表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

冬の願いごと(6)

「おい、幸一、しっかりしなさい」

 遠くから声が聞こえました。

 幸一は眠ってしまっていたようです。体中があたたかくて、とてもいい気持ちでした。

「幸一、幸一」

 名前を呼ばれてゆっくりと目を開くと、そこには両親の顔がありました。

「あれ、父さん、母さん?」

 幸一はベッドの上で寝ていました。そこは見慣れない部屋の中です。ヒーターが付いていて部屋の中は暖まっていました。

「山小屋の前で倒れているのを管理人が見つけてくれたんだ。お前一体この一週間どこへ行っていたんだ」

 父さんの問いかけに幸一は答えました。

「大きな煙突が付いた家があって、そこにいたんだ。美冬さんと一緒に」

 幸一が言うと、両親は顔を見合わせました。

「お父さん、それって……」

「うむ……、おそらく」

 父さんは腕組みして唸っていました。

 そして、しばらく考え込んでから、幸一にその家の事を話しました。


 美冬さんがいた家には、むかしある姉弟が住んでいたそうです。二人はとても仲良く暮らしていました。

 そんなある日、弟が病気で寝込んでしまいました。

 姉は弟を大変心配しました。そして医者を呼び、自分は弟のために森に果物を取りに行きました。

 しかしその晩、運悪く嵐がやってきて、姉はそのまま家に帰ってくることはありませんでした。医者が弟を看病しましたが、結局病気は治りませんでした。そしてその年、家は他の誰かに売られてしまいました。

 しかしその家は誰も買い手がつきませんでした。その家は幽霊が出ると、噂になっていたからです。その家には誰も近寄らなくなり、家への道もいつしか閉ざされてしまいました。

 山へ行ったまま帰ってこなくなった姉は十五歳。病気で亡くなった弟は八歳だったと、父さんは言いました。


 幸一はその話を聞いて、また泣いてしまいました。ただ熱い涙が頬を伝って落ちていきます。両親はそれに気づいて、おろおろしていました。

「こ、幸一、どうしたんだ、そんなに泣かなくても」

「幸一、しっかりしなさい。暖かい物作ってきましょうか」

 両親は言います。幸一は首を振りました。

「ううん、何もいらないよ」

 幸一がはっきりとした口調で言うので、両親は少し驚きました。幸一は頬を流れた涙をぬぐいました。涙が流れたのは一瞬だけで、幸一はもう泣いていませんでした。

 幸一は起き上がって言いました。

「父さん、母さん、家に帰ろう。もう一週間経ったよね」

 幸一が言うと、父さんはゆっくり頷きました。

「そうだな、幸一も一回り大きくなったみたいだしな」

 父さんはヒーターのスイッチを切りました。

 幸一は右手を広げてみました。美冬さんと過ごした一週間。幸一はそのことを忘れないように心に刻みました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ