似合わない武器 ─ 格好良さは、時々理屈より先に来る
─ 向いているかどうか
間違えないかどうか
それとは別の理由で
人は何かを選ぶことがある ─
「割るなよ。割ったら殺すぞ」
第一声がそれか。
「──って、御者に言っといて」
それだけ言い残すと、イーヴォはベッドへ倒れ込み、毛布を被る。
これでもかと言わんばかりに厳重に梱包されたそれはずっしりと重かった。
「? 水呼び板だけにしてはやけに重いな」
「……導膠……緩衝層……二重……」
「イーヴォさん?」
「…………」
とりあえず、任されたという事だけは分かった。
* * *
フェイと共に御者組合に行くと、四頭立て馬車が出発の準備をしていた。
「荷馬車と比べると、御者台がずいぶん高いんですね」
馬具を締め直している御者にフェイが尋ねた。
「客を揺らさねぇためだ。視界も取れるしな」
フェイは御者台を見上げる。
「……それなら武器はもう少し長めにしないと」
「武器って昨日のアレのことか?」
「そうです」
俺は昨夜、乗ってきた馬車から荷物を回収する際に見せてもらった、“武器になるもの” を思い出していた。
* * *
「……えーと、もしかして武器ってそれのこと?」
大抵のことは瞬時に受け入れるイーヴォが困惑している。
フェイが御者台から掲げてみせたのは、長柄の四本爪フォークだった。
「匂いの強い食品とかを積んでると野犬が寄ってくることがあるんです。御者台から使えて便利ですよ」
「それ武器っていうか、干草運ぶやつだろ。──いや待てよ、先端尖らせたらワンチャン行けるか」
「犬除けなら十分だが、対人には向かないな」
「自分もこれはあまり持って行きたくないんです。恥ずかしいから」
「やっぱ武器は威圧感が大事だよな」
見た目だけは豪奢なレプリカ杖を構えて悦に入るイーヴォ。
「威圧とかはどうでもいいんですが」
そう言いながら、足元から端切れを縫い合わせた布を取り出す。継ぎ布を何枚も重ねた分厚い作りだった。
「もしかして刃先のカバーか?」
「母が『往来で危ないから』って作ってくれたんですが、柄が可愛すぎるんです」
「……丈夫そうだな」
花柄の端切れまで混じっている。細かい縫い目がやけに丁寧だ。
「いいじゃん。物を大事にする家って感じがする」
俺はベルトに通した腰のチャームへ視線を落とした。母が銀を巻き、空色の石を添えた白兎の足だ。
旅に出てからも、時々それを握る癖が抜けなかった。
「……大分くすんできたな。時々手入れはしてるんだが」
「それくらいなら『有機結合解除』で落ちるって言ってんのに」
イーヴォが八年前に〈兎の尻尾亭〉で買ったチャームは新品同様の白さを保っている。
「……そう言えば、なんで “尻尾亭” なんだろうな。壁は兎の足で埋まってるのに」
「それな」
* * *
「おい、ちっと動かすぞ。少し下がれ」
御者の声に、意識を引き戻される。
「あ、邪魔ですよね。すみません」
「そういう訳じゃねぇが、危ねぇからな」
そう言うと、車輪に足を掛け慣れた動きで御者台へ上がる。
「ステップは無いんだな」
「よじ登るって感じですね。それに思ったより狭そうです」
そこに座る自分を想像しているのか、フェイはしばらく御者の動きを見つめていた。
* * *
──中央の武器屋は、ザエッダとはかなり様子が違っていた。
剣、槍、斧、弓──。壁一面に並ぶ武器の種類は豊富だ。しかも、どれも洗練されている。
(良く出来ている。だが……)
職人の癖や意図が見えない。誰が使っても一定以上に扱えるように作られているようだった。
しかし今回に限っては、その方が都合が良かった。
「俺は弓以外の武器は短剣くらいしか使えない。だから、長柄武器の戦い方までは教えられないが……使い方が合ってるかどうかくらいなら分かる」
壁にかけられた武器はどれも刃を落としてある。
四本爪フォークの延長で使うなら、又槍辺りが近いだろう。そう思って見回すと、ちょうど良さそうな武器があった。
「“軍用フォーク” ですか。初めて見ました」
「俺もだ。まぁ、試してみるといい」
壁から外してフェイに渡す。見た目よりは軽く、重心も中央寄りだ。
「これなら違和感なく使えそうです」
腰溜めに構えると、押し出す動作から横に払う。完全に干し草を運ぶ動きだ。だが、突きの軌道は安定している。
「思ったより様になってるな。悪くない」
「長さも丁度いいです」
「これに決めるか?」
「そうですね……」
ぐるりと見渡したフェイの視線が壁の奥で止まった。
「……あれは?」
他の武器より一回り大きい長柄武器だった。斧刃の反対側には鈍く尖った槌頭。さらに上部には、分厚い突起が伸びている。
「ポールアックスだな」
「格好いいですね。なんか色々出来そうだし」
確かに、切る・突く・叩くの万能武器だ。だが、長槍ほど扱いは単純じゃない。
「見た目ほど素直な武器じゃないぞ」
「そうですか……」
あからさまにがっかりされると、夢を壊したようで気が引ける。
(使ってみれば分かるだろう)
「持ってみろ」
手渡した途端に、ヘッドが揺れた。
「これは……先に引っ張られる感じがしますね。重い」
フェイは腰溜めに構え、そのまま押し出す。
「それだと槍と変わらないな」
しばらく振ったり叩いたりの動作を繰り返していたが、先端の重さに動きが遅れる。
「うん。やっぱり、これにします」
「……そっちか」
「間違ったらまた選び直せば済むことです。使ってみたいんです、これ」
──間違えたら選び直せばいい。──
簡単に言う。
だが、フェイは適当に選んだ訳じゃない。
重さも、扱い辛さも、自分の動きの鈍さも理解した上で、それでも「使ってみたい」と言った。
(……そういう選び方も、あるのか)
俺なら多分、まだ選べない。
─ End ─
【次回予告】
徹夜明け魔導士は信用ならない。
継ぎ足し続けた魔法陣は、もはや何をしているのか本人以外よく分からない。
だが、その調律が生み出した光は、確かに“面白い何か”へと繋がっていく。
※次回は、『ザエッダの弓手 15:継ぎ足しの魔法陣』の予定です。




