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「だからね、ちょっと見てみるだけでいいの。みたら納得するから。」


藤堂さんがオレをつき合わせたのは、忘れられない?彼女、斉藤の通ってる高校、明星高校のすぐ近く。

残念なことにオレたちの高校から自転車で30分ちょっとしかかからない。

中学がオレと一緒ってことはここが通学路だとにらんで、通りに面して広めの駐車場を持つこのコンビにの前で待ち伏せするらしい。

斉藤はさっぱりした性格で、万が一遭遇しても、まあ、オレは困らない。

それに、学校が終わってここにくるまでに30分以上たっている。

もう帰った後かもしれないし、部活動にいそしんでいるのかもしれない。

ここをとおるかどうかすらわからないのだから。


録画予約は万全だったかなと、頭の中で確認したり、昨夜の中学の思い出をふりかえったり自分の世界に入りこんでいた。


「おそい。」


藤堂さんは気が短いらしい。

ここに来てからまだ5分から10分といったところだろう。


「もう、帰っちゃったんじゃないかな。」


あきらめて、帰るといってくれることを祈りながらまた考えにふける。

どうでもいいな。それより、母親にもう一度勝手に部屋に入るな宣言をしておかなければ・・・。


前方から一人の女子高生。

自転車でやってくるのを確認すると、藤堂さんはその前に躍り出て自転車を止めた。

背が小さいながら機敏な動きだ。


「すみませーん。あの、友達待ってるんですけど、明星高校のかたですよね?」


相手がうなずくのを確認すると、笑顔満開で話し出した。


「一年生の斉藤って子なんですけど。失礼ですけど、何年生ですか?」


「一年です。クラスにも斉藤佐緒里って子ならいるけど・・・」


「そう、その子。私、友達なの。中学一緒で。まだ教室に残ってるのかな?」


口からうまれたっていう形容詞はこの人のためにあるとしか思えない。

藤堂さんは、すらすらとうそをついた。


「うん、まだいたけど。たぶん、部活も入ってないしそろそろここ通るかも。わからないけど。」


親切な斉藤のクラスメートにお礼をいい、ニコニコと手をふって見送る背に向かい、皮肉のひとつでも言ってやりたくなった。


「友達なら携帯のアドレスくらい知っててもいいんじゃない?」


「それもそうだね。」


あっさりと受け流されてしまった。

藤堂さんは結構したたかといおうかくわせもの、役者かもしれない。


 またまた待つこと10分あまり。


コンビにの横においてある自販機で飲み物を買って、オレにも渡してくれた。

ミルクティー。

とってもおいしそうに飲む彼女につられてペットボトルのキャップを開けると濃厚な香りがはなについた。

オレはミルクティーが嫌いだ。今、気がついた。

しかもホットだ。

季節は春というより初夏だろう。もうすぐ衣替えの季節だ。

口をつけるのをやめ、ふたを閉めなおす。母さんに持って帰ろう。マザコンではない。だろう。


「飲まないの?」


「うん、これすきじゃないんだ。でも、ありがとう。家族にすきなのいるからもらっとく。」


「ふーん、私の好きなものと新庄君の好きなものは違うのか。今度は新庄君の好きなもの教えてね。」


自分の好きなものを否定されても気に止める風でもない。

コーラを2本買って、1本を藤堂さんに渡した。これで貸し借りなしだ。


「コーラ、ね。ありがとう。家に持ってかえって、氷をいれて飲もう。」


そういってカバンの中にしまった。


明星高校の制服がちらほら通り過ぎる中、見慣れた雰囲気をもった斉藤を発見した。

通り過ぎる制服より、オレの動向に注意を注いでいた藤堂さんにあっさりと見透かされた。


「あの子?」


「たぶんね。」


左手をほんの少し上げて合図を送ると、向こうも気がついたようで目を見開いた後、藤堂さんを見て、オレ、そして目の前で自転車を止めた。


「新庄君だよね。久しぶり。制服だとちょっと違う人みたいだよ。」


笑顔でオレに先に声をかけ、藤堂さんにも軽く笑顔を向けた。人懐っこい性格は健在だ。


「斉藤、相変わらず早口だな。」


オレの再会の言葉をさえぎり、役者、藤堂さんが口を挟む。


「こんにちは。私、藤堂千鶴子って言います。新庄君のクラスメートで、この間振られたばかり。今日は無理いって斉藤さんに会いに来たの。」


「私に?振られたってなに?」


斉藤が、最初は藤堂さん、次はオレをみながらあせっている。


「うん、そう。見るだけってうそついて。しかも泣き落とし。」


えへへって笑顔はきっとこういうのを言うんだろう。

振られたまで言うのかと、あっけにとられているオレと斉藤をしり目にまくし立てる。

役者、藤堂千鶴子ここにあり。


「中学のとき仲良かったんだよね?新庄君のことどう思う?斉藤さん、今好きな人とか付き合ってる人いるの?」


「特に今はいないけど。」


「ほんとう?」


なぜか声を弾ませた。


「私ね、斉藤さんと気が合うと思う。さっぱりした性格だよね?よく言われない?」


「うん。言われること多いかな。」


「やっぱり。ねえ、今度みんなで映画見に行かない?」


「映画?」


「うん、私と新庄君と、斉藤さん、後もう一人誘って。」


満面の笑みってやつで少し上目遣いに斉藤を覗き込みながら役者がとまらない。


「ああ。」


大きくうなずくと、なにかに気がついた、いや役者に引きずりこまれた斉藤がオレを少しみたあと、藤堂千鶴子と目配せをした。


「いいよ。でも、あと一人どうしようかな。」


「こっちで誘ってもいいけど、新しいクラスメートで誰か映画好きそうな人がいたら誘ってみるのもいいんじゃない?」


「う~ん。」


「誰かいるね?」


「まあね。」


女同士の意思の疎通があったみたいだ。

オレは藤堂さんを振った覚えはないとか、斉藤のことも特に恋愛感情はないとか、映画っていきなりなんでそうなるんだとかいいたいことはあったはずなのに何一つ口から出すタイミングをつかめないままで話がすすんでいた。

とりあえず携帯アドレス交換なんてのをオレも含め3人でしたり、テレビで大々的に告知しているあの映画にしようなんて話で女子二人が盛り上がりその日は帰路についた。



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