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その夜というより夕方。
あれからあまり会話も弾まず、ゲームセンターに行ってみたりしたあと4時過ぎには解散となった。
高校生は金が無い。
家について手を洗い、部屋に腰を落ち着けるまもなく携帯が鳴った。
<今日のこと。
普通、ああいうのは遅れていくの。
私と新庄君が遅れていったら、さおりと上北君で話せるじゃない。>
役者、藤堂千鶴子からのメールだ。
今日は楽しかったね。とか遅れてごめん。とかもっと普通の文章がほしい。
要するに今日のダメだしをわざわざメールしてきたってわけか。
<先に教えておいてください。>
とだけ他人行儀に返信しておく。
ほかの二人にはきちんと礼を尽くして
<楽しかった、また>。
ぐらいの内容でいいだろう。
返信してすぐにまたメールだ。司令塔がご立腹のようだ。
<ベンチに座るとき、なんで、男子二人で座るかな。わざと?
じゃなかったら、気が利かない。
これからははじめにしっかり打ち合わせしようね。
佐緒里の恋、ちゃんと実らせるんだから!!!>
オレは気が利かないと思われているようだ。
だったら返信もしない。気が利かないんだ。電源を切ってやった。
「直君、電話―。」
ご機嫌な母親の声に呼ばれてリビングへ行くと、わざわざ受話器を手渡された。
「誰から?」
オレの問いを無視してキッチンに引っ込んだ。
「もしもし?」
「あっ、新庄君?藤堂です。藤堂千鶴子。」
なぜ?電話?しかも名前を二回も言うんだ。
キッチンの方に視線をやる。あの人が聞き耳を立ててないわけが無い。
携帯の電源を切った自分を責めた。
「この電話番号、さおりに教えてもらってあったんだあ。」
「それ、個人情報。」
やっぱりこの人と話すときは不機嫌な声しか出せない。
「携帯にかけたんだけどつながらなかったから。今日の反省会と作戦会議。今、大丈夫だよね。」
言い切るんですね。オレは押しにはとても弱い。
しかもうちのあの人が聞き耳を立てている以上、下手なことはいえない。
「携帯、つなぐからそっちにして。」
「じゃあ、新庄君からかけてね。まってる。」
言うが早いが切れた。ツーツーという音が耳に痛い。
電話なんてかかってこなかったことにして、このまましらばっくれたかったが、また家にかかってきても面倒だ。
携帯の電源を入れると、アドレスを検索する必要も無く、着信履歴が残っていた。
藤堂千鶴子
そのままかける。
ワンコールも無いくらいの速さででた。
「もしもし。」
声が弾んでいるのは気のせいでしょうか。あまり長時間の通話は困るんですけど。
「もしもーし、新庄君?聞こえてる?」
「聞こえてる。」
「よし、これで電話は同じ一対一と。」
「なに、それ?」
「私だけがかけたなんてつまらないじゃない。新庄君からも電話が来て初めて対だよね。」
なんですか。それ。
「じゃあ、そういうことだから。」
オレは携帯をもったまま固まった。