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終業のベルが鳴り、通学カバンに手をかけて席を立とうと思い立ったとき、藤堂さんがオレの視界を横切った。
今日も早く帰って再放送の連ドラ視聴と行きたいのだが、その前に藤堂さんに確認しておかなければいけないことがある。
例のカップはやはり返したほうがいいような気がする。
カバンを手に席を立ち、藤堂さんの行き先に目を凝らすと、どうやらトイレのようだ。
仕方ない。廊下で待つとしよう。
「新庄君、もう帰るの?」
トイレから戻ってきた藤堂さんがハンカチで手をふきながら声をかけてきた。
手ぐらいふき終わってから出てくればいいのにと、心の中で余計なお世話の突っ込みを入れながらも、向こうから声をかけてくれて話しやすくなったとほっとした。
「あのさ、例のあれ、やっぱり返したほうがいいと思うんだ。だから明日もってくるよ。」
カップが好みに合わないとはさすがに言えない。
それに、あれをくれた気持ちをきちんと確認してみたいってのもなくはない。
「えっ、あれ、気に入らない?困ったな。」
「気に入らなくはない。っていうか、意味がわからない。だから明日、もってくるから。」
できるだけ、傷つけないように優しく、明るくいったつもりだ。
「じゃあ、オレ、帰るから。」
言い捨てて、オレは家路を急ぐことにした。
下駄箱で靴を履き替えていると、藤堂さんが急ぎ足でやってきて追いつかれてしまった。
カバンを手にしている。
「そこまで一緒に帰ろう。」
「急いでるんだけど・・・。」
「誰かと約束でもあるの?」
「いや、趣味の連ドラ視聴があってあまり時間がないんだけど。」
「大丈夫。私、自転車こぐの早いから。新庄君、自転車通学だよね。」
「うん・・・。」
オレの返事を待たず、もう靴を履き替え、入り口で振り返りオレのことを急かしている。、
「早く行こう。」
仕方ない。
二人で並んで歩き始めると、意外と藤堂さんが小さいのにおどろいた。
頭のてっぺんが見える。
この人身長150センチあるのだろうか?
「あのね、昨日渡したカップ、嫌じゃなかったらそのまま受けとって欲しいの。手紙、見てくれたでしょう?ほんとうはあの夢、実際におきたらいいなって思ってたんだけど、それは無理かなって。」
「いいけど、あれ、名前わかるんじゃないの?カード交換してないか?」
「うん、夢の中ではね。でも、名前見えなかった。だから、新庄君でいいよね。」
嫌ともいえずうなずくしかなかった。
「まあ、いいけど。」
そういってしまったとたん、藤堂さんが目を輝かして勢い込んで言った。
「あのね、私、あれ、やってみたいの。」
「やってみたいって、なに?」
勢いに圧倒されながら聞き返したときには、自転車置き場に着いていた。
藤堂さんは自分の自転車を出すと、さっさとまたがり
「じゃあ、新庄君、あれもう一度読んでおいてね。できればおぼえてね。」
そういって手を振って帰っていった。
一緒に帰るって言っただろう。自転車こぐの早いからって。話が違う。
まあ、一緒に帰らなくてすんだのは正解だ。
藤堂さんの自転車のこぎ方はどう見てもヨロヨロと危なっかしくとても早いとは思えない。
しかも、帰る方向も正門を出たとたんオレのうちとは真逆だったのだから。