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掌編小説

心の死亡診断

作者: 斎藤康介

 心が死んだ。

 享年24歳。

 死因は疲労死。


 けれども何も変わらない。むしろ「生き方がシンプルになった」と脳は言う。

 善と悪、是と非、彼と我、右と左、上と下、前と後、天と地、黒と白、男と女のあらゆる対立から人生は解放された。なぜなら心が死んだいま生を支配する所以は「如何に生き延びるかだ」とも脳は言う。生は生存することだけを求め、生き残った脳と身体はそのために最も効率のいい方法を考えとるだけと。

 しかし、それは本能に支配されることとイコールでない。人が生きるには社会があり、社会をないがしろすれば生を失うこともある。これまでの知識を動員し社会に適合すること、合理的な脳が生み出した結論だった。


 「いい女とセックスし良い子孫を残したい」と身体は言う。

 金が女を引き寄せることを知っている脳は金持ちになる方法を考え出す。社会に適応した形で、合法的に合理的に。やがて脳は働くことを選び取る。身体の生存本能を身体を手段とし働く。尋常ではない程働く。やがて成果が出、出世し、金を得、いい女とセックスし、生きるために安定した生活を獲得する。

 ここまでのプロセスに一切の無駄はない。悩みなどない。

 脳は感嘆しないし身体も感嘆をしない。


 やがて死を迎える。だが恐怖はない。生きることだけが目的で、死は埒外だから。

 妻を横に、息子夫婦と孫、娘に見守れ死ぬ。

 傍から見れば絵にかいたような人生である。

 だが「幸せか?」と問えば「愚問だ」と脳は言う。

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