を伸ばした。



「……ぶっちゃけ、隠居した親父が遊び回ってた俺にこの世界を征服してこいって無理やり追い出されただけだから、俺自身は世界征服にこれっぽっちも興味ないんだよなぁ」


頭をガシガシかきながら、口にたいやきを入れる魔王様に、今度はこちらが目を見開いた。


「……え、じゃあ、世界征服する気、最初っからなかったわけ……?」

「いや?面倒くせぇけど、親父うるさいしちょっくら世界征服しとくかなぁとは思ってたよ」


そんなトイレに言ってくるわー的に軽いノリで世界征服出来る魔王様って……。



ちょっとだけ恐怖心が顔を出したところで、魔王様がたいやきを食べきった。



「俺、魔王の仕事するよりアイロン掛けのほうが楽しいし、俺に合ってると思うんだよなぁ。町の人間もいいやつらだし」


それに、と魔王様は立ち上がり私に近づいてくる。


それに伴い後退る私の腕を、目に見えないほどの速さで掴んだかと思ったら、気がつくと魔王様にホールドされている私がいた。



「ここで奥さん貰う予定だし。ね、奈緒ちゃん?」


魔王様の片手には黒いブラックホールのような塊が出来ていた。それは、初めて魔王様に会ったときに、隣の家を壊したときの魔法と同じで――



「俺の奥さんになるって言ってくれないと、手が滑ってこの町破壊するかも?」


脅迫かっ!



全身真っ黒な魔王様に抱えられた私は、諦めモードに入っていた。

……考えてみれば、無理やり追い出すことは出来たけどなんだかんだで今日まで一緒に過ごしてきた魔王様に情が湧かないわけもなく。



「……魔王様の奥さんって、仕事ないよね?」



気がつけば、魔王様の背中に手を伸ばしている私がいた。


嬉しそうな笑い声をあげたあと、魔王様はポツリと零す。



「王妃として仕事はたっぷりとあるし、毎晩寝不足になるだろうけど、奈緒ちゃんに二言はないよねぇ?」



……十秒前の自分をたこ殴りしたくなった。

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