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 夏祭りの日。

 私は事故にあった。




「え? なにこれ?」

 『私の手術』が行われているであろう手術室の扉の前に私は立っていた。

 生死をさまよっている人間がベッドに横たわっている自分を眺めている、そんな話はよくあることだ。

 だがそれにプラスしてスーツ姿の男の子が見えるという話は聞いたことがない。

 そして今私が見ているのはまさしくそれなわけで……

 スーツを着ているものの、その男の子はそれを着るには幼く見えた。大体十七か八、私と同じくらい。そもそも茶髪でスーツを着こなす人なんてあまり居ないように思う。

「はいこんにちわ」

「こ、こんにちわ」

 挨拶をされたので私も返そうとしたが、あまりにも非日常的過ぎる光景に戸惑い、口がうまく回らなかった。

「いやー、ね、事故っちゃったね。痛かったでしょ」

「うぇ、え?」

「あーごめんねー、ちょっと現状を理解していない感じだねー、あのねー、君今幽霊的なポジなのよ、わかるー? アンダースタンティング?」

 私の頭を押さえつけまくし立てる男の子。同じクラスの田中と同じような口調で、少し腹が立つ。

「し……死んだんですか! 私死んだんですか!?」

「いやねー、もし君が死んでるとしたら呼び名は『幽霊』な訳ね、でもねー、君はね『幽霊的』な訳ねつまりこれどういうことかというとねー、君まだ死んでないって事なんだよねー」

「は、はぁ」

 まだ現状を理解しきれないがとりあえず自分がまだ死んでいないということに胸をなでおろす。世の中には自殺したがりの女の子も居るが別に私はそうじゃない。むしろ長生きしたいくらいの勢いだ。

「ギリ死んでないから、いやほんとギリ。ぶっちゃけるとこの手術成功するし、まぁ君の選択しだいでは失敗になるけども」

「ちょっと待って! 整理を! 頭の中を整理させてください!」

 両手で彼を制し、その場にしゃがみこんで一生懸命考える。できる限り冷静になろうとも勤めた。

 近くの商店街で開かれる夏祭りに行こうとした時、私はトラックにはねられた。チョー痛かった今思い出しても泣ける。

 んで、今生死をさまよっていると。そんで、今なぜか『私じゃないところに居る私』の前にこの男の子が現れたと。ん? これは小説とか漫画とかでよく見た、いわゆる王道的なあれだ。

「死神!」

 私は立ち上がり反射的に彼を指差してそう言ってしまった、冷静になって考えてみれば彼が死神だろうが私立高校生だろうがものすごく失礼ない行為だ。

「あ、そういうこと言っちゃう? 君そういうこと言っちゃう? あのね、話せば長くなるんだけどねそもそも天使とか死神とかそんなもん君らが勝手に作り出したものであってねたとえば今から君を俺が向こう側に連れて行くとするわなそうすれば君は向こうで生活することになるんだけどもねそれを楽しいと思えば君の中で俺は天使だけどもねそれを楽しいと思わなければ君の中で俺は死神もしくは悪魔になる訳だよなにこのダブルスタンダードっぷりは君らのいいように解釈しやがって大体なんで死神とか悪魔とか黒基調のイメージなんだよこちとら仕事するときはスーツだっつーの大体天使のイメージ裸ってあんた馬鹿かと死ぬのかといやそいつがいつ死ぬかとか知ってる訳なんだけどさなんと言うか気持ちの問題でそういうのすごい腹立つだいた」

 私の発言がそれほど気に食わなかったのか死神が長々と何かを語っている途中に手術室の扉が開いた。扉が私と死神をするっとすり抜け、あぁ、私『幽霊的』だなと改めて感じた。

「やば! おい、場所変えるぞ!」

 死神は手短に言うと私の手を掴んだ。次の瞬間私たちは病院の近くにある公園に居た。本能的にベンチに腰掛ける。

「死神さん、何で急に場所を?」

 正直瞬間移動的なものにあまり驚きを感じなくなっている私が怖い。

「……死神じゃないっつーの、ちゃんと名前があるんだ、ほれ」

 死神はポケットから会社員がよく首から提げているネックストラップを取り出し、巻かれた紐を解いた後に私に見せた。なんか、『天国』とか『請負』とか私を再びファンタジーの世界に連れて行きそうに単語があったので無視し、ミカミと書かれた部分だけを見た。

「ミカミ、さん」

「そ、ミカミ。さーて、なんだか無駄な時間を使いすぎたけども、さっさと本題にはいっかぁ!」

 ミカミさんは邪魔くさそうにネックストラップを首にかけると背広のポケットから小さなメモ帳を取り出した。

「えーっと、コニシ……リカコ?」

「あ、サトコです」

 理子という私の名前は読み方が難しかった。

「あ、そう、サトコちゃんね。あのねー、ぶっちゃけると君ね百六歳まで生きるのね、あ、俺とあった記憶とかなくせるから安心してね、んで、今回の事故はなんと言うかこっちから見ても事故でね、ま、たまにあるんだけどねそういうことも。んで本題なんだけども、サトコちゃん、生きる? それとも死ぬ?」

「は、はいぃ!?」

 突込みどころが多すぎて、単語の形をした言葉が出てこなかった。だめだ、この状況に私の慣れが追いついていない。

「いやそんな反応されても」

「あ……あなた生きるとか死ぬとかそんなに簡単に」

「いや、そのなんと言うのかな、こっちとしてもこんな事をしてしまったことに若干の引け目があってね、一応死ぬ権利ってのを与えようかなと、あの会社の方針でね」

「そ、そんなの生きるに決まってるじゃないですか! 嫌ですよ死ぬのは!」

 ベンチから立ち上がって怒鳴るように言うとミカミさんはちょっとたじろいた。

「あ、そう。いやね、最近多いからね。あの自殺って言うの? あれね、あれ大変なのよこっちとしてはね」

「知りませんよ」

「ま、愚痴だと思って聞いてよ、そもそも最近は何万人もの人間が死んでるわけよ、いやほんとに。ま、そういう人たちはこっちがいつ死ぬかリストを抑えてるんだけどね、たまにいるんだよね、こう突発的に死ぬ奴が、で、会社としては常勤の人間をよこす訳には行かないからさ俺みたいなさ、なんと言うか引退組っていうの? 非常勤の人間が借り出される訳ね」

 ミカミさんが身振り手振りを交えて説明する。

「あれホントすごい迷惑なの、こっちとしても優雅な隠居生活を送りたいのにさ、マジ勘弁。あとさ」

 ミカミさんの話はとても長くなりそうで、私はちょっとボケッとしていたがが近くで何かが破裂する音が聞こえて我に帰った。

「空襲か!?」

「違います! 花火! 大変お祭りが始まっちゃう!」

 ミカミさんは両腕で頭を抱えてしゃがみ込んでしまっている、少しからだが震えていてその風貌はうさぎによく似ていた。

「戻して! 早く私を生き返らせてくださいよ! お祭りが終わっちゃう」

 急いで病院に戻らなくては。

 病院のほうに向かおうとした私の脚をミカミさんが掴んだ。こけた、でも痛くない。『幽霊的』ってステキ。

「いやいや、病院には行きたくないし! そもそも今生き返ったってすぐに祭りに行くのは無理だろ常識的に考えてみろ、なんかいろいろあるんだろあの点滴とか……採血とか」

「あなたさっきから病院嫌いですね! 死神的なあれなんだったら病院とか平気でしょ」

「……血が嫌いなんだ」

 ミカミさんは私から目をそらしていった、心なしか顔が赤い、恥ずかしいのかな。

「いや知らんし、あ、そうだ! あなた達の責任なんだから何とかしなさいよ! 出来るでしょ!?」

「いやーそんなにお祭りに執着されても……」

「あぁん!?」

 この地域は娯楽が非常に少ない、私は空手部に入っているが本当に娯楽が部活ぐらいにしかない。

 その私から年に一回しかないお祭りを向こう側のミスで取り上げるなんて……その残酷さをミカミさんはわかってない。

「そ、そんな怖い顔しないでよ、何とかするから機嫌直してよ」

「とりあえず足はなしてください」



 「ちょっと待ってろ」といってミカミさんは消えた、さっきの瞬間移動的な奴だろう。

 しばらくすると再び私の前に現れた、瞬間的に。

 だがさっきとは大きく違う、今回現れたミカミさんはミカミさんではない、ものすごく難しいことを言っているがそんなにわからないことではなくて、単純に姿形が違うってだけだ。瞬間移動してこなかったらミカミさんだと気づかなかっただろう。

 今回のミカミさんはどこかの高校の制服を着ていた、だけど一昔前の制服っぽい。耳が隠れる程度の黒髪でイケメンだ、元もイケメンだったけど。

 ミカミさんは女の人を背負っていた、これも近所の高校の制服だ、やっぱり一昔前だが、肩ほどまである黒髪で、まぁ悔しいけども美人、目がいい感じに細くて唇もいい感じに薄い、儚い感じの美人。

「ぜぇ……ぜぇ……これサトコちゃんのね」

 ベンチにぞんざいに投げられる美人。地面に投げないだけ思いやりが感じられるけども……

「え? これ人ですよね?」

「……はぁはぁ、厳密にひぃ……厳密には違う……会社の方針で……何か……何かの手違いがあったらいけないから……自殺とか事故とかで……死を選んだ人間は型をとるのね、見た目の型を……それを……ちょっと失敬して来たの……」

 言いたいことは大体理解した、要するにこれを使って祭りを満喫しろと。

 彼はえらく衰弱していた、瞬間移動ってそんなに体力を使うのかしら?

「水……ありますよ」

 公園にある給水器に手を伸ばすと彼はそれに向かって一直線に向かっていった。なんだかゾンビゲームみたいだった。

 そして私はベンチに寝転がる美人さんと向かい合った。 

 いや、これを私の分って言われても正直困る。

「キャンプしたことある? 寝袋に入る感覚でいいよ」

「はや!」

 水を飲んだであろうミカミさんが後ろから言った。

「つか体つらい……マジ体重い」

「そんな大げさな」

 寝袋に入ったことはないが、布団をかぶるのと似たようなものだろうと高をくくり、いっちょ彼女の中に入ってみる。


 彼女の中は真っ暗だった。恐怖と不安に少し悲鳴を上げてしまった。その後に、目を瞑っているのだから当たり前だと気づいて、五秒前の私を殴りたくなった。

「うわっ!」

 夕方だというのに目を開けるとすさまじく眩しかった。

「その型にとっては久方ぶりの太陽だからな、しばらくしたら慣れる」

「はい……」

 右手で目を覆いながら体を起こすと確かに少し重い。きっと前が軽すぎたのだろう。

「金の心配はするなよ、ホレ」

 ミカミさんは制服の内ポケットから高校生らしいオトナっぽくも子供が残っている財布を取り出すと中身を見せた、諭吉がぎっしりだった。

「なんでこんなに」

「向こうの世界に金を持っていく奴は一杯いるんだよ、必要ないから直ぐに集められるんだけどな、ま、謝罪の気持ちって奴よ」

 本当に高校生がするように悪戯っぽく笑うと、それをまた内ポケットに戻した。

「それじゃいっちょ行こうか」

 ミカミさんは私の手を引いて足早に公園を出ようとする、えらく乗り気だ。

「いや、そもそも何でついてくるんですか」

「そりゃぁ君がなんか妙なことしないためだよ、いや一応信頼してるけどね、なんかあるとこっちの世界の人にも迷惑がかかっちゃうから、それに」

 彼は私の手を引いたまま道路に飛び出した、あわてて彼の腕を掴み歩道に戻す、車がめったに通らない道路だったからよかったものの。

「ちょっとこっちを楽しみたくて……ところで祭りってどこでやってるの?」

 私が怒る前に彼は子供の様に笑った。

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