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またまた屋上にでるドアの前。
階段の踊り場にいる。
案の定、鍵はかかっている。
待つこと一分。
今日は早かった。藤堂千鶴子登場だ。
「おまたせ。」
言葉とは裏腹に、その明るい声は待たせたことを気にしている様子はない。
ドアノブに手をかけ、ガチャガチャとお決まりのように音をさせたあと、こっちを向き直った。
「やっぱり今日も開かないか。そして、他のカップルもなしと。」
「呼び出す場所はここではなさそうだ。」
ため息混じりにかえす。
内心、今度こそ告白かなと、思ってしまうのをかくすために。
「この間の話の続きがしたくて。あれ、相手の男の子が私に告白するとしたらどうかな?」
「そのパターンを考えたいってこと?」
だとしたら、相手の男とどこで出会うかが重要だ。
ドラマなら・・・。
前回話したのとは全くちがう展開もありだろう。
バッドエンドはどうかな。
新しいシナリオに心奪われて長時間考えすぎたみたいだ。
藤堂さんの携帯が着信を知らせたのをきっかけに我にかえった。
メールを返す彼女の手を何の気なしにみていると、打ち終わったのか、こっちを見つめ返してきた。
下から見上げるまっすぐな目。
「新庄君、今付き合ってる人いないんだよね?」
なぜだろう。
さっきまでとは彼女の雰囲気が変わった気がする。
「うん。」
「じゃあ、気になってる子がいる?この学校ならあたし、協力するよ。」
見上げてくるまっすぐな目。
協力って、どういうことか。
頭の中で知らぬ間に構築された自信、藤堂千鶴子はオレに気がある、が崩れていく。
「特にいない。」
声が不機嫌になってしまったのは仕方が無い。
「ほんとうに?だったらなんであたしふられたの?好みじゃないってこと・・・。」
一気にまくしたて、、最後はしりつぼみじょうたいでうつむいてしまった。
ふったってなんだ?
よく思い出せ、オレ。
どう声をかけていいか迷っていると、彼女は勢いよく顔をあげて言い放った。
泣いてなんかいなかった。
落ち込んでもいなさそうだ。
「高校にいないなら中学のとき好きだった子いるよね?いないはなしね。あっ、仲のよかった子でもいい。なんでもいいからいるって言って。」
下から見上げるまっすぐな目。
そして、オレは押しに弱い。
今、気がついた。
彼女の気に入るように応えている。
「まあ、なかがよかったくらいなら。」
ほんとうは好きだった子というより、仲がよかった、よく話していた、せいぜい、気の合うクラスメートってやつだ。
話す内容はだいたいが、昨日のドラマ、なのだから。
高校は違ったし、まあ話しても問題ないだろう。
「やっぱり。その子のことを忘れられない、っでいいよね?それなら納得できるっ。」
勢いに押されて思わずうなずいてしまった。ほんとうはどうでもいのに。
やっぱり押しには弱い。
「あたしね、あしたの放課後、新庄君にどうしても付き合って欲しいところある。いいよね。」
よくは無い。
見上げてくる目。
その頭の上に手をのせてグリグリ押し付けたいのをこらえる。
時間はとらせないだの、振ったんだからそれくらいしてくれてもだのとまくしたてられ、藤堂さんのペースで話が進んでいった。
その子の名前から通ってる高校名まで勢いに乗った藤堂さんは追随の手をゆるめず、いったいオレはいつ藤堂千鶴子を振ったんだろうと自問しながら、彼女の望みどおり答えさせられてしまった。