12
落合北里駅中央改札前。
10時25分集合。
役者、藤堂千鶴子からメールで知らされたところによると、遅刻のないように25分集合にしたそうだ。
あれ以来、役者と斉藤は頻繁にメールで連絡を取り合い、お互いいろいろ相談なんてしているらしい。
昨日もオレの席までやってきて
「違う学校に友達ができたのも新庄君のおかげ、ほんとうにありがとう。」
なんてしれっと言う。
オレは斉藤の携帯に連絡ひとついれられない。
そんなことしたらたぶん藤堂さんに筒抜けにされるにきまっている。
オレに連絡をよこすのは藤堂さんと係りもきまっているようだ。
時間より5分早く待ち合わせ場所に着いたオレは約束人を一応探してみた。
斉藤の連れてくる相手、上北雄介は面識がないがみんなまだのようだ。
藤堂さんによると、斉藤の今現在気になる相手、たぶんかっこいいにきまっている とまで言い切っていた、上北君との仲を絶対邪魔しないことをきつく言い渡されていた。
すぐ近くで、ただもさっと突っ立ている、改札のまん前、通行人の邪魔としかいいようのないがっちりしたやつがこっちに突進してきたとき、オレは人の視点は様々だと再認識することになりそうだと悟った。
そして予想通り藤堂さんの カッコいいにきまってる やつがオレに話かけた。
「新庄君?」
「上北君?」
お互いきまづさを隠す照れ笑いのなか、右手をつかまれ握手している。
「よろしく。」
「こちらこそ。」
これがスポーツマンってやつか。と一人納得してしまうくらい友好的だ。
会ってすぐ握手。オレにはない思考だ。
しかも、勝手に秀才をイメージしていたものだから自分の中に出来上がっていたイメージとのギャップに戸惑いを隠せない。
たぶん向こうもそうだろう。
オレたちが友好的に携帯アドレスの交換なんてのをやっていると待ち合わせ時間少し前に斉藤も来た。
しかし、役者がまだだ。
時刻は10時30分。
遅刻のないように が聞いてあきれる。
斉藤が携帯を取り出したその時、小走りに藤堂千鶴子登場だ。
「ごめ~ん。まった?みんな早い。」
笑顔ですか。しかも早いって。
「おそ~い。ちず、5分の遅刻。」
さすが斉藤。そこは、待ってないよ、でも、今来たところ、でもなくはっきりと言おう。
「ごめんね。でも、ピッタリだよね。」
「どこがだ。」
こらえきれなくなってオレも突っ込まずにはいられない。
「普通さ、こういうのって・・・、あっ、上北君だよね。はじめまして。藤堂千鶴子です。でさ、待ち合わせには間に合ったじゃやない。ねえ?」
さすが役者。
責めているオレと斉藤は無視して上北に同意を求める。
そのうえ、待ち合わせ時刻は10時30分。それに遅れないように集合を5分早めた。その結果、メールには10時25分集合とのせ、自分は待ち合わせ時刻には遅れていないと独自の理論を展開して見せたのだ。部活でハンドボール部だという上北君に投げ飛ばされてみて欲しい。
映画は前評判どおり、痛快でコメディでハートフルだった。4人が4人とも、面白かったね、そうだね、と席を立ち、このシーンがと議論を飛ばす必要もなく、また続編でもあったらみんなで見に来たいね、と藤堂さんがコメントをしめた。
高校生のお約束、ファーストフードで昼食をとることにして,映画館から歩くこと3歩で移動完了。店内は映画館隣という立地からか、激しく混んでいた。
気候もよく、公園も近い、絶対テイクアウトで青空のしたで食べようなんて言い出す藤堂さんをオレと斉藤でなだめ、何とか店内に席を確保した。
「今日はそと日和だよ?もったいないよ、こんなにごみごみしたところで食べるなんて。」
いつまでもぶつぶつ言う藤堂さんに、心やさしい上北君が手を差し伸べる。
「あの公園、広くて気持ちいいんだよね。食べ終わったら、散歩しながら池の水鳥にえさでもあげに行く?」
「行った事あるの?」
「子供の頃、親と来たよ。今も水鳥くらいはいると思うけど。」
「行く。ねっ。さおり、新庄君いいよね。」
「ねえ上北君、今日の映画、さおりになんて誘われたの?」
水鳥にフライドポテトをちぎって投げ与えながら藤堂さんが聞いている。
えさはたぶん20円で売っていた思う、という上北君の進言を、もし無かったらつまらない 絶対じゃないならこれをあげる とわざわざバッグに忍ばせてきたフライドポテト。さめて、グニャリとしたのを手を油まみれにしながら楽しそうに投げている。
上北君はなんて答えたんだろう。
こっちからでは背中しか見えず、藤堂さんの、そうなんだ、とか、へえ、とかの相槌がかろうじて聞き取れるくらいだ。斉藤と上北君をくっつけるためには役者藤堂千鶴子はどうでるのか見てみたい。それともその気はないのだろうか。
もっとも、今日上北君を誘うまでは、私のアドバイスがよかったからだ と言ってはいたが。
女子二人はメールでは飽き足らず、通話でお互い相談、いや、悪巧みってやつをしていたらしい。
「友達の恋を応援するために一役買って。」
このセリフを藤堂さんから斉藤に進呈したそうだ。
そして斉藤が上北君に相談というかたちでこのセリフを言った。
上北君の返事は、「いいよ、わかった。」
まるで藤堂さんの用意していたとおりの答えだったらしく、その後の展開もおもわくどおりみたいだ。
そして今日に至る。らしい。
上北君の了承を得たとき、オレにも藤堂さんから電話があった。
自分の手柄はしっかりアピールする。
「向こうは私と新庄君をくっつけようと画策するの。だから私と仲良くしすぎないでね」。
とは、ずいぶんな言われ方のようなきもする。
いつオレが藤堂さんと仲良くしすぎたんだろう。
斉藤も、藤堂さんからもらった油まみれのフライドポテトを楽しそうに投げている。
手が汚れることなんて気にもしないんだな、この二人は。
「鳥って何でも食べるんだな。」
「そうだね。」
斉藤は持っていたフライドポテトを全部池に投げ終わると 面白かった と言って藤堂さんのほうにいってしまった。
二人が手を洗ってハンカチというより小さなタオルみたいので手をふいているのをボーッと見ていた。
「さっきの映画なんだけど、うちの高校の七不思議に似てるのがあったんだよ。」
上北君が話し出した。
「七不思議ってなあに?」
「いや、ほんとうは七つもないみたいなんだけど、通称不思議なことはそういう風にいうよね。斉藤きいてない?」
知らないという斉藤も含め、今日始めてみんなが興味を持って会話が進みそうだったのでオレたちは手近なベンチに座ることにした。
四人がけのベンチに高校生が四人座るのは窮屈だ。よって、少し距離が開くが、たてに並んだ二つのベンチに二人づつ座った。話がよく通るようにと声の大きな上北君と絶対黙っていられない女子二人が端をとるため、上北、オレでひとつのベンチ、藤堂、斉藤でもうひとつのベンチと味気ない配置になった。