冬の願いごと(6)
「おい、幸一、しっかりしなさい」
遠くから声が聞こえました。
幸一は眠ってしまっていたようです。体中があたたかくて、とてもいい気持ちでした。
「幸一、幸一」
名前を呼ばれてゆっくりと目を開くと、そこには両親の顔がありました。
「あれ、父さん、母さん?」
幸一はベッドの上で寝ていました。そこは見慣れない部屋の中です。ヒーターが付いていて部屋の中は暖まっていました。
「山小屋の前で倒れているのを管理人が見つけてくれたんだ。お前一体この一週間どこへ行っていたんだ」
父さんの問いかけに幸一は答えました。
「大きな煙突が付いた家があって、そこにいたんだ。美冬さんと一緒に」
幸一が言うと、両親は顔を見合わせました。
「お父さん、それって……」
「うむ……、おそらく」
父さんは腕組みして唸っていました。
そして、しばらく考え込んでから、幸一にその家の事を話しました。
美冬さんがいた家には、むかしある姉弟が住んでいたそうです。二人はとても仲良く暮らしていました。
そんなある日、弟が病気で寝込んでしまいました。
姉は弟を大変心配しました。そして医者を呼び、自分は弟のために森に果物を取りに行きました。
しかしその晩、運悪く嵐がやってきて、姉はそのまま家に帰ってくることはありませんでした。医者が弟を看病しましたが、結局病気は治りませんでした。そしてその年、家は他の誰かに売られてしまいました。
しかしその家は誰も買い手がつきませんでした。その家は幽霊が出ると、噂になっていたからです。その家には誰も近寄らなくなり、家への道もいつしか閉ざされてしまいました。
山へ行ったまま帰ってこなくなった姉は十五歳。病気で亡くなった弟は八歳だったと、父さんは言いました。
幸一はその話を聞いて、また泣いてしまいました。ただ熱い涙が頬を伝って落ちていきます。両親はそれに気づいて、おろおろしていました。
「こ、幸一、どうしたんだ、そんなに泣かなくても」
「幸一、しっかりしなさい。暖かい物作ってきましょうか」
両親は言います。幸一は首を振りました。
「ううん、何もいらないよ」
幸一がはっきりとした口調で言うので、両親は少し驚きました。幸一は頬を流れた涙をぬぐいました。涙が流れたのは一瞬だけで、幸一はもう泣いていませんでした。
幸一は起き上がって言いました。
「父さん、母さん、家に帰ろう。もう一週間経ったよね」
幸一が言うと、父さんはゆっくり頷きました。
「そうだな、幸一も一回り大きくなったみたいだしな」
父さんはヒーターのスイッチを切りました。
幸一は右手を広げてみました。美冬さんと過ごした一週間。幸一はそのことを忘れないように心に刻みました。