6
藤堂さんが口を開く。
「あのストーリーの続き、新庄君ならどう思う?」
「藤堂さんの夢のだよね。」
「うん。」
「藤堂さんの言うとおりラブストーリーでいいと思う。せっかくだからその気になってやってくれそうな相手見つけたら?」
たぶんオレでは台無しだ。もっとかっこよく生まれてみたかった。
「うん。それはね。でさあ、こうやってカップを渡して、夢の話もして、屋上に呼び出したら、その後の展開はどうしたらいいかな。」
「ああ、その場合、告白でいいんじゃない?」
「どっち?」
「どっち?ああ、藤堂さんのほうだろう?あの手紙だと好きってのは伝わりづらい。だから呼び出したなら好きとか付き合ってとか言えばいいと思うけど。」
「うん。そうしたら相手はどうするの?」
彼女がこっちを見ているのを気にしながらも平静を保つ。
やっぱり告白ではなかったようだ。
「そうだな。先に手紙に好きって書いておくんだ。そうして呼び出してから、付き合って。で、これ、ハッピーエンドがいいんだよね?」
「もちろん。」
「だったら、返事は、うん。男のほうがそのままキスするってのはどう?」
言ってて照れなくはないがドラマならそこでエンディングでいいな。
人の恋なんて適当でいい。
「うん。わかった。でも、手紙はもう渡しちゃったから。付き合って。」
あんまりさらりと言うから内容の確認だと思わなくはない。
でも、藤堂さんはオレを見ている。しかも顔が赤い。
「それ、オレしていいの?」
まるでドラマだ。とりあえずセリフとしては悪くないだろう。
「うん。」
うん、ね。防衛したほうがよさそうだ。何とか平静を装って声を絞り出す。
「遠慮しとく。」
声が不機嫌になったのも仕方が無い。
からかわれているのか、練習台にされたのか。
もてたことなんて無いオレの精一杯の見栄だ。
「残念。」
そういうと、藤堂さんはくるりと向きを変えて、今度はオレの顔を覗き込んできた。
いや、背の低い彼女が下から見上げるとそう見えるだけだ。
しかも笑顔で。
やはりからかわれてるのだろうか。わかりづらい。
オレが返答に困っているとじゃあね、と階段を駆け下りていってしまった。
もし次があったならそれなりのセリフを吐いてみようと思う。
彼女に階段に取り残されるのはこれで二度目だった。